表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
97/327

2_22.ヴァルターとエドアルドの脱出計画

街道の炎は収まった。

あのバケモノは燃え尽き、街道で炭の柱になった。包囲をしていた保安部隊や騎兵は、周辺を軽く警戒していたが、夜明け前には引き上げていった。


ヴァルターとエドアルドは潜んでいた場所から街道に出たが、辺りには何も人の気配は無い。虫の鳴き声だけが辺りに響いていた。


「さて。どうやら俺達は助かったようなだ。次なるは、ここからどうするか、だな?」


「曹長、まずどっかで顔洗いませんと…。」


「そうだな。顔に泥を塗りたくったままだったな。」


徐々に日が差すにつれ、お互いの顔を見合わせて笑った。取り合えず偽装に使っていた草だの枝だのを取り払い、二人は顔を洗える場所を探して、街道を南に下った。そして明るくなってくると周辺が良く見えるようになってきた。進む方向の左手に漆黒の森、右手には畑が広がっていた。遥か前方に山が見える…つまり、ここはエランの手前だ。前方の山の見え方から、恐らく今の時点でアルスランからほぼ60km程。次の街エラン迄のちょうど半分の地点だ。だが、今から森を横断する気はサラサラ無い。


しかしこのまま街道を進むには問題がある。

街道を歩くには余りにも不自然な二人なのだ。通常、100kmもの道のりを歩く軽装の者は居ない。大抵の者は、駅馬車か馬を使う。金持ちは自前の馬車だ。歩くにしても、野営可能な物を準備している。彼ら二人はその何れも持ってはいない。つまり、不自然過ぎる軽装は人目を引く。印象に残ってしまう。当然ヴァルターとエドアルドはその事に気が付いていた。どこかで旅人を装う装備を整えないとならない。


装備を放り投げて逃げ出した、あの時の行動はアレで正解だ。あのまま装備に拘っていたら、バケモノと化したヨハネスの次の犠牲者になっていただろう。だが…あの危機を脱した今となっては、装備を失った事が別の危機となっている。手元にある武器も数発しか無い拳銃とナイフだけだ。当然食料は無く、手持ちの金は二人合わせても3,000フィエルだ。この辺の農家から馬を盗み出すか?…恐らく、100km先までは逃げられるだろう。だが、その先はエステリアの保安隊によって捕縛される。ヴァルターは、この先レーヌからの脱出か、それともエルメ海岸からの脱出か迷っていた。


正直、ブルーロ隊長を逸れたが、彼らが死んだとはとても思えない。彼らは当初の予定通りに逃げているだろう。その場合、ブルーロ隊長達の脱出ルートを辿る逃げ方を俺達がした場合、隊長達がレーヌや街道のどこかで何かの騒動を起こしていたら?俺達の部隊は可能な限り潜伏と目立たない行動をとる秘匿性の高い部隊ではあるが、こと脱出に関しては、自分の生存を優先する。とすると、幾ら隊長達が慎重に行動したとしても、何等かのきっかけで潜入が明るみに出た場合、真っ先に封鎖されるのはレーヌの港だ。ここからレーヌまでは街道に沿って進めば580km程だ。…だが、エルメなら?


エランの街まで60km、エランからミルニーンの街まで300km、ミルニーンからエルメ海岸までは80km、つまり総距離は440km…


「エドアルド、方針変更だ。エルメに行く。」


「お。エルメですか?確かにそっちの方が近いですが。軍の警戒とか大丈夫ですか?」


「それなんだが…うちの艦隊が撤退したという情報と、保安部隊がアルスランから動かなかった件。多分、エステリア側は一時的に危機は去ったと考えて、エラン海岸の警戒が軽くなっている可能性がある。

それともう一点、俺達と逸れた部隊の連中の件。あっちがレーヌを目指して脱出の最中に、何等かの騒動が起きたら、直ぐにレーヌに至る街道は封鎖か検問を行うだろう。で、その騒動はもう起きている。あのバケモノの件な。とすると、俺達のこの状態でレーヌに行くのは危険だ。この先、後ろか前から追っ手なり警戒線なり検問なりが構築される筈だろう。もしかして、もうエランの街は警戒線が引かれているかもしれん。それならば警戒が薄まったエルメに向かう方が脱出の可能性がある。あと、エルメの方が近いしな。」


「なるほど…エランの街には入りますか?」


「いや、エランは迂回して、次の村に入る。それまでは、そこらの森の幸を頂くしかないな。」


「ああ、エランも既に警戒線が引かれていると。」


「そう思った方が賢明だろう。エランが見えてきたら森の中に入って周辺からエランを観察する。警戒してなければ夜を待って、エランの街を抜ける。警戒しているようなら、森の中を突っ切ってエランを迂回だな。」


今の時点で朝の7時。

恐らくエランまでは10時間程度はかかるだろうな。上手く行けば、エランの街にで何か食物が手に入るかもしれない。ヴァルタとエドアルドは、エランのある方向に歩き始めた。


そしてエランの街が警戒態勢に入るのは、この9時間後なのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ