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芸術は地獄変

作者: 物部がたり

 今は昔、一人の芸術家がいた。

 芸術家は幼い頃より、何かを創作することが好きで、様々なものを創作してきた。

 中でも一番才能があるのが絵だった。

 自分の才能を見極めると、目に映るものすべてを模写し、芸術家が模写していないものはないほど描き続けた。

 当然、そんな芸術家の将来の夢は画家だった。


 周囲の人々に「俺は画家になる!」と宣言すると「夢物語だ」と笑われた。

 それも当然の話で、絵で食べていけるのは運と才能に恵まれた一部の人だけで、最大多数の人々が夢破れて散っている。

 けれど、周りにどういわれようと芸術家は諦めなかった。

 芸術家は芸術の都で修行を積むため、故郷を発った。

 多くの才能ある同士と切磋琢磨(せっさたくま)して、芸術家の技術は磨かれた。

 

 一人前になると師匠の元から独立し、小さいながらも自分の工房を持った。

 少しずつだが芸術家の評判も高まり、絵の依頼が来るようになった。

 描いて、描いて、描きまくった。

 だが、芸術家は納得できなかった。

 長い修行生活でわかったのは、自分以上に才能がある者たちが履いて捨てるほどいたということだった。

 そんな自分より才能がある人々が挫折して去るのを幾人も見た。


 そして、それほど才能の感じられない者が、もてはやされる光景を見て来た。

 芸術家もその一人だと自覚していた。

 自分はただ、運に恵まれただけなのだ。

 自分よりもっと才能のある人が認められず、自分のような才能のない者が評価される。現代でいうところのインポスター症候群だった。

 そんな光景を見てくると、絵に対する幼い頃のような情熱を持てなくなった。

 だが芸術家は絵しか知らなかった。


 今から絵を辞めることはできなかった。

 アンビバレントな感情を抱きながら、芸術家は来る日も来る日も絵を描いた。

 描いた絵は、出来不出来問わず描くだけ売れた。

 評価が評判を呼び、依頼は後を絶たず。

 この世に生を受けて半世紀が過ぎようとしても、未だに自分の画風というものを確立できず、誰が描いても同じような絵になって納得を知らず。そもそも自分が描く意味があるのか疑問だった。


 自分にしか描けないものを描きたいと思って来たが、二番煎じの三番煎じしか描けていなかった。

 オリジナルを生み出す才能がないことに芸術家は気が付いた。

 芸術家の自己評価に反比例して、芸術家の名声はとどまるところをしらなかった。

 その挙句、何を思ったか、芸術家は晩年、今まで売らずに描きためていたすべての絵を燃やすことにした。


 創作活動に憑りつかれた芸術家は、スケッチからキャンバスに至るまで、描いた絵すべてを山のように積み上げて火を放った。

 もし現在、焼却された絵が残っていれば、数十億円を超える価値になっていただろう。

 芸術家は燃える絵を見ながら、その光景を描いた。

 初めて納得いくものが描けた気がした――。

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