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6 アリシアの諦め





 学園の校門前に、豪華な馬車が止まっている。

 1年前の誘拐事件に使われたような貧相なものじゃなく、車体も馬もゴージャスで気品に溢れている。

 ……わざわざ待っていたのか。




「おはよう、アリシア」


「……おはようございます、殿下」


「もう、殿下はやめてってば。学園じゃ身分の差は関係ないんだよ?」



 馬車の傍に立っていた、まだ幼さの残る顔立ちの少年が挨拶をしてきた。

 身分の差は関係ないとか言ってるけど、その王室御用達の衣装を見れば誰でも委縮するわい。


 銀髪の青眼で、年齢は13歳ほどの華奢な体格。

 しかし、気品に溢れているその顔立ちに堂々たるその姿。誰も彼を軽んじることはないだろう。


 ゲーム本編のメインヒロインもとい攻略対象の一人、『アルバート・ライフィル・ダッシュウッド』第三王子。

 この国の王族、その中でも特に将来有望だと噂されている少年王子だ。

 この学園だとほぼアイドルみたいな扱いをされていて、非常に人気が高い。


 まだ年齢が幼いのに私たちと同じクラスに通っているのは、王族としての教養を早く身に着けさせるためだとかなんとか。

 アルバートは頭がいいし、苦も無く授業についていけている。



 この子はゲーム的に言うとショタ枠の攻略対象。プレイヤーたちからも絶大な人気を誇っていた。

 ……実際、等身大の本人を目の前にすると人気が出るのも頷ける。超可愛いんですけど。



「アルバート様、わざわざお出迎えなさらずとも教室で会えるのですから、そのように長らく御立ちのままでいらっしゃらずとも……」


「いいの。僕がこうしていたいんだから。さ、行こうか」



 天使のような笑顔で手を差し伸べてくるアルバート。くっ、眩しい、浄化される、灰になりそう。

 ……本当なら、この笑顔はミラに送られているはずなのにねー。


 なんでこんなに私に対して好感度マックスなのかといいますと、例の誘拐事件で攫われそうになったのがこのアルバートなんですよ。

 馬車に押し込まれて不安で泣きそうになっていたところに、私が馬車を止めて救い出したことからまるでヒーローでも見るかのような目で(ry


 本編だとミラが証拠を掴んだおかげで助かったことがきっかけで、徐々にミラと仲良くなっていくはずなんだすけどね。

 それに対して、私があまりにも劇的な演出で助けたしたことが非常に印象的だったようで、初対面だったのに一気に好感度が爆上がりしてしまったようだ。

 要するにミラと同じだ。吊り橋効果的な。




「ミラと男二人連れながら登校した挙句、学園に着いたら王子自らのエスコートかよ。オレが言うのもなんだけど、アリシアお前どんだけ……」


「……言わないでギルガット。分かってるから、八方美人なのは自覚してますから」




 主要人物たちと友好関係を築こうとこの5年間躍起になって行動してきたけれど、正直やりすぎた感が否めない。

 はたからだと王族含めた男を複数人侍らせてる悪女に見えなくもないし。

 ……あれー? もしかして私、ある意味逆ハー悪役令嬢の道を歩みそうになってるのか? なぜだ。


 実際、憧れの目で王子を眺める視線の中に、僅かに私に対する敵意が籠っている視線もちらほら見える。

 ……主要人物たちの好感度を荒稼ぎしていたら、一部のモブたちに敵対視されるようになったでござるの巻。


 もういいや、諦めた。

 どうせどう立ち回っても恨まれる相手には恨まれるし。





「……?」


「っ! ……」




 その視線を送ってくる顔ぶれの中に、見覚えのあるキャラの顔が混じっていた気がした。

 すぐに顔を逸らしてどこかへ行ってしまったけど、誰だっけ……?







 今日の学園での授業も終わり、帰路に就く。

 帰り道はまるで登校時の逆再生のように徐々に人と分かれていって、屋敷に着くころには傍仕えのメイドさんと二人きりになっていた。



「お疲れさまでした、アリシア様」


「あなたもね。帰ったばかりで悪いけど、ちょっと喉が渇いたから紅茶とお菓子を用意してくれるかしら。あなたも疲れてるでしょうから一緒に飲みましょう」


「かしこまりました、……お心遣い、ありがとうございます」


「そんな畏まらなくてもいいわよ」



 5年前と違って、メイドさんや執事たちとも随分と打ち解けた。

 始めは急に態度が柔らかくなったことに警戒すらされていたけれど、朝みたいにずっこけたりとか凡ミスをフォローしてもらったりしているうちに、『あ、この人演技とかじゃなくて、素で残念な感じになってるわ』と認識されたらしく、すぐに警戒心は無くなった。

 ……なんだか釈然としないけれど、いつまでも怖がられたりするよかずっとマシか。……はぁ。



 ちなみにアリシアの『お父様』と『お母様』も、当時は急に倒れて残念化した娘に困惑した様子だった。

 しかし『むしろ今のほうが愛嬌がある』とあっさり受け入れてくれた。

 それでいいのか。実の娘に対する懐の深さよ。





「どうぞ、今日はラデュレのお茶とマカロンです」


「ありがとう、あなたも早く座って」



 屋敷のテラスに備えてあるテーブルで、楽しいティータイム。

 日々様々なフラグを改善あるいはへし折ったり孤軍奮闘して疲れている中で、貴重な癒しの時間だ。


 紅茶を口に含むと、フルーティな風味とお花畑を思わせる優しい香りが広がっていく。

 あー、美味しい。マカロンとの相性もいいわねコレ。



「……ぅ……むにゃ……」


「……? ちょっと、どうしたの?」



 芳醇な香りと豊かな甘みにしばし恍惚としながらボーっとしていると、メイドさんがテーブルに突っ伏してしまった。

 ちょっとちょっと、畏まらなくてもいいとは言ったけど、こんなところで寝てたら風邪引くわよ。


 って、アレ……?



 なんか、わたし、も、ねむ、く………?







  (もういらない)

 

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