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緊急搬送

 瀕死の重傷を負ったセージを救うべくクローラーを走らせるクロス。

 丘陵部の底の斜面を麓に向かって急ぐクロスだが、周囲への警戒は怠らない。

 周囲に異様な気配を感じたクロスはオープントップの状態だった運転席の装甲板を閉じた。


 一方、後部車室に乗るエマとセシリアは揺れる車内で怯える子供達をなだめながら相変わらず意識の無いセージの様子を見ている。


「セシリア、セージの具合は?」

「中が暖かいせいか体温は戻ってきて、凍える心配はなさそうだけど、危険な状態に変わりはない。本当に時間が無いわ」


 密閉された車内にいるのでどれ位の速度で走っているのかは分からないが、一般的な馬車や魔法車で雪の中を進むことを考えると人の足よりもマシだという程度だろう。

 クロスは『日暮れまでには麓の村に戻れる』と話していたが、それが本当に可能だとは考えられない。

 エマ達を安心させるための方便なのだと思う。


・・ゴンッ・・・ガンッ・ガンッ・


 何やら天井や側面から異様な音が聞こえてくる。

 何かが衝突しているような音だ。


「うぅ・・・怖いよぅ・・・」


 ランタンの灯りがあるとはいえ、外の様子が分からない車内で子供達が更に怯えだす。


 エマは車室と運転席の連絡用の窓から運転席のクロスに声を掛けた。


「あの、クロスさん。さっきから聞こえているこの音はなんですか?」


 運転席を覗き込んでみれば、さっきまで開いていた天井と前面の装甲板が閉じていて、クロスは前面の窓を覗き込むようにしながら運転している。


「ああ、大丈夫ですよ。さっき取り逃がしたイエティが仲間を連れて戻ってきたみたいです。丘の上から石やら何やらを投げつけてきていますが、クローラーの装甲なら投石程度では問題ありません。直ぐに振り切りますから心配しないでください」

  

 慌てた様子も無く、冷静にハンドルを握るクロス。

 ふと見てみれば前面の窓から見える外の景色が飛ぶように流れていく。

 足場の悪い雪の中で信じられない程のスピードだ。

 この速度ならイエティの追撃を振り切れるだろうし、日暮れ前に麓にまで下りられるかもしれない。


「凄い。この速度なら雪狼でも追いつけないかも・・・」


 思わず呟くエマにクロスは前を見たまま答える。


「速いといっても雪の中ではこれが限界ですからね、流石に狼からは逃げられないと思いますよ。それに、イエティを振り切れるといっても麓の村にまで追ってこられると厄介ですからね」


 そう言ってクロスはイエティの投石から十分に距離を取るとクローラーを停止させ、運転席の横に置いたライフルを手に天井の装甲板を開いて身を乗り出した。


「クロスさん、何を?」

「この辺でイエティを追い払います」


 槓桿を引いて弾丸を装填し、丘の上に狙いをつけるクロス。


「イエティは5体か・・・」


 下からの撃ち上げだが、風は止んでいるから問題なく狙える。

 クロスはゆっくりと引き金を引く。


・・・バンッッッ!


 轟音が響き渡り、エマは思わず首を竦めた。

 クロスの放った銃弾はイエティに命中し、胸を撃たれたイエティが丘を転げ落ちる。


「・・当たり、次っ!」


 再び槓桿を引いて次弾を装填。


「あっ、そうだ耳を塞いだ方がいいですよ」


 今更ながらに注意するクロスはエマが耳を塞いだのと同時に引き金を引いた。


バンッッ!


 2発目も命中。

 頭を撃ち抜かれたイエティが仰け反って倒れた。


 エマの位置からはその状況は見えないが、クロスの様子からも目標を仕留めたことは分かる。

 そして、クロスの持つ銃は明らかに異質だ。


「・・・クロスさん、その銃は?」

「秘密です。・・・・・残りのイエティは逃げ出しましたね。頭の良い魔物ですからもう大丈夫でしょう」


 イエティの魂に恐怖を刻み込んだクロスは運転席に戻ると再びクローラーを走らせ始めた。


 

 クローラーで山を下ること数時間、日暮れ前に麓の村に戻ることが出来たクロス達は直ぐに村の教会にセージを運び込んだ。


「これは酷いです。私の祈りでは助けることは出来ません・・・」


 セージの容態を診たイーナは回復の祈りを行使しながらも首を振る。

 イーナの祈り力ではセージを救うことは出来ない上、村には他に医師や薬師はいないそうだ。


「そんな・・・」

「このままじゃセージは・・・」


 絶望の表情を浮かべるエマとセシリア。


「これ程の重傷だと、私の祈りでは現状保存が精一杯です。一刻も早く私よりも優秀な治療士か、専門のお医者様に診てもらってください」


 イーナはそう言うが、この村から一番近い都市は水の都市だ。

 確かに水の都市なら医師も居るし、各教の司祭クラスの神官が常駐する教会もある。

 しかし、水の都市までは徒歩で2日は掛かるが、徒歩ではセージを運べない。

 運が悪いことに次の駅馬車が来るのは明後日だそうだ。

 

「・・・どうしよう」


 途方に暮れるエマ。


「・・・あの、私の仕事は終わったので水の都市に帰りますが、ついでに乗っていきますか?」


 クロスのクローラーなら直ぐに出発すれば夜の内に水の都市に帰ることが出来る。

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