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短編・ショートショートシリーズ

俺、代返してないっす

作者: 古野ジョン
掲載日:2023/10/16

 月曜一限ってのは、嫌だねえ。

俺は講義を受けながらそう思った。

今日は朝から経済学の講義だ。

必修だから、受講者はそれなりに多い。


 「はい、これ」

後ろの席から出席簿が回ってきた。

この講義は、名簿にチェックマークをつけると出席確認になる。

まあ、代返し放題のガバガバなシステムだな。


 さて、吉野葵は……と。

俺は名簿の中から、自分の名前を探した。

ん?既にチェックマークが付いているな。

誰かが間違えてつけたのかな。


 どうしたもんか。

まあ、間違えた奴が一回分の出席点を失うってだけか。

ご愁傷様、うっかりな誰かさん。

俺は出席簿を前の席の奴へと手渡した。


 次の週。

例の如く月曜一限に出席した俺は、後ろの席から出席簿を受け取る。

おや?またもやチェックマークが。

二週続けて間違えるなんて、変なこともあるもんだ。

困ったな、教授に相談するか。


 俺は講義が終わったあと、教授のもとへと向かった。

まあ、あとで代返とか疑われても困るしな。

教授は俺の話を聞いたあと、「……君が、吉野葵くん?」と聞いてきた。

「はい、そうですが」

「君の話は分かった。もう大丈夫だよ」

そう言って、教授は講義室を出て行った。


 「大丈夫」とは何だろう。

まあ、いいか。それより次は空きコマか。

俺は荷物をまとめ、図書館へと向かった。

空きコマのときは、こうやって自習をするのが習慣になっていた。


 そして、さらに次の週。

やはり、出席簿にチェックマークがついていた。

またか。三週連続となると、何かあると考えるのが自然だ。

自分の名を三週連続で間違えるなど、そうそうない。


 俺はその日の講義が終わると、すぐに教室の一番前に向かった。

そして大声で、「あの!!出席簿、いつも俺の欄にチェックしてる人いませんかー!!」と叫んだ。

だが、ほとんどの学生は気にも留めていない。

何人かは、くすくすと笑って俺の方を眺めていた。


 なんだか気味が悪い。

大急ぎで荷物をまとめ、ダッシュで教室を出た。

何が起こってるんだ?

俺、なんで笑われてたんだ?


 答えが分からぬまま、図書館に着いた。

学生証を取り出し、入場ゲートに通す。

だが、ぶーという音と共にゲートは俺を叩き出した。

何回通してみても、反応しない。


 俺の後ろに入場待ちの列が出来てしまったので、ゲートから離れた。

学生証をまじまじと眺めてみても、特におかしいところはない。

なんだろう、磁気の故障かな。

明日、教務課に持って行ってみるか。


 なんだか今日は奇妙なことばかりだ。

なんだかどっと疲れたような気持ちだ。

今日は家に帰って寝よう。

そう思い、俺は大学を出た。


 翌朝、十時くらいに目が覚めた。

疲れからか、いつもより長く眠ってしまったようだ。

いつもは朝七時には起きて、ニュースなんか観てるのになあ。

今日は午前休だから、別にいいけど。


 家を出て大学に向かうと、なんだか騒がしい雰囲気だ。

見回すと、マスコミかなんかが集団をなして学生にインタビューしている。

何かあったのかな。

俺はそれを横目で見つつ、教務課の窓口がある建物へと向かった。


 そこで俺を待っていたのは、意外な言葉だった。

「この学生証、再発行されていますよ」

「え?どういうことですか?」

「ですから、あなたが持っているのは無効化されているものなんです」

馬鹿な。俺は再発行なんかしていないぞ。


 困惑していると、さらに理解し難い言葉を投げかけられた。

「その学生証、()()()()()()()()()()()()()()()

「いや、吉野葵って書いてあるじゃないですか」

「いえ、あなたは吉野葵ではありませんよ」

何を言ってるんだ!訳が分からない。


 俺はふんと窓口に背を向け、歩き出した。

階段を降り、建物を出る。

すると間もなく、一斉にフラッシュの光を浴びた。

まるで不祥事を起こした企業の記者会見みたいに。

困惑する間もなく、待ち構えていたかのように記者が押し寄せる。


 なんなんだ一体??

そう思っていると、記者が一斉に質問を投げかけてきた。

「替え玉受験をされたというのは本当ですか!?」

「ブローカーに三千万円支払ったというのは!?」

「今どんなお気持ちですか!!??!?」

「不正入学だと話題ですが!!??」

何だ何だ何だ何だ何なんだ。


 全く身に覚えのない話だ。

替え玉受験だ?三千万円だ?不正入学だ??

そんなことはしたことがない。

何だ。本当に何だ。

そう思っていると、近くを見覚えのあるグループが通りかかった。


 コイツら、昨日俺をくすくす笑っていた連中じゃないか。

何しに来たんだ。また笑いに来たのか?

困惑と怒りで訳の分からない感情になっている。

すると、連中の一人が俺を指さし、こう言った。


 「ご愁傷様、うっかりな誰かさん」


 俺の名は、奪われた。

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