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魔王復活

 ザリード達を乗せて目的の森に到着したクロス。

 ここでザリード達を降ろしてクロスはさらに先にある月の湖まで行き、素材採取した後に帰り足で再びザリード達を乗せて水の都市に帰る予定だ。


「しかし、こいつは凄いな。移動速度だけじゃなく、硬い装甲に守られて並の魔物じゃ相手にもならない。クロス、これだけで商売できるんじゃないか?」


 普段は悪態しかつかないザリードが正直な感想を口にする。


「それも考えているんですが、直ぐに行き詰まりそうな気がします。速度が速く、重装甲ですが、どちらも中途半端ですからね。馬車よりも速くて固いだけではね・・・」


 クロスはクローラーを非常に便利で有効な道具であるとは理解しているが、その性能を過信してはいない。

 今のところ思いつくのは今回のような輸送の仕事だが、これだけでは冒険者としての仕事は立ち行かないと考えているのだ。


「ふんっ。まあ俺達には関係ないことだからな。取り敢えず俺達は角熊狩りに行くから帰りも頼むぜ」

「分かりました。明後日にこの場所で」


 ザリード達と別れたクロスは自分の目的地である月の湖に向かってクローラーを走らせた。



 クロス達が仕事に奔走していたその頃、とある地下迷宮の底にある地下城において1人の少女が長い眠りから目覚めようとしていた。

 美しい銀髪に透き通る程に白い肌、人ならざる美しさを持つその少女の名はシルクール・ラグナール。

 数百年前、世界征服を目論み数十万の軍勢で世界を蹂躙し、人々を恐怖のどん底に陥れた魔王だ。

 シルクールはその野望を阻止しようと戦いを挑んできた勇者との戦いに敗れ、いつしか人々の記憶からも忘れ去られていた。

 しかし、魔王シルクールは滅んではいない。

 勇者との戦いに敗れたシルクールだが、勇者もまた魔王を滅することはできなかったのだ。

 そうして魔王は長い眠りにつき、復活の時を待ち続けていたのである。


 そんな魔王城の一室、数百年の時を経たにもかかわらず朽ち果てるどころか、たった今シーツを交換したのではないかと見まごうばかりに綺麗に整えられた寝台でシルクールは目覚めの時を迎えた。


「・・・・」


 目を覚ましたシルクールはゆっくりと起き上がると周囲を見回す。

 数百年の眠りから覚めてもシルクールにとっては見慣れた寝室だ。


「随分と長い眠りについていたようだ・・・。覚醒するまでにどれ程の期間を要したのか・・・」


 ずっと眠っていたせいか、体が思うように動かない。

 まだ完全には回復していないのだろう。


 寝台から抜け出したシルクールは壁に取り付けられた巨大な姿見鏡の前に立った。


「・・・なっ!なんじゃこれは!」


 鏡に写る自らの姿を見て驚愕の声をあげるシルクール。


 その声に反応したのか、寝室の扉が開き、1人のダークエルフの女性が姿を見せた。


「あっ、お目覚めになられたのですね?」


 魔王に対して随分と軽いノリで話し掛けてくるダークエルフだが、シルクールは全く気にしない。

 それよりも重要なことがある。


「なんじゃ妾のこの姿は。何故こんなチンチクリンの小娘になっている?妾はもっとこう、魔王らしくナイスバディだったはずじゃ!」


 動揺するシルクールだが、ダークエルフは冷めた表情でシルクールを見下ろす。


「シルクール様は勇者との戦いに敗れ、その力の殆どを使い果たしてしまいました。それはもう、身体を維持することができない程にです。そこでご自身の身体を縮小され、残された僅かな力を維持しつつ、深い眠りについていたのです。まあ、私も父から聞いただけで、詳しいことは分かりませんけど・・・」


 シルクールは改めてダークエルフを見た。

 どうにも冷たい口調で話す女だが、全く見覚えがない。


「ところで、お前は誰じゃ?」

「私はシルクール様の側近としてお使えしていたダグル・イナールの子、アリア・イナールです」


 ダグル・イナールはシルクールの最側近として使え、シルクールが全幅の信頼を寄せていたダークエルフの魔導師だ。


「おお!イナールの娘か。彼奴に娘がいたとは知らなんだが。まあいい彼奴は何処におる?妾が目覚めたことを知らせてやらねば」


 シルクールの言葉にアリアはため息混じりに答える。


「百年以上前にとっくに引退しましたよ。面倒ごとを私に押し付けて、故郷の森に帰りました」

「なぬ?引退した?妾を放っておいてか?」 

「シルクール様がいつまでも目を覚まさないからです。かつては大魔導師とまで呼ばれた父も寄る年波には敵いませんでした。魔力も弱まり、認知機能の低下もみられたので引退し、故郷の森で悠々自適の隠居生活を楽しんでいます」


 シルクールは愕然とする。


「イナールがいないなら、ベレスフォードは何処じゃ?魔王軍第1師団長の暗黒騎士ベレスフォードは?」

「私はお会いしたことはありませんが、2百年程前に亡くなられたと聞いています」

「ベレスフォードまでもがか?・・・そうじゃ、ならば第3師団長のオーレーンは?彼奴は死霊王で、率いるのも死霊の軍団じゃ。奴なら・・・」

「オーレーン様達も朽ち果ててしまいましたよ」

「なんじゃと?」

「シルクール様、勇者との戦いの際に父やベレスフォード様、オーレーン様に戦わせずに、率先垂範でご自身で戦われたと聞いております」

「それが上に立つ者の責務じゃからな」 

「おかげでシルクール様が眠りについた後、残された皆はどうしたものかと判断がつかなかったそうです。直ぐに目覚めるかと思って待っていたら全然目が覚めないもので、ベレスフォード様は亡くなられるし、父はボケ・・・認知機能が低下するし。挙げ句にオーレーン様達死霊の軍勢を出しっぱなしにしたでしょう?如何に不死の軍勢であっても数百年も放置したままでは朽ち果てて当然です」

「そうすると、残っているのは?」 

「誰もいません。強いて言えば父からシルクール様の面倒を押し付けられた私だけです」

「面倒、押し付けられたって・・・」

「加えて言えば、目覚められたとはいえ、シルクール様は魔王としての力どころか、そのお力の殆どを失っておられます。今のシルクール様のお力はせいぜい新米冒険者程度です。もしもシルクール様が目覚めたことが知れ渡れば、勇者や英雄どころではなく、その辺の冒険者に容易く討伐されてしまいますよ。因みにこの地下城に通じる迷宮も冒険者達の探索の手が入り、この城まであと15階層にまで踏破されています。冒険者がこの城に到達するのも時間の問題ですよ」


 とんでもない現実を突きつけられるシルクール。


「えっ?それって妾の身が危ういのでは?・・・どうしよう」


 目覚めた魔王の前途は多難だった。

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― 新着の感想 ―
 タイトルを見て、今までとゆるやかな展開から一転して世界の危機か? と思わせておいて、さらにゆるい展開になりそうですね(笑)  シルクールとクロスが、如何にして邂逅するのかが楽しみです。  
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