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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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2_20.山怪、最後の足掻き

エステリアからは山怪、ガルディシアからは単にバケモノと呼ばれていた、この生物は焦りを感じていた。


当初目覚めたばかりの自分には自我という物は無かった。

そして只ただ空腹感だけが自らの中にあった。そして、何度か人間を取り込んだ事により、明確な思考という物がこの生物の中に生まれた。思考という物を手に入れた事により、自分を取り

巻く環境や状況を明確に理解する事が出来るようになった。だが、今の所それは利点として働いていない。今この生物の思考を占めているのは怒りだった。


…この人間達は戦いながら学んでいる。自分の特性を理解したのか全くこちらに近寄らず、銃も撃たなくなった。更に、緊急の場合に使った先程の爆発しながら飛ぶ方法も、その距離以上に距離を取られて、その手も使えない。しかも一定距離をとったまま人間達は囲いを作り、こちらに燃える液体を投げつけて来て、完全には避けきれずに徐々にあの液体で濡れてきた。


また燃やす気なのか…あの人間共め…許し難い…先程から感じていた怒りは既に抑えがたい所まで来ていた。このままでは、この人間達に滅ばされてしまう。だが、取りうる手段は既にほとんど無い。このまま燃やされてしまう訳にはいかない。かくなる上は…ここで終わるが、これで絶える訳ではない…


「もっとかけろ!燃やし続けろ!!いいか、お前等、今居る場所から一歩も前に出るな!前に出た奴は、一緒に燃やす!」


騎兵隊長ギュダンはボーパルの轍を踏まないと徹底的に距離を置いた。歩兵にも騎兵にも前に出た奴は燃やすと宣言したが脅しでは無く、実際に山怪に近づけば乗り移ってくるのだから、同じく燃やす気でいた。適度に油を注ぎ続け、山怪はこちらに近づく事も出来ずに炙られ続け、遂には上半身から完全に燃え始めた。


「おおっ、やったか!!」


「油断するな、燃え尽きるまで油を絶やすな!!」


沸き始める保安隊を後目に、ギュダンは油断無く山怪を燃やし続けた。と、ふと山怪の動きが変わった。両手を空に上げ、口を真上に向けたと思うと…大咆哮を上げた。まるで断末魔の叫びのようだ…そして、山怪は絞り出すように身体から中身を真上に吹き上げた。それは噴水のように辺りに飛び散り、何人かに降り掛かった。慌てて、何人かが自分に降り掛かったドロドロをふき取っていた。真ん中に居た山怪は手を掲げたまま真黒く炭化していた。


「やりましたね、ギュダン隊長!!」


騎兵が何騎か、ギュダンの元に駆け寄ってくる。ギュダンは胡乱な物を見る眼差しで、山怪が降り掛かった兵を見ていた。


「貴様等騎兵の中で、アレを浴びた者は居るか?」


「いえ、自分達は包囲の外に居たので…」


「そうか。ならば良い。囲んでいた保安隊だけか…どうするべきか…」


保安隊は山怪を討った事に盛り上がっていた。保安隊の中で、今の所はおかしな動きをする者は居なかった。だが、騎兵隊長ギュダンは、包囲をしていた保安隊を最悪皆殺しにしなければならない可能性を考え、全く素直に喜べなかった。



「エドアルド…あれをどう見る?」


「元の奴は死にましたね、焼け死んで。あそこから飛び散った奴は…あれやばいですね。もしかして…あのバケモノの最後の足掻きというか…分けた?」


「ああ、多分そうだ。あれは株分けだ。アレがかかった奴は、時間はかかるだろうが多分アレに移られる。残った人数を相手にするのも面倒なのに、そのうちどの位があのバケモノなのか、判断も出来ねえ。」


「どの位で乗っ取るんでしょうかね…今直ぐなら、あそこは地獄の始まりだろうし。そうじゃなければこっちが危険だ。」


「ああ、そうだな…。そろそろ引き際だ。エドアルド、撤収するぞ。動けるか?」


「大分休めたんで大丈夫です、撤収しましょう。ヴァルター曹長。」


そっとヴァルターとエドアルドは暗い森の奥に引いた。



その事ブルーロとオットーは騎乗して只管南下していた。

何とも予想外の出来事だが、この位の幸運が無ければ、ここ最近の出来事は酷過ぎた。この森の街道を抜けるには、何も無ければ一時間程だ。あれ程に危険で無限の時間に感じた森を抜ける迄の距離は、今や無いも同然に感じていた。


森を真っすぐ抜けていれば、森の出口からは400km程南下して港町だ。だが森を街道に沿って行く場合、100km以上遠回りになる上に、途中に3つの街がある。その一番最初の街エランが見えてきた。アルスランからエランまでの道は120km程になる。つまり60km~70km程を稼げた訳だ。馬の速度は速い。圧倒的だ。次の街は40km程下ったリーロ、そして森を抜ける直前のローリトの街を抜けると400km下って港町のレーヌだ。レーヌまで行ければ、何か漁船を使ってガルディシアまで帰られる。


ブルーロは街道から真っすぐに入らず、遠巻きに街を観察した。

そしてエランの街が厳戒態勢にない事を確認し、再び森に戻った。ここが厳戒態勢にないという事は、情報がここまで伝わっていないという事だろう。明後日までにレーヌまで行ければ港が封鎖される事も無いだろう。食料も街があればなんとかなるし、馬も居る。


今夜はこの森の際で寝ても大丈夫だろう。近くに馬を繋ぎ、ブルーロとオットーは久しぶりに朝まで安心して寝た。

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