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Love And War  作者: 豆腐小僧
25/40

25 常套兵器






「なんだあれは?」

 マクゲンティ将軍の副官である騎士は思わずそう零した。


 東方軍の精鋭は見事に猛攻を防ぎきっていた。


 その地位に恥じないだけの戦歴を誇る騎士は予想通りの結果に満足感はなく、警戒心を保って防御壁の調整に細かな指示を出していた。


 五大元素による魔術攻撃を両軍が(少なくとも帝国軍は意図的に)持たない状況において、袋小路に追い込まれているはずの帝国軍の方陣は部族同盟タイタルバンドニス軍の攻撃を物ともせず陣地防御を果たしていた。


 それでも満足感はなかった。


 一つはそんなことは精強どころか、軍隊としては愛すべき祖国どころか大陸最強だと自惚れなく信じている二つの主力兵団から選抜された東方軍の精鋭千名ならば当然だと考えていたから。


 もう一つは戦場において、一時の幸運に喜ぶことは致死の不幸の呼び水となることを、当然のことながら知っていたからだ。そして時に死神は生者の幸福を妬むだけでなく、ただの気まぐれにその鎌を振るうことを知っていたからだ。


 だから東方軍副将軍の副官である騎士は自然と混沌の戦場に形作られた、四角に陣取られた囲いの中から、広く視野を保って、注意深く、まるで海原に広がる水平線を眺める漁師のように平然と、戦場全体を眺めていた。


 その彼の表情が微かに歪んだ。

 四角直線に描いた防衛壁に襲いかかる蛮族共の群れ。その向こうに見慣れぬ兵装の部隊を見つけた。

 板金を縫い合わせたような粗雑な甲冑に身を包んだ、まるで自分たちの粗悪な模造品のような兵装の異民族。


 その数は百を少し超える。


 副官は正確に相手の数と動きを捉える。


 ゆっくりとその部隊は、後方から近づいてきていた。


 ゆっくりとした機動の正体は、その手にしていた兵装が原因であることはひと目で分かった。


 全身を覆う、慣れない全身甲冑が原因ではない。


 百名の兵が持つ一種類の武器のせいだ。


 その武器が重すぎてゆっくりとしか動けないのだ。

 だが、そのゆっくりとした動きでも効果は十分だと副官の騎士は思った。

 やがてその動きは目標に到達する頃には、彼らの防衛ラインを食い破るのには十分な推力を得るだろう。


 なにせ、


 そのたった『一個の武器』を扱うには百名の兵が必要なほどに、超重量なのだから。


 それは古代よりあるものだが、現在でも使われるものだ。


 甲冑胡桃オーガウォルトと呼ばれる大陸全土に分布する高さ十五メートルほどの落葉樹。

 直径五十センチ、十メートルほどの丸太に加工したものを三本、金属片を継手にして結束している。


 三本の丸太の杭先が削られ、ご丁寧に鉛によって補強されていた。


 ありふれた武器だ。

 ただし攻城兵器としては、という意味だ。


 名前も当然知っている。

 が、野戦で使われることはめったにない。威力はあるがあまりに鈍重だからだ。


 破壊槌または衝角と呼ばれる。


 攻城兵器の名の通り、硬い城門を破るための武器だ。

 金属製の円盾ラウンドシールドを持っていようと人肉の壁など紙の衝立に等しい。


 盟主アラールは読んでいた。

 副将軍マクゲンティもそれを分かっていたはずだ。


 東方軍は逃げる気などない。なぜなら部族同盟タイタルバンドニスは待ち伏せをした気でいるが、それは罠にかけたと思っているからだ。


 逃げる気がない相手であるならば、通常の平野機動戦と同様だと考える必要などどこにもないのだと、分かっていたはずなのだ。


 盟主アラールは読んでいた。

 

 帝国軍。『狐』マクゲンティ将軍が自分たちを罠にかける気ならば、時間を稼ぐ気ならば、足を止めて強固な防衛陣形を取るだろうと、読んでいた。


 脚を止めた相手ならば、機動性フットワークなど必要がない。

 思いっきり振りかぶった『見え見えに振りかぶった全力の一撃テレフォンパンチ』だろうと当たる。


 破壊槌という攻城兵器が、人肉の壁を突き破って、部族同盟タイタルバンドニスが方陣形の内部になだれ込んだのは、この少し後のことだった。






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