第六話 真那の召喚
「なんてことをしたんだ!!」
「……っん…んん…」
真那はその怒鳴り声で気が付いき少し呻き声を上げながら、薄く目を開けた。
周りでは何人かの人が怒鳴り合いを続けている。
(…ここは…どこ?…僕は確か…光に包まれて…っ…お姉ちゃんは?)
真那は思考を走らせながら周囲を警戒し気付かれない様に辺りを確認した。
(お姉ちゃんはいない…体も縛られてる…口が塞がれていない…身代金とかの誘拐じゃない?…情報が少なすぎる。このまま気が付いているのがばれない様に聞き耳立てるしかないか…)
真那は自分の周囲に姉の鏡花がいない事を確認した後、体の感触で縛られていることに気付き警戒心を強め周囲の怒鳴り合いに耳を傾けた。
「私は説明したはずだぞ!別時空の異世界からの召喚はリスクが幾つも有るから、普段は死ぬ運命にある各世界の因果律の希薄になっている人物を選択して召喚していると!」
「そう言って何時まで経ってもあの魔石の適合者が現れ無いではないか!」
「だからって、500人以上も犠牲にして召喚するなど正気では無い!!それに高位次元存在に目を付けられたらどう対処するんです!?」
「っふん。なにをそんなに気にしているのかと思えばそんな事。犠牲などと、唯の敗戦国の奴隷と犯罪奴隷ではないか。確かに数に限りは有るが、気にする事など無かろう。今回のそこの小僧で成功すればそれですむ、それに奴隷などまだ1000人以上いるのだ。虫けらの数など気にする必要などないわ。」
「っんな!?」
「それにな、高位次元存在とかいう居るのかどうかも分からん存在なぞ気にするだけ無駄だ。」
「…っぐ。」
「貴様は足を引っ張る前に自分の職務を全うしろ。」
その場で言い争っていた2人の内、着飾った方の男がそう言った後踵を返しその場をを離れようとする。
「…ああそうだ。」
着飾った男は何かを思い出した様子で足を止めて振り返ると。
「一応改めて言っておくが妙な気など起こすなよ。貴様の家族の命は私の指示でどうにでも出来るんだからな。それと2時間後には融合実験を行う、とっと準備を始めろ、おい!そこの2人、そこで転がっている実験材料を実験場に連れていけ。」
「「っは」」
言い争っていたもう1人の白衣を着ている男へ脅すように言った後、少し離れて様子を見ていた2人の男に真那を連れて行くように命令してから改めてその場を離れたのだった。
そして、まだ意識の戻っていない振りをしている真那を2人の男が運んで行く時、白衣の男は壁に拳を打ち付け悪態をついた。
「っクソ!!」
一部始終を見聞きしていた真那は演技を続けながら、頭の中で情報を整理する。
(…異世界からの召喚…いきなりファンタジーな展開になってきたな…。それに…犠牲?あの口振りだと今までも何度もやっているみたいだけど、僕を召喚するのに普段よりも多くの犠牲をつかったってことだよね…。あの白衣の人は兎も角、先に出て行ったあの傲慢そうな人は警戒しないと駄目だね、人を人として扱っていないもん…。白衣の人の方は家族を人質に取られて仕方なくやっているみたいだし、これからの状況次第では信用できるかもしれない…。僕は多分2時間後に融合?とか言うのをされるんだろうけど…今暴れて逃げるのは得策じゃない…この人達の腰に有るのは恐らく銃かそれに類似する何かだろうし、ほぼ確実に逃げ切るのは無理…ませき|?の適合者ってやつであることを祈るしかないかな。)
そうして真那は運ばれながら、限られた少ない情報から自分の置かれた状況を把握し、とても逃げきれる状況では無いと結論付け、甘んじて彼らの実験になるしかないと覚悟した。
暫くすると真那を運ぶ2人は広い場所に到着した。その場所はドーム状になっていて、その中心には大型トラックと同じくらいの大きなクリスタルが鎮座している、そのすぐ傍には人が一人すっぽり入るほどの近代的な技術で作られたカプセルが有り、クリスタルの鎮座している床には幾何学的な模様が有り、カプセルに収束するように描かれている。
そして真那を運んでいる2人はカプセルの傍まで来ると周囲に居る白衣を着た集団の1人に声を掛けた。
「おい。被検体を連れてきた、装置の蓋を開けろ。」
声を掛けられた人物は嫌そうな顔をしつつもカプセルに近づいて行きその側面に有るスイッチを押した。
すると、花が咲く様にカプセルは開き、真那を運んできた2人は、カプセルの中に有るベルトが幾つもついたシートに真那を横たえてそのシートに付いているベルトで四肢を固定した後その場を離れた。
(…さっき言っていたませきってこれの事?…融合って言ってたし…まさかこんなのと僕を合体させるとか?…僕どうなるんだろう…。)
真那は直ぐ傍に鎮座している巨大なクリスタルを確認し、流れに身を任せるしかない状況に恐怖心が湧き出した。
また暫くすると先ほどまで口論をしていた白衣を着た方の男が忌々し気な顔をしながら真那の入ったカプセルの傍までやってきた。
するとその男はカプセルに付属しているモニター付きの操作盤らしき物を操作し始めた。
「…あれだけの犠牲を払った上召喚術式に指定項目を付け足しただけ、とんでもない素体を呼び寄せたようだな。…ん?…(この数値の人間が時空間移動の衝撃に襲われたとはいえ、こんなに長時間意識を失ったままなのはおかしい)…まさか…」
暫くの間操作を続けていた男は何かに気付いた素振りをして、それまで行っていた操作とは別の操作を始めた。
「…やはり…この脳波…」
「どうしました?イスター博士」
「いや…何でもない。すまないが大魔石下の刻印術式のチェックを頼む。…私の仕掛けも含めてな。」
「了解です。」
部下らしき人物からの問いにその男イスターは濁して答え、別の仕事を頼み遠ざけた。
するとイスターはカプセルの中の真那に顔を寄せて小声で話しかけた。
「意識が有るのは分かっている、そのまま意識の無い振りを続けて聞いてくれ。この後暫くしたら実験が始まる、君を使った人体実験だ。恐らく想像を絶する程の激痛に襲われるし、命の保証も出来ない。だがほぼ確実に成功するだろう。君を調べて出た数値は常軌を逸したものだった。理論上必要な数値を大幅に超えている。心配するなとは言えないが最善を尽くすことは誓う。だからどうか今は何が何でも耐えてほしい。」
イスターはそこまで言った後カプセルから少し離れてカプセルの開閉スイッチを押した。イスターは閉じていくカプセルを見ながら最後に一言悔しそうな顔をして言った。
「…すまない…」
その言葉を聞いた時、真那は彼が心から今のこの状況を悔やんでいることを確信した。
(…あのイスターって人の言葉を信じよう。他に何か出来るわけでも無いし…それにあの人の表情…死に際のお父さんと同じ…自分の無力を呪っている人の顔…ああいう顔をしている人は決まって優しい人ばかりだ…。…自分の状況をまるで把握出来ていない今、僕としても利用しているようで心苦しいけど…頼らせてもらおう…。)
そうして、イスターの言葉により多少は不安が払拭されたのか、少し心が軽くなった真那はカプセルの中で意識の無い振りを続けながら、その瞬間が来るのを待つのだった。
読んで頂いている方々に感謝を