1 アリシアの眠り
多分、何番煎じくらいの物語。絶対似たような発想で誰か書いてると思う。
9話ほどの短編になります。
目が覚めると、知らない天井もとい天蓋が見えた。
……天蓋付きのベッド? なにこのどっかのいいとこ産まれなお嬢様が眠ってそうな寝床は。
あとベッド。やたらモコモコしてて非常に寝心地が良い。
もうこのまま二度寝したいくらい良い。うん、寝ようそうしよう。
「お、お嬢様! 目を覚まされたのですか……!?」
……はい、せっかくいい感じに眠れそうだったのに、バカでかい声のせいで再び起床。
誰がお嬢様だ。てか誰の声だ。
……? え、ホントに誰だこの人。
「混乱されていらっしゃるようですが、無理もありません。お散歩の最中に急に倒れて、もう三日も寝込んでいらしたのですもの」
再び目を開けて、見えたのは外国人っぽい顔の金髪メイドさん。
心配そうな顔をしながら私を見て騒いでいる。
散歩? 三日寝てた? なんの話?
社畜の私に散歩なんかする暇があるわけないだろ。誰かと間違えてないですか?
ってちょっと待て! 今、何日だ!? 早く例のレポートまとめないとまたあのクソ次長にネチネチ説教される!
「あ、あの、急に動かないほうがよろしいですよ!」
「ごめん、それどころじゃない!」
あわわわわ! まずいまずい!
早く会社に戻ら、ない、と……?
……あ、れ?
身嗜みを整えようと鏡の前に立ったところで、ようやく我が身の異常に気付いた。
……あれぇ?
誰てめぇ。
なんか鏡に見覚えがない、いや微妙に既視感がある美少女が映ってるんですが。
艶のあるウェーブのかかった銀髪に、綺麗な紫色の瞳。
外国人っぽい彫りのある、なおかつキュートな顔立ち。
てか若い。手がちっちゃい。手どころか身体そのものが縮んでるわコレ。
……どこをどう見ても私に見えないんですがそれは。
というか、見たことがない顔なのに、なーんか見覚えがあるような……?
……あっ……?
いやいや、いやいやいや、ないないない。
そんなベタな。そんなネット小説とかでやり尽くされたような話があってたまるもんですか。
「え、ええと、ちょっと、いいかしら?」
「は、はい? なんでしょうか?」
「私の名前を、言ってみてもらえる?」
「……はい? 御名前、ですか?」
「ええ。ちょっと寝すぎたせいか、頭が混乱してるみたいで、自分の名前も朧気なのよ」
「だ、大丈夫ですか? すぐに御医者様を呼んで―――」
「いえ、そんな大袈裟な話じゃなくて、いいから私の名前を呼んでみなさいって言ってるんだけど」
「し、失礼しました!」
申し訳なさそうに、というか怯えたような顔をしながら頭を下げるメイドさん。
そんな猛犬でも見るような目で見なくても……いや、無理もない、のか?
顔を伏せたままメイドさんが口を開いて、私の名前を告げた。
「お嬢様の御名前は、『アリシア・ヨルナ・ラステルベルグ』様でございます」
………。
やっぱりかよ。
やっぱりそうかよ。ふざけんな。
仕事のストレス解消にやりこんでた乙女ゲー『駆けずり回れ、疾走令嬢!』に出てくる悪役令嬢の名前じゃねーか。
そりゃメイドさんも怯えるわ。猛犬どころか完全にバケモノを見る目で見られてたわ。
……夢なら醒めろ。
悪役令嬢として生まれ変わるなんて、まだ社畜として働いてたほうがマシだぞオイ。