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冒険者ザリード

 翌朝、冒険者ギルドを訪れたクロスは掲示板に余っていた月の湖周辺での素材採取依頼をまとめて受諾した。

 月の湖は水神の迷宮や氷山の洞窟よりもさらに遠い場所にあり、付近には人の住む村すらない僻地であり、余っていた依頼の報酬の総額を見ても、儲けよりもリスクの方が大きい仕事だ。


「それではこの3つの依頼をクロスさんが引き受けてくれるのですね?」


 相変わらずの無愛想、というより不機嫌そうな表情のフィオナだが、手続きを進める手はスムーズだ。

 

「はい、余らせたままにすると依頼者が困るだろうから私が片付けてしまいますよ」


 依頼が受諾されないまま余ってしまってしまうと依頼者だけでなく、冒険者ギルドとしても困ってしまう。

 クロスが余りものの依頼を率先して引き受けるのはいつものことだし、それをギルド職員がとやかく言う権利はない。

 権利はないといっても、助言すること位はよくあることだが、クロスには何を言っても無駄だし、ギルドとしても、クロスのような冒険者は重宝し、非常に助かっていることも事実だ。


「はい、それでは依頼受諾の手続きは完了です。くれぐれも気をつけて行ってきてください」


 あくまでも事務的に、端的に仕事をこなすフィオナ。


「おい、臆病者。クロスお前、月の湖に行くのか?」


 突然声を掛けながら近づいてきたのは水の都市の冒険者ギルドに所属する冒険者、魔術士のザリードだ。

 クロスに対して失礼な物言いのザリードの顔を見たフィオナは今度こそ完全に不機嫌になった。

 但し、不機嫌な表情を隠しもしないが、それを口に出したりはしない。


 ザリードは大男の戦士ギムリー、無口な女騎士のジーナ、ハーフエルフの弓士エリーヌの4人で構成しているパーティーのリーダーだ。

 ザリードのパーティーは全員が中級上位の紫等級で、優秀なパーティーではあるのだが、他の冒険者からの評判は芳しくない。

 というのも、ザリードは他者を見下すような物言いや態度を隠そうともしない高慢な性格であり、他の冒険者との衝突も多いのだ。

 しかし、引き受けた仕事の達成率は高く、その性格を補っても余りある実績を有しているため、クロスとは違う意味でギルドからは高い評価を受けている。


 そんなザリードは普段なら見下しているクロスに声を掛けることは無いし、あったとしてもクロスに絡んで悪態をつく程度であり、クロスの方はザリード達に何を言われても相手にしておらず、衝突らしい衝突は起きたことがない。


「はい。余っていた依頼を片付けてしまおうと思いましてね」


 クロスの返答にザリードは心底軽蔑したような視線を向ける。

 ザリードの仲間達も皆同じ態度だ。


「またそうやってチマチマと点数稼ぎかよ。って、そんなことはどうでもいいや。クロス、お前変な車を手に入れたらしいな?魔法車か何かか?」

「魔法車とは違いますが、まあ似たようなものです」

「聞いた話では、何人もの人や荷物を乗せられるって?」

「はい、8人程度なら乗れますよ。荷物もそれなり、8人分の荷物なら一緒に乗せられますよ」

「例えば、俺達4人と手荷物の他に、角熊なんかは乗せられるか?」


 角熊とはその名のとおり、1対の角を持つ魔物である。 

 主に人里から離れた森の中に生息しており、体長は1.8メートル程だが、すばしっこく獰猛な性質で、旅人や木こり、時には冒険者までもが襲われて犠牲になることがある。

 その反面、角や内臓は様々な薬の材料となり、肉は非常に美味、骨や毛皮も素材として活用できるため、狩ることができれば捨てるところは無く、高値で取引される魔物だ。


「生きている角熊でないなら、4人の他に車内に1頭、車外に括り付けるなら、他に2頭位なら乗せられますね」


 クロスの説明を聞いたザリード達はお互いに頷き合う。


「クロス、お前に頼みがある。月の湖の手前にある森まで俺達を乗せていってくれないか?そして、帰り足で拾ってきてほしいんだ。勿論金は払う」


 聞けば、ザリード達のパーティーは角熊狩りの依頼を受けたのだが、角熊が生息している森は遠く、狩った後の輸送も厄介で、馬車か荷車を手配して行こうとしていたところにクロスを見かけたというわけだ。

 悪態をついた挙げ句に仕事の頼みとは無礼にも程があるが、クロスもザリードも互いに気にしていない。


「それは構いませんが、行きはともかく、帰りはどうするんですか?皆さんを森に降ろした後で私は月の湖まで行って素材採取をしますが、2日程でまた森を通ります。その2日間で目的の角熊を狩れるのですか?それとも角熊を狩れるまで私に待っていろと?」


 ただ乗せていくなら大した手間ではないが、危険な森の中でザリード達が角熊を狩るまで待つとなると、いかにクローラーがあろうともリスクが高い。


「いや、2日もあれば十分だ。もしもお前が戻ってきた時に俺達が約束の場所にいなければ置いて帰ってくれて構わない」

「それならば引き受けましょう」


 クロスが承諾したところでザリードはフィオナを見た。


「聞いただろう?俺達はクロスに仕事を頼むからさっさと手続きをしてくれ」


 フィオナに対しても見下すような口調で話すザリード。


「・・・分かりました。依頼の受理手続きをします」

「チッ!相変わらず愛想のない女だな!よくそれで受付職員なんかやってられるもんだ」


 悪態をつくザリードだが、フィオナもクロス同様に相手にすることはないし、ザリードも手続きさえ済めばそれ以上絡むこともない。


「手続き完了しました。・・・気をつけて行ってきてください」


 機嫌が悪いフィオナだが、送り出す言葉はクロスだけでなく、ザリード達にも向けられていた。

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― 新着の感想 ―
「手続き完了しました。・・・気をつけて行ってきてください」 完了したと言っても、依頼の報酬の話が出てないけど、報酬は後決めなの?
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