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古取り  作者: 関本始
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2.9 篠原詩歌

「どうして?」

答えが詩歌の”物語”の”筋書き”に生まれる。すぐに()()()()。自転車屋の残骸を通り過ぎて、歪んだ駐車場のコンビニで加奈子に頼まれた駄菓子を買う。詩歌がカウンターに腕を伸ばす。支払いのうちにエコバックに荷物を詰めている。賢さよりも、思いやりを。彼の”物語”の通底を読んでしまう。

わたしにはできないこと。”物語”は”次”へ伝えるためにある。そう決まっている。どの”筋書き”にも意味を求めてはいない。そうしてはいけない。


飢え、哀うこと

焦れ恨み、嫌悪すること

賢くあること、愚かに乞うこと

醜く、美しく咲くこと

思いやりは。


”物語”は平等にこの星の”書庫”に(しる)される。わたしはポケットの中で拳を握る。古取守の本能を抱きとめる。祥子さんが裏切った過去が胸の空洞で反響している。


 会計を終えた怯えた表情を浮かべる。人に似た、そっくりなそれと違う、不気味な”読み手”。その違和感を感じった彼は、怯えながら背中を向けて、バックヤードに消える。


駄菓子を台所に広げたあと、短く明滅する蛍光灯を取り換える。居間と交代してからわたしは顛末を伝伝える。声が砂になって灰色の絨毯に落ちている。

「戻せないんだね、それじゃあ」

加奈子がエコバック畳んで丸める。

「一緒にいるうちにわかった。詩歌が選んだ、とても力が強い。”読み手”なんだ、詩歌は」

加奈子は台所からリモコンでテレビをつけてから、テーブルの髪ゴムを拾う。赤い紐が波をうけとめる防波堤のように、彼女の肩までの髪をまとめる。テレビの音量さげる。キャスターの声が人の偽物に変わったころ、加奈子はわたしの応えを求める。詩歌の行動の理由。

「本当にはわからない。消えてしまったから。でも」

詩歌は自分で自分を消した。”読み手”の力をつかって。

「母親が文をピアニストにしたいと思っていた。真剣に文を思ってた。怖いほどに愛していた。だから・・・詩歌はその母親の心を信じた。弱い力で”物語”を変えようとする彼女に協力して、自分を書き換えた」

関係する人たちの”物語”にすら、一息に。祥子さんに、それにわたしの全力に匹敵する力だ。自覚したばかりの力で、自分をバラバラに。

「古取守の里に連れていこう。”補間”が進めば、普通に暮らすくらいできるようになる。そしたら、また自分になれるんだ。だから・・・大丈夫・・・」

加奈子がリビングにやってくる。わたしはうつむく。砂だまりの絨毯を確かめる。加奈子が詩歌の頭を撫でる音が寝息に混じる。






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