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3 アリシアの悔恨



 現時点での私の年齢は13歳。

 本編開始時点で同い年のミラが18歳だから、ゲーム本編が始まるまで5年ほど猶予があるということだ。


 その間に本編のイベントを前倒しで進行、あるいは改善してとにかく味方を増やしておく。

 どのルートでも悲劇に見舞われるキャラもいたけど、ゲームの知識があれば救える可能性があるし、助けられるのならついでに助けよう。


 というわけで、まず真っ先にこなさなきゃいけない仕事がある。

 悲劇のイベント潰しだ。






 はい、夜の王立植物園にコンバンハ。

 屋敷を抜け出してなんでこんなトコにいるのかといいますと、ここの園長室に保管されている『あるモノ』を盗み出sゲフンゲフン接収するためだ。


 本編でもそれを手に入れるために警備の目を掻い潜って園長室まで辿り着くイベントがあったけど、それまでアドベンチャーゲームだったのがいきなりステルスアクションゲームに切り替わって激しく困惑したのは今ではいい思い出。

 しかも無駄にクオリティと難易度が高く、その部分をクリアするだけで軽く一時間はかかってたっけ……。


 ミラの魔術の中には『俯瞰視点で周囲の状況を確認できる能力』なんてものがあって、こういった警備を潜り抜けるのにはかなり適した能力だった。

 ソレありでもクッソ難しかったけどな!

 秒単位で精密な捜査が要求されるとか開発者はアホかとか思いながらプレイしてたわ。作るゲーム間違えてんだろ、せめてお助けアイテムとしてダンボールでも(ry


 しかしアリシアなら大丈夫。

 なにせ本編でも暗躍するためにクソチート魔術を使って裏でアレコレしてやがるからなこの悪女。

 そのチート能力の一つが『自身の不可視化』だ。……要するにステルス迷彩そのまんま。透明人間になれる反則技です。


 このイベントはクリアするまで何度も何度もやり直した。

 そのおかげで植物園の内部のマップは熟知している。俯瞰視点じゃなくても問題なく園長室まで辿り着けるだろう。

 透明になってるから警備もまったくこっちに気付かないしね。



 はい。というわけであっさり園長室へ侵入成功。

 ここの金庫の中身を回収すればミッションコンプ。


 金庫の番号も知ってるから問題なく開けて、中身を確保成功。

 ……よくよく考えたら金庫の番号、5年経っても変えてなかったってことか? なんというガバセキュリティ。




 取るもの取ったので植物園から脱出し、屋敷の自室に帰還。

 寝巻に着替えて戦利品の『万能薬』を眺めつつ達成感嚙み締めた。


 厳重にも金庫の中に隠してあったこの万能薬。本来なら5年後にとあるキャラのために使う代物だけど、現在でも使い道がある。

 というか今じゃないと間に合わない。





 『ランバート・ダイン・ミフテトス』という少年が攻略対象の一人にいる。

 その子が物語の中盤に毒を盛られて倒れてしまうイベントがありまして。

 その毒は解毒の魔術や普通の薬じゃ治せない特殊な毒で、治すには植物園の園長が管理している『万能薬』を投与するしかない。


 そしてその特殊な毒なんですが、ランバートの両親が現在進行形で盛られている毒でもあるわけで。

 その毒が原因で本編開始の4年前には既にランバートの両親は他界している。


 使われている毒がまた厄介な代物で、服毒してもすぐに発症するわけじゃない。

 自然に解毒されるような毒じゃないので、少量ずつ毎日のティータイムなんかの際に、お茶に混ぜて飲ませる形で使われていた。


 一定量の毒が体内に滞留すると徐々に衰弱してそのままあの世行き。

 かなりマイナーな毒物で、検死にも引っかかりにくいから病死と診断されてしまう。



 で、その毒を盛っているのが植物園の園長の手がかかっている、ミフテトス家の侍女なわけで。

 なんでも、園長が植物園の設備を悪用して栽培してる違法植物を横流ししてる貴族にとって邪魔な存在がミフテトス一家、つまりランバートの家族だったからだとかなんとか。


 ランバートが本編まで生きていたのは、単に学校に通ったりして屋敷にいる時間が短いから、毒を盛られるような機会が両親に比べて少なかったというだけ。

 両親が他界して、貴族としての仕事をこなすために屋敷で執務をすることが多くなって、その休憩中に淹れられるお茶の中に毒が盛られていて……といった具合だ。


 主人公(ミラ)は『悪意』を感じとることができる能力を持っていて、ランバートに盛られた毒に含まれた悪意を察知する。

 体調不良で倒れたように見えたランバートが何者かに毒を盛られていることを察知して、精密検査を受けさせて毒の存在を看破。


 その毒は植物園で保管してある万能薬じゃないと解毒できないこと、そして悪意の源が植物園の園長であることを突き止めたりして事件の解決に動いていく。

 というのがランバート編中盤のイベントだ。



 ここまでは園長とその侍女が悪いだけで、少なくともランバートに対しては特にアリシアはなんにも悪いことをしていない。

 ……しかし、ランバートの死んだ両親を利用してかなりえげつないことをするのが悪役令嬢アリシアなわけで。



 アリシアの取り巻きの中で、特にお気に入り扱いされている『メルフレッツ』というのがいる。

 アリシアに心酔している、というかアリシアに依存するように調教してきた結果そうなったというべきか。


 そいつの使う魔術は『回復』と『魂の使役』で、『回復』のほうはせいぜい小さなキズを治す程度のショボい能力だからほとんど役に立たない。

 問題は『魂の使役』のほうだ。簡単に言うと死んだ人間の魂を操り、誰かに憑りつかせて悪事をはたらかせることができるというなんとも厄介な能力だ。

 逆に、『魂の短剣』というアイテムを使えば、人間に憑りついている悪霊を引っぺがしたりすることもできるらしいけれど、本編じゃ悪事にしか使われていなかった。



 その『魂の使役』だけど、死人の魂なら問答無用で操れるのかというとそうでもない。

 基本的に条件付きで、なんらかの見返りが無ければ力を貸してくれる事はない。そのへんの感覚は生きてる人間と同じようなもんだ。


 ……で、その能力を使ってランバートの両親の魂を手駒として操り、そりゃもうエグいことをさせ放題してたわけで。

 なんでアリシアの言うことを聞いていたのかというと、ランバートに毒が盛られていることをミラより先にアリシアも突き止めていて、『ランバートは毒のせいで近いうちに死ぬ。助けてほしかったら私の言うことを聞きなさい』とランバートの両親の魂を脅して無理やり操っていたというわけだ。


 え、なにさせてたか聞きたい?

 聞かないほうがいい。例えばアリシアにとって目障りな貴族に取りつかせて、妻や子供に暴力を振るわせて家庭崩壊お家断絶させたりなんかしてたけどそんなのは序の口だぞ。

 その文章を思い出しただけで反吐が出そうな所業をさせまくってて、あまりの酷さにプレイしながら随分とイライラさせられたもんだ。



 しかし、今のうちにこの万能薬をランバートの両親に投与させて、かつ園長と侍女の悪事を明るみにしてしまえばそれらの悲劇を先に潰してしまうことが可能だ。

 ランバートの好感度を稼ぐことにもなるし、なにより胸糞悪い展開を潰せるのは気分がいい。


 ……問題は、(アリシア)の言うことを信じてもらえるかどうか

 いきなり『アンタの両親毒盛られてるヨーでもこの薬飲めば治るヨー』とか言われても絶対信じてなんかもらえない。

 でもご安心を。そのへんもしっかり考えてます。


 アリシアはランバートの家と接点があるし、アリシアの伝手に『真偽の判定』という言ってることが嘘か本当かを見抜く能力を持っている『ダイム』というキャラもいる。

 ダイムは国からも信頼されているキャラで、簡単に悪事に加担するような人じゃない。


 本編ではミラの切り札としても活躍していたし、高額の依頼報酬さえ払えば私にも力を貸してくれるだろう。

 ダイムに園長と侍女を尋問させて、ランバートの両親に毒が盛られていることを自白させれば、万能薬を飲んでもらえるだろ……う……?



 ……………あれ、その流れだったら園長を尋問し終わってから普通に金庫を開けさせて万能薬を投与させたほうが自然な流れじゃね? 盗む必要なくね? むしろ私が盗んだせいで話がややこしくならね?



 ………………………………。



 よし、こっそり金庫の中に戻しに行くか。

 つーか盗むのを行動に起こす前に気付けよ私! アホか! アホなのか私は!

 あああああ! またあのずっと透明で無敵かつ退屈なステルスアクションゲーをしなきゃならんのか! めんどくせー!





  (バカじゃないの)

  (私を返して)

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