絶対零度王子とたんぽぽ姫
それは運命だった。僕達が出会ったのは星降る夜。城から抜け出し城下を見にいった時のこと。馬に乗った僕は彼女と出会った。
「王子、様?」
その眩しすぎる輝きを僕は今でも覚えている。ただ一言、王子様?と、問われた時、その陽だまりのような明るさに僕は惹かれた。
彼女の名はヒナリ・ソレイユ。彼女は平民でただのミルク売りの少女だった。
「王子様がこんなところで何をしているんですか?」
最初は少し鬱陶しいと思った。でも、今ではその言葉すら思い出すと喜びに浸れる。
「城下を観察しているにすぎない。気にするな。」
「へー、あ!そうだ!良かったら!ミルク!飲みませんか?」
「ミルクなど……」
「まあ、そう言わず!ささっ!」
小さなカップに救われたミルクはどこか優しい味がした。
「君はどうしてこんな時間に?」
「あー、ミルクが、売れなくて、遠出してみようかと……。」
「そうか。大変なのだな。」
「いえいえ、ミルクを買ってくださる方々の笑顔を見れるならこんな事程度、些細な事です!」
「そうか、ではな……」
ぐぅー。
「………////」
ヒナリはお腹が空いていた。僕は彼女に城に来るように言って馬に乗せた。
「ええ?!い、いいんですか?!」
「ああ、構わない。ミルクの礼だ。」
ヒナリを連れて城へと戻り、食べ物を与えた。
「ありがとうございます!」
彼女は夢中になって食べた。 そして、いくらか持って帰るという。それを最初に聞いた時は欲張りな人間なんだと思った。その日はそれで帰した。しかし、次の日の昼、公務で出かけているとある光景を目にした。彼女が食べ物を、貧しい子に配っていたのだ。持って帰ったのはそういう事かと、納得した。その日の夜も彼女に会った場所へと行った。
「あ!王子様!また、お忍びですか?」
「……そうだな。良ければ城に来ないか?」
「へ?」
「城で働かないか?と、聞いている。」
「わ、わた、私が?!」
「そうだ。」
「え?何故ですか?!」
「君に興味がわいた。君に傍にいて欲しい。」
「?!?!」
そうして彼女の城務めが始まった。彼女は良く笑う少女だった。その給与のほとんどを貧しい子へと与えていた。僕はそんな優しい、たんぽぽのような明るい笑顔に惹かれた。
彼女は奇特な人だった。貧しい子に優しい。そんな人になれたら良かったのに僕はなれなかった。
僕は王子の影武者だったのだ。その務めを果たす。僕は暗殺された。彼女に。
たんぽぽのような彼女にだ。何故かは知っている。国王は国民への重税を、やめる事はなかった。それが積み重なって王子暗殺を大臣にそそのかされたらしい。
彼女は泣いていた。僕を殺して泣いていた。何度も何度もごめんなさいと、誤って。そして次は彼女の番だ。処刑台へと送られる。何が悪かったんだろう?地位?時代?情勢?大臣?きっと全て悪くなかった。偶然そうなっただけだ。彼女は世継ぎの僕を殺せばこの圧政を止めさせられると言われたのだろう。
もし、違う出会い方なら、もっと、違った結末になったのではないだろうか?そう思いながら僕の意識は黒く塗りつぶされた。
読了ありがとうございました。
もし、面白い、続きが気になる方は下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価、ブックマーク、感想等聞かせていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。