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夜道を駆け抜けろ

「ついでにって、間もなく日が暮れますよ!夜の道を水の都市までって正気ですか?夜は魔物も活性化します、危険すぎます」


 クロスの申し出に驚きの声を上げるセシリア。

 セシリアの言う通り、夜の移動は余程のことがない限り多くの冒険者が避ける危険な行為だ。


「クロスさん、セシリアの言う通りです。水の都市に乗せていってくれるとはいっても、魔物に襲われた時、今の私達では満足に戦うことができません。セージを、私達の仲間を救うためにクロスさんにそんな危険なことをさせるわけにはいきません。夜明けを待ちましょう。セージもきっと大丈夫ですから」


 エマはそう言うが、セージの状態ではイーナの力を借りても朝まで持つかどうかも微妙なところだ。

 クロスもそれなりに経験を積んだ冒険者の端くれなので、その程度のことは分かるし、エマ達がクロスに気を使ってくれていることも分かる。


「別に問題ありませんよ。乗っていかないというなら私1人で帰るだけです。それに、乗せていくといってもタダでとは言っていません。これまでのことは緊急事態ということで何も請求しませんが、水の都市まで乗っていくというなら・・・そうですね、3人で2千レトで引き受けますよ。依頼手続きは水の都市に戻ってからの事後手続きで構いません」


 あえて依頼として受けるという体裁を示すクロスだが、提示した2千レトは夜の危険な道を怪我人を運ぶことの報酬としてはあまりにも安すぎる。

 新米冒険者が引き受ける素材採取レベルの報酬だ。

 

 エマとセシリアは互いに顔を見合わせる。

 クロスは危険な仕事をただでは請け負わないと体裁を整えてくれた。

 そして、その選択肢に伸るか反るかはエマとセシリア次第だ。

 2人は互いに頷き合う。


「「宜しくお願いします!」」

「分かりました。引き受けます」


 クロス達は直ちに出発の準備を始めた。


 意識がないままのセージを後車室に運び込む。

 変わらずに座席に乗せるわけにはいかず、床に寝せることになるが、イーナの好意で床に厚手の毛布を敷くことができたのでセージへの負担も多少は軽くなる筈だ。


「到着予定は夜明け前の3の刻といったところです。本当ならもっと早く到着できるのですが、私も暗闇の中を高速で走らせることはできませんからね」


 セージを乗せ、出発するためにクローラーのエンジンを掛けるクロス。

 クロスのクローラーには照明に関する装備が無い(実際には前照灯はあるのだが壊れている)ので、暗闇の中を走らせるのは危険なのだ。

 そんなクロスの何気ない一言にエマがクロスを見る。


「暗闇の中をって、照明があればいいのですか?」

「そうですね、進路の先を照らす何かがあれば・・・」


 エマは自分の魔力量を確認する。

 消耗して枯渇していた魔力だが、少し休んだせいか僅かに回復している。

 

「クロスさん、私は照明の魔法を使えます!照明があればもっと早く着けるのですよね?」


 照明の魔法は暗いダンジョンの探索や、夜間の活動時には便利な魔法だ。

 魔術士としては初歩の初歩の魔法で、魔法使いであればできて当然の魔法であり、魔力の消耗も少ない。

 今のエマなら一晩中行使することができる程度の魔力はある。


 エマは実際に照明魔法を使ってみせた。

 特に詠唱をすることもなく、エマの杖の先から強い光を放つ光球が発現すると、フヨフヨと移動して少し先に浮かぶ。


「あの光球は私の視線の先に飛ばすことができます。20メートルでも30メートルでも先行させることが可能ですが、お役に立ちますか?」


 光量は十分だ。

 これならば問題なく走れる。


「大丈夫です。これならばもっと早く水の都市に到着できます」


 そうとなれば1秒でも時間が惜しい。

 クロスはエマを運転席横の座席に座らせると、エマの放つ光源を頼りに走り出した。



 出発して間もなく日も暮れて周囲が闇に包まれたが、クローラーは最高速度に近い速度で疾走する。

 

 比較的整備された街道は高速度で進み、荒れた道では振動によるセージへの負担を考慮して速度を抑える。

 前席はオープントップのままで走行しているので前方からの激しい風がクロスとエマを襲う。

 運転しているクロスは予め用意してあったゴーグルを装着しているが、エマにはそれが無い。

 加えてエマの長い髪が風に乱され、それが鬱陶しくなったエマは髪を縛って凌いでいる。


「クッ、クロスさん。こっ、これっ、凄いですねっ!」


 クローラーの驚くべき能力に知識を武器とする魔術士であるエマの語彙力が低下しているがそれも仕方ない。

 事実、多少の倒木は踏み砕き、ちょっとした小川ならばものともせずに突き進む。

 ここまでに2、3度野盗や魔物に遭遇したが、目の前を塞がれても意に介せず、全く速度を落とさない鉄の塊に蹴散らされるように逃げ出しただけだ。


 そして、夜の闇の中を駆け抜け(爆進?)、日が変わる前には水の都市に到着することができた。


「止まれーっ!って、おいっ、クロスじゃないか?こんな夜中に一体どうした?」


 幸いにして都市の入口で夜衛をしていたのは顔なじみの衛士だ。


「緊急です。大怪我を負った冒険者を運んできました!」


 クロスの説明を受けて後部車室を確認する衛士。


「こいつはひどい。分かった!通ってよし!今夜の夜間受け入れ担当は西地区のトルシア教会と南地区の診療所だが、お前のデカブツじゃ南地区の路地には入れん。トルシア教会に向かえっ!」

「分かりました、ありがとうございます」


 夜中だというのに迅速に通過の手続きを済ませてくれた礼を言って再びクローラーを発進させるクロス。


「おいっ、クロスッ!この時間でも中央通りは人通りがあるからなっ!安全運転で行けよっ!」


 この時代に新たに生まれた言葉を受け、クロスはトルシア教会へと急いだ。

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