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Love And War  作者: 豆腐小僧
35/40

35 開拓村





 バダイという街がある。


 位置は東方国境線から内陸部に50キロほど入ったところ。

 北東と南東に向かって別れる大きな川の根本にある街で、東方アフグスタンで傭兵稼業をする者達の拠点になっているため、地図によってはバダイガードと表記されている街だ。

 

 歩兵が主である東方アフグスタンでは距離的にかなり離れた位置にあると思えるかもしれないが、街を挟む北東と南東に下る川を利用して一気に国境線まで行くことができるのが、この都市の最大の利点だ。


 そのバダイよりも、国境線を越えて、帝国領土以東にある開拓村ができた。

 バダイと同じような立地の村で、おそらくはバダイをモデルにしているのだろう。


 人口百名ほどの小さな集落だ。

 できて数ヶ月の村で、住民は開拓の労働者達らしく屈強な男たちばかりだった。

 家屋もなんとか雨風を防げる程度であり、いかにもできたばかりの村という体である。


 できて数ヶ月の村だが、その歴史もあと数ヶ月で終わるかもしれない。

 このような村が東方にできることは珍しくはなかった。

 『一応』帝国以東の領土拡張を目的としている帝国政府の施政により、定期的にこのような領土を越えて開拓村が作られることがあった。


 ほとんどが生き場所がなくなった者達か一攫千金を狙う者たちの行き着く先だ。

 この帝国においては『堕ちた者』の行き着く先は南方メリディナルギルベナ地方か、東方アフグスタンの開拓村と相場が決まっていた。


 しかし、大体の場合において、こういった村は一年も立たない内に異民族の襲撃を受けるか、人類以外の生物の襲撃を受けるかして、跡形もなくかどうかはべつにして、少なくとも人も物も炭か塵に変わることになる。


 当たり前の話だが、領土以東に開拓村を設ける行為は、それがどんな生物の支配する場所であろうと『縄張り破り』に違いがなく、それに対する反応もほとんどの生物間で違いがない。


 だから、この村も同じく『ナニカ』の襲撃を受けてそのうち、地図にも記載されないほどにはあっという間に、そのうちに消えてなくなるだろう。


 実際にそうなった。


 実際にそうなったのは開拓村ができてから四ヶ月だった。

 平均的。その作られた位置を考えれば平均的な誤差の範囲でまあまあ存続した方といえるだろう。


 そもそもこのように部族同盟タイタルバンドニスの勢力圏内に入り込んだ場所に村を興す事自体が無謀なのだ。

 補給物資をどのように運ぶつもりなのか。

 開拓村の村長は「それは眼前に流れるこの川を使って運ぶのだ」と答えるかもしれない。

 流れの速いその川はなるほどバダイと同じように、人や物の重要な動脈物流の基盤となり得たかもしれないが、あまりにも深部に食い込みすぎていて、孤立していた。


 よくもまぁ、こんな計画に政府は許可と支援をしたものだ。


 ただこの無謀な開拓村には少しおかしな点があった。


 住民が全て屈強な男というのはおなしな点ではない。

 おそらく、この開拓村の計画を立てたのはどこぞの有力貴族だろう。

 行き場の無くなった元軍人、もしくは囚人をこのような場所に放り込んだのかもしれない。


 おかしな点というのは村の様子だ。


 彼らは全てが真面目な労働者だった。

 彼らは全てが村の後方に広がる森林から木材を伐採することに専念していた。

 自分たちの寝泊まりする家屋を作り終えた後は、その村をまるで開拓するつもりが無いかのように、放ったらかしにして林業に専念していた。


 そして、その粗末な村にはそれにお似合いのようなピリピリとした緊張感があった。

 女子供がいないから笑い声がないのが原因に思われた。

 このような場所に来て緊張感を持たないなどそれこそおかしな点だと言えるかもしれないので、この点は良い。


 緊張感を持った屈強な男たちは、四ヶ月の村の歴史の中で数回、異民族の襲撃を受けたがその全てを退けた。


 退ける。とは相手の目的を遂行させないと言う意味ではそのとおりだが、彼ら開拓村の住人は襲撃をしてきた異民族をその場ですべて息の根を止めた。脅威から身を守るというより、狂気により殺すというより、その場で何もかもなかったことにするためのように、一人残らず逃さずに息の根を止めた。歴史の浅い村の住民でありながら、不気味な群体生物のように息を揃えて息の根を止めることに徹底した。


 そしてその村のもう一つのおかしな点はその村の結末にあった。


 林業に徹していた男たちは、ある日突然村を棄てたのだ。

 つまり、自主的に、滅ぼされたのではなく、引き払ったのだ。無謀な計画だったから、当然の判断だという意見もあるだろうが、それならはじめからこんな計画をたてなければいいのだ。

 徹底して村の存続を、存在を隠すことに徹底した、少なくともその日まで上手くそれが功を奏していた村をある日突然棄てた。


 百名ほどの屈強な男たちは、家財道具を置いたまま、まるで逃げるようにあっという間に村から消えた。


 森林から切り出した木材を利用して筏を造ると、そこに馬や荷物を載せると家財道具は置いたまま姿を消した。

 その筏を川に浮かべるとあっという間に姿を消した。


 だたし、より奥地、より東に向かって、だ。

 筏は川上から川下へあっという間に屈強な男達を運んだ。


 帝国国境線とは反対側へ。






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