第一章それぞれの異世界 第一話 鏡花の誓い
「ここどこ?」
鏡花は気づくと真っ白な空間にいた、辺りをきょろきょろと見回しても白一色で何もない。
「目を覚ましましたか」
「っ!っだれ!?」
突然声が聞こえたため鏡花は声を張り上げて聞き返した。
すると、何もない空間から銀髪の美しい女性が唐突に出現し、喋りだした。
「先ずは名のらせていただきます、私はこの世界の管理をしている神、管理神フィーネと申します、以後お見知りおきを。」
「そう、私の名前は岩動鏡花といいます。じゃあフィーネさんここは何処ですか?私の弟真那はどこです!?」
「鏡花さん少し落ち着いてください、これから説明させて頂きますから。」
自らを神と名乗った女性フィーネはそう言うと腕を一振りした、するとまた唐突に何も無い虚空から丸いテーブルが一つと椅子が二つ現れた。
「とりあえず座ってください、肉体の再構築も終えたばかりですし、身体も動かしずらいでしょうから。」
「え…ええ、わかったわ。(今なんつったこの人…肉体の再構築って!?)」
戸惑いながらも鏡花は妙に力の入りづらい身体を動かして椅子に座った。
「まずは、先ほどの質問への回答ですが、此処は貴女の生まれ育った世界とは別の世界リティアといいこの空間は一時的に作った亜空間です、真那という人物は申し訳ありませんが存じ上げません。」
「まって!まって!まって!もっと混乱してきた、え~っと別の世界ってのは状況証拠的に納得せざるを得ないからまだいい。異世界転生ものの小説なんていくつも読んでるからそこらへんはまだ理解できる、そんなことより真那がいないってどういうことよ!?真那は私の目の前できえたのよ、あの子もこの世界に来てるんじゃないの?」
鏡花はフィーネの回答にそうまくしたてる。フィーネは少し考える素振りを見せた後鏡花に問いかけた。
「…その真那という人物は光に包まれて消えませんでしたか?」
「っえ?…そうだけど。」
鏡花は戸惑いながらも返答する。
「…なるほど…そうですか…。」
フィーネは何かに納得したようにしきりにうなずいていた。するとまくし立てたことで発散されて少し落ち着いた鏡花が声をかけた。
「どうしたんですか?」
「いえ…こちらでも把握出来ていなかったことが判明したので…そのことも含めて説明させて頂きます。」
「ええ、お願いします。」
「では、事の発端はこの世界で唐突に時空の裂け目が生まれてその裂け目から一つの魂が出てきたのが始まりです。」
「…それって…まさか…?」
「はい。貴女です。」
「やっぱりか…。」
「本来、耐性を持たない生身の生物が時空の狭間投げ出されて一定時間経過すると存在そのものが崩壊して消滅するので、魂だけでも残っていただけ、かなり幸運でした、少し耐性があったんでしょう。
そうして、魂だけの貴女をを保護して直ぐに肉体を再構築させたんです、今身体を動かすのに違和感があるでしょう?」
「ええ、あるわ。」
「それはこの後遺症の所為です、身体に魂が定着すれば治りますので、しばらくは我慢して下さい。」
「了解したわ。」
「はい、では話しを戻しますね。先程時空の裂け目が発生したと言いましたが、本来時空の裂け目とはそう頻繁に起こるものでは無いんです、各世界を隔てている時空の殻はそれ相応に強固に出来ています、まして各世界にはそれぞれの担当する管理神がいますので常に最善の状態を維持しているんです。
もしも発生する場合は極稀に存在する管理神のいない世界での自然発生か、もしくは人為的によるものが関係する場合の二通りだけになります。」
「…なるほど…この世界には貴女がいる、残るのは消去法で人為的なものというわけね。」
「はい。先ほど貴女の弟さんが光に包まれて消えたと話していましたが、おそらくそれが人為的なものに該当すると思われます、召喚魔法の類には必ず発光現象が付随しますから。」
「まぁ、神様がいるんだから、魔法くらい存在するわよね…。じゃあ私と真那が離れ離れになっているのは、なぜなんです?」
「通常の召喚魔法…一つの世界の中でのみ行われる召喚魔法であれば距離を縮めるだけなので、問題はないのですが、異世界召喚…時空を隔てた先への干渉は別です。
異世界召喚とは魔力によってトンネルを作り、召喚対象のいる世界の時空の壁に無理やり突き立てて引きずり込むというものです、そんなことを行えば時空の壁も一時的とはいえ裂けてしまいます。
ほぼ確実に召喚対象は貴女の弟さんで、その召喚の影響で発生した時空の裂け目に吸い込まれたのが貴女です、余程大きな魔力を注ぎ込んだのでしょう全く関係の無いこの世界にも余波だけで時空の裂け目を発生させるほどなんですから、どうやってそんな魔力を得ることができたのか気になりますが、おかげで鏡花さんは助かりました、その膨大な魔力がなければ今頃時空の狭間で魂も消滅していたでしょう。」
「…はぁ…だいたい状況は理解したわ。…でも困ったわね、真那を見つけるどころか探す手段もないわ……いっそこの世界で召喚魔法を習得して、手当たり次第に…。」
鏡花は思いつめたようにそう呟いた。
「それだけは止めてください!魔力を集めるだけでも被害が甚大になりかねませんし、影響もこの世界だけでは済みませんから!」
このフィーネの制止の声に対して鏡花は動かしづらいはずの身体でテーブルを叩き。
「じゃあどうしろって言うのよ!!私はねぇ!あの子と家族になった時に約束して誓ったのよ!私があの子の帰る場所になるって!私は諦めないからね!たとえ死んで身体を失って魂だけになっても絶対に諦めないから!!」
そう怒鳴り返した。
フィーネは面食らった表情をした後、しばらく目を閉じて考えてから
「…ならば私と取引をしませんか?」
そう鏡花に提案してきた。