ワイバーンの追撃を凌げ
「ワイバーンが3、追ってくるわ!」
エリーヌが報告するが、すでにクロスもザリードも自分の目でも捉えている。
1頭がクローラーを狙って一直線に降下してきた。
「目を狙えば・・・」
クロスの横で弓を引き絞るエリーヌ。
クロスはクローラーを停止させた。
「待ってください。1頭ずつ確実に仕留めましょう。あの1頭は私に任せてください」
運転席から身を乗り出したクロスはライフルを構え、近づいてくるワイバーンに狙いを定める。
狙うは頭部、両目の間。
速度は速いが一直線に向かって来るので狙うのは容易だ。
「クロス、任せるぞ!」
ザリードの声を受けながらクロスはゆっくりと引き金を引き絞る。
・・・バンッ!
轟音と共に放たれた弾丸はクロスの狙い通りワイバーンの眉間を貫いた。
ワイバーンが力を失って落下する。
眉間から入った弾丸が脳を破壊し、即死したのだ。
「よし、ワイバーン程度の頭蓋なら撃ち抜ける」
槓桿を引いて次弾を装填し、続けて降下してくる次のワイバーンに狙いをつける。
しかしクロスは直ぐに構えを解いて上空を見上げた。
「チッ!駄目か・・・」
「どうした?」
ザリードの問いに首を振るクロス。
空を見ればワイバーンは降下を止めて旋回を始めている。
「末端とはいえ流石は竜の一族です。今の1発で私の銃を学習しました」
残り2頭のワイバーンは上空に逃れ、旋回しながらこちらの様子を覗っているが、諦めた様子はない。
「厄介な相手だな。だが、俺達も諦めなければいけない状況でもないな。残り2頭は俺達がなんとかするからクロスはこいつを走らせてくれ。但し、人里近くまで引き連れていくわけにいかないからゆっくりとな」
「分かりました」
クロスは運転席に戻るとクローラーをゆっくりと発進させる。
「2頭同時に旋回しながら降下してくるわ!」
エリーヌの声を聞いたザリードは身を乗り出して杖を構えた。
「エリーヌ、お前の矢に雷撃を乗せる!右の奴を狙えっ、翼の付け根だ」
「分かったわ」
「ギムリーとジーナはワイバーンが落ちたら一気に仕留めてくれ!」
「了解だ!」
「・・・」
ギムリーは戦斧を手に、ジーナは無言で剣を抜き、クローラーから即座に飛び出せるように構える。
「よし、エリーヌ、やれっ!」
ザリードの合図でエリーヌが矢を放つ。
「サンダーボルト!」
放たれた矢にザリードが雷撃魔法を被せる。
魔法により威力を増した矢は正確にワイバーンの翼の付け根に突き刺さった。
飛行しながら仰け反ったワイバーンが、バランスを失って落下する。
空を飛び回るということは非常にデリケートであり、ちょっとした影響で飛ぶ力を失ってしまうことは珍しいことではない。
翼の付け根に刺さった矢を通して電撃を受け、翼を支える筋肉が硬直したことにより揚力を失ったのだ。
「クロス、止めてくれっ!」
「分かりました」
クローラーを停止させるとギムリーとジーナが飛び降りて落下したワイバーンに向かって駆ける。
ワイバーンが再び飛び立つ前にジーナが翼を斬り飛ばし、ギムリーが首に戦斧を叩き込んだ。
これで2頭目のワイバーンを仕留めたが、気を抜いている暇はない。
最後のワイバーンがギムリーとジーナ目掛けて急降下してきた。
2人が武器を振りかざすのを見て、接近戦しか出来ないことを学んだのだろう。
確かに目を見張る学習能力だが、結局はそれまでだった。
流石は竜種とはいえ、獣と一緒である。
目の前の獲物に気を取られて周囲への警戒が疎かだ。
「ファイアストーム!」
ワイバーンの爪がギムリー達に届く直前、2人をを追ってクローラーを飛び降りたザリードが至近距離から放った炎の渦がワイバーンを包む。
体表だけでなく、一瞬にして口腔内、喉、内臓にまで炎が入り込み、体の内と外から焼かれるワイバーンはしばらくの間、のたうち回った後に息絶える。
これで追ってきたワイバーンは全て仕留めることができた。
「ヤバかったがどうにかなったな」
そうはいっても、クロスが仕留めた最初の1頭以外は難なく仕留めたザリード達。
結果的には目的のつの熊だけでなく貴重なワイバーンの素材を入手することができた。
ワイバーンの素材採取が終わるとクロス達は水の都市に向けて再び走り出した。




