2_17.予定は未定であり決定では…
残った12名は以下のように分かれていた。
ブルーロとオットーの二人組、ヴァルター、オイゲン、エドアルドの三人組、ギュンター、ヨーゼフ、ハンス、テオドールの四人組、エバーハルト、カール、エルンストの三人組。それぞれが、ヨハネスがやられた瞬間にバラバラに逃げた。
一番最初に街道に出たのはヴァルター、オイゲン、エドアルドの三人組だった。だが、街道手前で捕捉されオイゲンは捕食された。ヴァルター、エドアルドの二人は急ぎ街道方向に向かうが、街道にみっしりと張り付く軍人の姿を見つけて警戒した。
「おいエドアルド、待て!街道にみっしり軍人が居る。エステリアの保安部隊と騎兵だ。奴ら、なんでここに…もしかして俺達の存在がバレたのか?」
「アルスランを…引き払う時に、アジトを燃やしておいた。お、俺達の証拠も痕跡も何も無い…筈だ…」
ヴァルターの目から見てもエドアルドは限界だ。
エドアルドは肩で息をしつつ、自分の装備を確認している。それにしてもオットーと逸れたのは痛い。アレが今何処に居るのか分からない。だが、このまま街道に出れば、あの軍隊から厳しい追及を受ける。後ろも前もか。挟み撃ちだな…街道に出られたら逃げられると思ったがなかなか上手くいかんな…と、街道側の騎兵から突然話しかけられた。
「そこの茂みに隠れている貴様!!武装を解除して早急にそこから出て来い。出て来なければ撃つ!」
この騎兵は急遽招集を掛けられた為、ここに来るまでに詳細を聞いて居なかったのだ。森から出てきた奴をバケモノの餌食にする、という構想を知らなかった為、何時もの如く声を掛けたのだった。だが、この騎兵の声に反応したのは、潜んでいた二人組ではなかった。
「お…あ…ぁ…騎…兵…ぃ…」
騎兵が銃を構えて茂みを見つめている所に、ボーパル大尉が慌てた声で騎兵に叫んだ。
「貴様、下がれ!!何故声を掛けた!!」
「え?いや、しかし…」
騎兵は茂みからボーパル大尉の方に目線を外した。そこに、叢から元オイゲンが現れた。既にオイゲンの身体には、仲間に撃たれたであろう穴が開いていた。その穴からドロドロとしたものが流れ出ている。騎兵はその光景に一瞬、目が惹きつけられた。これは何だ!?
その一瞬に、オイゲンは騎兵に飛び掛かかり、騎兵の抵抗も虚しく彼はドロドロな何かになった。騎兵を乗せていた馬はパニックに陥り、振り落とそうと暴れた挙句、それに成功して逃げていった。
振り落された騎兵はゆっくりと辺りを見渡していた。ボーパル大尉は予め決めていた予定を覆され、呪いの言葉を吐いた。
猟師イーヴの話では陽光に当たると煙になった、という話だ。つまり太陽の光か、炎の壁で奴は殺れる筈だ。問題はどうやって動きを止めるか、だ…生き物なら火が弱点。だから街道の森側に油を流していた。居る事が判明した時点で、街道と森の間10kmに渡って炎の壁が俺達をあのバケモノから守る予定だったのだ。
だが、迂闊に声をかけた馬鹿者の為に、炎の壁の内側に入られた。しかもその馬鹿者はもうバケモノになってしまった。くそったれめ!
意外な程にオイゲンの近くに居たヴァルターは、もしかして間一髪だったかもしれない状況に冷や汗を流し、そっと隣のエドアルドに言った。
「エドアルド下がれ。上手い事、奴の興味がこっちから逸れた。恐らく俺達を補足しに、あいつら保安部隊は来たんだろう。しかもあの隊長の反応からするに、俺達をあのバケモノを使って始末する積もりだったんだろう。もしかしたら制御する方法があるのかもしれん。一旦隠れて観察するぞ。弱点が分かるかもしれんぜ。」
そこでボーパル大尉は叫んでいるのが聞こえてきた。
「保安隊!!誰か、残りの油持ってこい!!絶対にこいつに近づくなよ。遠巻きにして牽制しろ!距離を開けて取り囲め。周辺に油撒け!!騎兵は退避して、街道を封鎖しろ!!そこらに何者かが潜んでる!そいつらを狩り出せ!」
ちっ、ゆっくり見学も出来やしねえ。
ヴァルターはエドアルドと探られない様に静かに森の奥に引き返した。
ちょうどヴァルターが街道から後退しつつあるその頃、エバーハルト、カール、エルンストの三人組は完全に迷っていた。さっきまで、銃声が比較的近い場所で複数発聞こえた。多分、銃声の大きさから1kmか1.5km位と推測していた。だとするとそれ程離れてはいないが、銃声がしたという事はつまり…その銃声がした場所近くにアレが居る、という話だ。三人は迷った。そちらに近づくか、それとも遠ざかるか?
今居る三人の中で一番階級が上なのはエバーハルトだ。その為、エバーハルト曹長は決断した。
今、自分達は南に向かっている筈だ。向かう南に対して直角に、つまり西に向かえばどこかで街道に出る。街道に出よう。これ以上は1秒だって森の中に居たくない。あのバケモノ以外にも夜の森なんざ何が潜んでいるか。
「よし、ここより西に向かうぞ。街道に出る!」
そう決断し、言葉に出した瞬間に前方に大きな火の柱が立ち昇った。