第五話 鏡花の出発
これでいったん鏡花編は一区切りです。
「そんじゃ、腹も括ったことだし出発しますか。」
「そうですね、私も直ぐに他の世界の神々と連絡を取らないといけませんから。」
鏡花は出発することを切り出しフィーネもそれに頷き返した。
フィーネは頷き返した後テーブルの上に手を翳し、すると幾つもの薬瓶や金貨に銀貨等のお金が現れた。
「では出発の前に、鏡花に与えた知識の中で空間系の魔法の中に収納魔法が有りましたよね?」
「えーっと…あったあった。」
「ではそれを使って此処にある物を全て入れてみて下さい。この程度ならイメージだけで発動するはずです。」
「了解。それじゃぁ『収納』っと。」
鏡花が薬瓶とお金の山に手を翳し魔法を発動すると、何も無い空間に渦が生まれ,そこに薬瓶とお金の山がすいこまれた。
「初めての魔法行使も問題なく出来たようですね。」
「うん、そうね。少し体の中から何かが出て行った感じがしたけど、これが魔力なんでしょう?」
「はい。そうです、その感覚を忘れないでくださいね。鏡花の魔力は無尽蔵とも言えるほどかなり多いですが無限では無いので注意してください。生命力の一種なので、使いすぎると強い倦怠感ののちに気絶、もっと悪いと死亡もありえますから。
まぁほぼほぼ無いとは思いますが忘れないでください。」
「うん、了解。」
「それとなにか欲しい武器や防具はありますか?。もしあるのなら今この場で不壊等の概念を付与して作りますよ。」
「そうね……刀に小太刀を2本、あと使い捨ての苦無を100本欲しいわね。防具の方は籠手と脛当て、それと胸当てが欲しいわね。」
フィーネは鏡花の要望を聞いて少し考え込んだ後、申し訳なさそうに答えた。
「すいません、ちょっと私の知識の中に該当する武器が無いです。剣とか弓とかなら解るのですが、恐らくこの世界の文明では生み出されなかったようです。」
「んーじゃぁどうしようか。」
「あ~いえ、鏡花の記憶を見るだけで事足りるので、ただその拍子にプライベートな事まで見てしまうのでそれだけ許可をもらえれば大丈夫です。」
「そういうことか。……仕方ない我慢しましょう。やってちょうだい!」
「はい。ではまた頭をしつれいしますね。」
妙に気合の入った鏡花の返事を聞いたフィーネは、知識を転写した時と同じように鏡花の頭に手を翳し、ほんの数秒で終わったのか直ぐに手を下した。
すると何故か顔を赤らめながら口に手を当て鏡花に汚いものを見るような目を向けながら若干距離を取った。
「……(絶対こうなるとおもったわ。)」
いろいろと察しのついた鏡花もまた顔を赤らめ目を反らした。
「…義理とは言え弟なんですよね?」
「……そうよ。」
「貴女!本人が居ない所で何てことしてるんですか!?」
「…いったい何見たよ?」
「…ついでに弟さんの姿も見ておこうと思ったら…弟さんのパン…何言わせようとしてるんですか!?」
「いやもういっそのこと開き直って逆にフィーネをいじって有耶無耶にしようかと。」
「……変態。」
「いや~そんなに褒めなくても…」
「…褒めてませんよ。…しかも男どうしのエッチな本とか…。」
「BL本ね、そんなところまで見たの?」
「見るつもりなんてありませんでしたよ!弟さんの事を調べ始めたら一気に芋ずる式に出てきたんですよ!全くなんてものを見せるんですか好きなものっていうカテゴリーでつられて出て来たんでしょうけど…あんな…あんな…」
フィーネは自分で記憶を反芻しながらどんどん赤くなっていく。
鏡花はその様子を見ながら流石に話が脱線し過ぎたと思ったのか遮るように声をかけた。
「まぁまぁ、そんなことより要件は済んだの?」
「…っは…ッコホン…ッコホン。…え~はい。目的の情報は手に入りました。問題無く作れます。」
気を取り直したフィーネは虚空に掌を上にして翳すと目を瞑った、するとその掌の上に光の粒が集まっていき徐々に棒状の形を形成していき、光が収まる頃には一振りの刀が出来ていた。
フィーネはその刀を鏡花に手渡し、確認するように促した。
「どうでしょう?鏡花の記憶の中にあった物と全く同じ物を作ったつもりですが違和感はありませんか?」
刀を手渡された鏡花は記憶の中のものと一致するか確認するようにいろいろな角度から眺めた後、感触を確かめるように何度か素振りをした。
「ん~刃渡り2尺3寸に柄は8寸…うん!重さも今まで使っていた物と同じだし申し分ないわ。」
「なら他の物もこのまま作りますね。」
フィーネは鏡花の返事を聞くとそのまま作ろうとするが、手を止めて少し悩んだ後また鏡花に質問した。
「あの~記憶の中にほとんど同じ長さで脇差というのがあるんですけど、どちらにします?どうせですし両方つくりますか?」
「あ~うんそうしてもらって良い?小太刀の方は何かあった時の予備にするから。」
「わかりました。では。」
フィーネは改めて脇差に小太刀そして苦無の山を作った。
「刀と脇差それと小太刀には不壊と切断の概念の付与に一定時間経つと戻ってくる魔法も掛けておきました。ですが、苦無の方は使い捨てと言っていたので何の付与もしていませんが良いですか?」
「うん良いよ。牽制用か爆弾替わりにその都度魔法で付与かけて投げつけるから、それにまた欲しくなったら自分で錬成魔法で作るかどっかの鍛冶屋に依頼すれば良いしね、大丈夫よ。」
「わかりました。後は防具ですね、デザイン等は私の方で決めますが良いですか?」
「良いわよ。私じゃこの世界の一般的なデザインなんてわからないしね。」
「了解です。おまけで服と靴も用意しますね。」
フィーネは頷きそう言うと、その場で武器を作った時と同じように服を作り出した。
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やがて、準備は整い愈々出発の時が来た。
「鏡花、このイヤリングを耳に付けて下さい。」
そう言ってフィーネは水晶の様な物でできたひし形のイヤリングを差し出した。
「これは?」
「私との連絡手段です。これに魔力を通して念じれば、たとえ私がこの世界に居なくとも念話が可能ですので。逆にそれが無いと私がこの世界に居ない間は連絡が取れないので、絶対に外さないでくださいね。」
「へぇ~《こんな感じ?》」
イヤリングを受け取り耳に付けた鏡花は使い方の確認の為に早速使ってみた。
《そうです、問題なく使えるようですね。》
フィーネは同じ様に念話で返した後、鏡花に最後の確認をした。
「鏡花、貴女はこの世界において人類種の中ではほぼ最強です。ですが油断だけはしないように気を付けて下さい、どんなに力の強い存在でも搦め手には弱いものですから。」
「ええ。わかってるわ。私の元居た世界でもそういう話はいっぱいあったからね、それに真那にもう一度『お帰りなさい』って言うまで死ねないしね。」
鏡花はそう笑顔で答えた。
「その意気です。では、この世界を頼みます。」
「いろいろ気にかけてくれてありがとう。私の弟を…真那をお願い。」
そうして二人は頷き合い、鏡花はフィーネにより光に包まれ下界へ転送されたのだった。
次話から真那編です。