明けない夜は無い
サジョウ歴1310年〇月×日。
その日、人類は歴史に残る偉業を成し遂げた。
人類を脅かすドラゴンを絶滅させたのである。
「陛下! ドラゴンを絶滅させてはなりませぬ!」
かつては、そんな事を訴える愚かな学者もいたが、人類の敵として処刑されている。
「ドラゴンを絶滅させたって!」
「本当かい?! 今夜は祝杯だ!」
人々は喜びに沸き、街はお祭り騒ぎとなった。
肉食のドラゴンは言うに及ばず、雑食も草食も人類にとって脅威だった。
気が立っている時に、八つ当たりのように街を襲って来たり。
運悪く子連れと遭遇して、殺されたり。
しかし、もう、恐れる事は無い。
人類の夜明けだ。
と、喜んでいられたのも、三ヶ月ほど。
人類は、新たな脅威に曝されていた。
ドラゴンがいなくなり、彼等を恐れていたモンスターや・捕食されていたモンスターが生息域を広げ、数を増やし始めたのだ。
だが、ドラゴンよりは弱い。
絶望する程ではない。
「何だ、あれは?」
ふと気が付くと、山に見知らぬ大樹が生えていた。
一本や二本ではない。
数日もすると、麓にまで生えて来た。
一夜にして数メートル成長する。
「おい! 伐るぞ! このままだと村までやって来る!」
村人達は、斧で樹を斬り倒そうとした。
「駄目だ! 堅過ぎる!」
知らせを受けた帝都から調査隊が到着した時には、村は樹々に侵略されていた。
「これは……!」
「どうした? 何か、知っているのか?」
「いや。知っている訳じゃ無い。だが、もしかしたら……。ドラゴンツリーかも」
「ドラゴンツリー?」
調査隊の一人の話によると、かつて、ドラゴンを研究していた学者から草食ドラゴンの主食だと聞いたものと、特徴が似ているらしい。
「草食ドラゴンの主食……」
「そうだ。ドラゴンがその巨体を維持する為に、好んで食べていた樹らしい」
ドラゴンが絶滅した為、こんなに増えたのだろう。
「と言う事は……」
「ドラゴンの咬合力に匹敵するか、それ以上の攻撃をすれば、伐採出来るだろう」
「騎士団は、ドラゴンを絶滅させられたんだ。問題無いな」
彼等の予想通り、騎士団の攻撃はドラゴンツリーを斬り倒す事が出来た。
直ぐに全てのドラゴンツリーを伐採出来る訳では無いので、最初は、村に生えたものだけを斬った。
尚、彼等は兵器を用いてドラゴンを討伐した訳では無い。
ドラゴンの皮膚を切り裂いたり・貫通したりする攻撃魔法で倒したのだ。
「どうするんだ。この木?」
木は勝手に消滅したりはしないので、何かに使うか・焼いて灰にするか、しなければならない。
「こんなに堅い木、加工するのは大変だろう。乾かして、焼き尽くすぞ」
こうして、どんどん伐採したものの、ドラゴンツリーは既に広範囲に生えており、また、伐採済み箇所の放置した地下茎からまた生えてきたりで、ドラゴンツリーが増える数が伐採数を下回る事は無かった。
「燃やせ! 燃やしてしまえ!」
業を煮やした皇帝が、そう命じる。
ドラゴンツリーの森に炎魔法が放たれ、熱せられたドラゴンツリーに含まれていた空気が膨張し、大きな破裂音が彼方此方から轟いた。
驚いたモンスターが、此方彼方を暴れ回る。
強力な魔法は発動まで時間がかかる為、多くの犠牲者が出た。
ドラゴンツリーを伐採出来る程強力な魔法を使う者達も、その中に含まれていた。
「何故、こうなるのだ……!」
サジョウ歴1310年〇月×日。
その日、人類は歴史に残る愚行を成し遂げた。
厄介な植物を食べてくれるドラゴンを絶滅させたのである。
「陛下! ドラゴンを絶滅させてはなりませぬ!」
かつて、そんな事を訴えた賢明な学者もいたが、愚かな皇帝に人類の敵として処刑された。
「ドラゴンツリーが、××を呑み込んだって!」
「本当かい?! 穀倉地帯じゃないか!」
人々は絶望し、自棄になって暴れる者が多く出た。
今、まさに人類の黄昏。
夜明けは訪れるのだろうか?
竹のような植物です。