2.2^-1 幕間 加奈子の物語
風呂で温めたあとの頭をバスタオルで包むと痩せた体はその下に隠れてしまう。消えてしまったように見える。水気をすいとったらそのまま無くなってしまいそう。恥じている?何?
わたしは頭を振る。なんだ、わたしは”読み手”じゃないんだから。はっきりとなんて知れないんだ。わたしには、”運び手”ほどの容量もない。”エージェント”ほどの器量もない。特例の力も持ってない。ないない尽くしだ。ナイナイな、無味で中途なのがわたしだ。ため息を回して、鼻息に変える。
「・・・何か収穫があった?」
リビングから、並根の声がする。
「わかんないかな、まださぁ・・・」
タオルで詩歌の体を包んでいる間に、並根が続ける。
「加奈子は知ってる。・・・わたしよりずっと」
拙い作文のような声。鉛筆の筆音みたいな。たどたどしくて一つ一つ決心して進めるような。
こういう”読み手”の質をみんなが嫌になる。よくわかる。よくよくわかる。けど、わたしは大丈夫。そんなもん。友達だ、わたしは。あの時の校庭からずっと。だから観念する。茶色のバスタオルについた糸くずを集めて捨てる。リビングの並根の背中を確かめる。
「なにかを隠している。詩歌くんは”筋書き”が消えただけじゃない。隠す目的があった。それで、今の状況がある」
「秘密を隠した?犯人?」
冷えたしずくが細い髪から落ちてくる。手の甲をなでて、乾かす。詩歌くんの実態が揺れている。
「違う。犯人捜しとは別。この子を消してしまうことにした人と違う・・・と思う」
バスタオルを温度が少年の痩せた肩に戸惑っている。安物のドライヤーにスイッチをいれる。
「・・・わかった」
並根の声と気配が深夜に向かう時計のように遠くなる。やかんを火にかけたい。