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Love And War  作者: 豆腐小僧
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 部族同盟タイタルバンドニス


 大陸中央に位置する大小250の部族が結んだ軍事同盟。その敵性領域は明確に帝国だと定められている。そしてその目的は日を、月を、年を経る度に強くなっている。


 流血と復讐の連鎖によって。


 元々、部族同盟タイタルバンドニスにあったのは単純な軍事的合理性にすぎない。

 人よりも優れた種が存在する世界において、少なくとも自分たちと同じ人間であり(今はもうお互いそう思っていないが)、それゆえ侵略すれば即有効活用可能な文化と豊かな穀倉地帯を持つ帝国領土への侵攻は合理性に基づいたものだったろう。

 

 だが、親を、兄を、弟を、愛する人を、子供を、女を、仲間を、殺し殺され、犯し犯され、蔑み罵倒し、晒し解体し、数十年の間に感情の糸は複雑に結び目もわからぬほど絡み合ってしまった。


 お互いが存在している事自体が悪だと疑わぬほどに。


 そして部族同盟タイタルバンドニス自体の多氏族間軍事同盟という枠組みは五十年ほど前に出来上がったが、そうは言っても単純にそれは敵性領域の明確化と単位あたりの敵数が増えただけだったのだ。


 蛮族達の戦法は『勇敢な戦士』による特攻のみ。もちろんゲリラ的な戦は異民族達の得意とするところだったが、戦略的指向性に基づいたものではなかった。あくまで個人裁量の延長線。あったとしても小隊規模以下から上級百人隊長程度での連携、つまりは個々の部族それぞれが戦略ではなく作戦を立てるのが精々だった。


 それがここ数年、その行動に部族同盟タイタルバンドニスとしての明確な意図を持つようになった。

 その行動が軍としての様相を呈してきた。


「その変革をもたらしたのが、今の部族同盟タイタルバンドニス盟主である族長さ。細かい氏族名までは覚えてないけど」


 クィントスの言葉にも、エリスはふーんとしか思えなかったのが正直なところだ。


 元盗賊で、元冒険者で、傭兵であるエリスにとって、国家の存続なんて、どっちが勝とうが負けようがあまり関心はない。このあたりはエリス個人の気質というより、東方アフグスタンで暮らす人間の一般的な感想だろう。今日までの殺し合いも、明日からの戦争も、東方アフグスタンで傭兵として暮らすエリスにとって、日常であり産業でしかないというのはそれはそのとおりだからだ。


 殺す相手が異民族から帝国民に変わったからといって何が変わるというのか。


 相手を気にするならば戦闘員か非戦闘員かの違いであって、種も民族もエリスにとっては関係がなかった。これはエリス個人の気質によるが。


 どちらもきっと同じくらい夥しい悪い奴がいて、それより少ない良い奴がいるだろう。


「ふーん、で、その族長が仕事とどう関係があるの?」

 何の気なしに、相槌のつもりで言葉を返した。


 それにクィントスも何の気なしに、言葉を発する。


「うん。だからその族長の首を頂いて、エリスは特別報奨金をゲットして借金返済した上にお金持ち、俺は武功を立ててあっというまに出世。お互いにウィンウィンでウハウハ」


 エリスは固まった。

「……」

 そして閉じていた目を開く。


「意味がわかんないんだけど?」

「え? エリスってあんまり頭が……」

「君があんまり頭が良くないことを言った気がしてね」

「そうだっけ? たしかエリスの借金が金貨3,216枚。特別武功報奨金一覧ビンゴブックの最高位に記載してある族長の値段が金貨1万枚だから……合ってね?」


 達成可能性とかこの男は考えないのか。


 そんなアイディアでいいなら、古竜エルダードラゴンの首とか、吸血鬼の女王の首とかを刈って借金返済すればいい。


 エリスはクィントスの方を見ようともせず、鼻からため息を吐いた。


「そう思うんなら、わざわざ人に話さずに自分でやんなさいな。そうすれば昇進とお金でウハウハでしょ?」


「え? やだよ。あぶねぇこと言うなよ。死んだらどうしてくれるんだ」

「……それを人にやらせようとしてる君はなんなの?」

「だってエリスは借金があるだろう。俺にとっちゃ今回の作戦は別に失敗しても成功してもどっちでもいいっちゃいい」

「じゃあ、なんでやるの」

「ま、さすがに、この歳までフラフラしてると……世間の目が、さ」

「働いたら負けとか思ってそうだものね」

「変なイメージ植えつけるんじゃありません。一応仕事してますって体をたまには見せないとね」

「やる気ないのね」

「殺し合いなんてやる気でるかよ」

「ハハ、それは同感」


 一息ついてから、エリスは、

「……それでどうして私達だったわけ?」

 群狼傭兵団アシナクランは結成一年未満の新参者で、それほど名が知れた傭兵団というわけでもない。特徴といえば規模は結成一年で団員百名を超える人数を有しており、東方アフグスタンには珍しい騎馬隊を主力兵科としているところだろう。借金が嵩んだ理由もまさにそこだ。


「それだよね」

 とクィントスは答えだ。

「ん? どれ?」

「作戦成功のために必要な兵力があって、メインが騎馬隊だってところ」


「そんなの探せばいくらでもいるでしょ。いくら東方アフグスタンの傭兵団は歩兵メインだっていっても、うちより規模の大きい騎馬隊を持っているところなんて、それこそ古参なら大手から中堅まで、ね」


「でも、そんなところは後払いで引き受けてくれはしないよ」

「あ、あー、そうか」


 クィントスの指摘通り、東方アフグスタンで傭兵を雇う場合には前払いが一般的だ。基本給は少し抑えめで、成功すればそこに成功報酬が任務完了後に支払われる。


  特別武功報奨金で全額支払うなんていう話を持ちかけられても、まともな傭兵団は引き受けたりしない。


 エリスたちのようにまともな状況じゃないなら話は別だ。

 クィントスはエリスたちが断れる状況にないと見て、話を持ちかけてきたわけだ。


 はー、とエリスは後ろに頭をもたげて、それからまた、前に落とす。はー、とため息をついて地面を見つめた。


「あんまり溜息ついてると幸せ逃げるぜ」

「もうすっからかんに逃げてるわ。ちなみにだけど仕事の内容聞いてもいい?」

「まぁ、さっき言ったとおり部族同盟タイタルバンドニスの盟主である族長の首を獲るってこと」


 クィントスは両肩をクイっとすくめた。


「馬で走って族長の首をちょろまかしてくるだけの簡単なお仕事です」






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