2_16.崩壊と絶望
ブルーロとオットーは只管逃げた。街道に向かって走り続けた。
もう駄目だ。アレは相手にしてはならなかった。一人が犠牲になった時点で、全力で逃げるべきだったのだ。だが、いくら走っても街道に当たらない。どこかで進むべき方向を間違えたのかもしれない。こんな時になんてこった…
ブルーロ達の一行は、ドロドロがかかったレオを遠巻きに見ていた。レオの足元には、人間の皮みたいなモノが落ちていた。松明にテラテラと光るレオの顔に張り付いたドロドロが徐々に消えさり目を瞑っていたレオは、大きく息を吸い込み目を開けた。
「み…み…みん…な…お…俺は…ぁ…」
たどたどしく、レオが話し始めた。だが、目の中にはあのドロドロが光ってる。
「あの目!!レオがバケモノになった!!」
「おい、撃て!レオを撃て!!」
「レオの姿で話しかけるなバケモノ!!」
「ああ、神様…」
皆が一斉に叫びながらレオを撃った。レオは素早い動きで逃げ去ろうとするも、ハンスの弾に当たった。レオは撃たれた所からドロドロを流しながら、一番近くに居たフランツに飛び掛かり、銃を構えたフランツに撃たれながら彼を抱え込んだ。そして…フランツが次に目と口を開けた時に部隊の士気は崩壊した。
「…あ……ぁ……レ…オ…ぉ…」
「ふ、フランツもバケモンになっちまった!!」
「死ね!死んじまえ!!」
「待て!撃つな!!皆、撃つな!!」
ブルーロは皆が撃つのを止めようとしたが、誰も聞かなかった。全員パニック状態のまま、フランツを撃ち続けた。撃たれたフランツは、近くのヨハネスに飛び掛かった。そして…
ブルーロ達は逃げ出した。
ヨハネスが立ち上がる前に逃げだした。
バラバラに、装備も放り出して逃げた。
ブルーロは偶々近くにいたオットーと逃げたが、その他の連中はどこに逃げたのか、暗闇の中でさっぱり分からない。そしてブルーロとオットーは街道と思われる方向に逃げだしたのだ。だが街道と思われる方向に走り続けているのに一向に辿り着かない。時々、ここから離れた場所で何発かの銃声が響く。それは、部隊の誰かの墓標のような気がした。
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ボーパル大尉が張り込む45km地点に、騎兵が駆け込んできた。
「ボーパル大尉!銃声が聞こえました!!50km地点!」
「よし、そこに行く!メルロ、伝令!40km地点からここまでの警戒ラインは引き払え。引き払った部隊は全員50km地点に移動せよ!」
アルスランから森の脇を南に下がる街道で、アルスランから40km地点を基点にして1km毎に50km地点まで10カ所、保安部隊と騎兵を配置した。延々と続く10kmの警戒ラインに引っ掛かったのは複数の銃声だった。何人居るかは分からないが、そんなに大人数ではあるまい。恐らくこの人数で対処が可能だろう。問題は、例のアレがこっちに向かってきた場合だ。その時は、逃げの一手だな…
全員50km地点に集まった。
先程まで聞こえていた銃声はもう聞こえない。森の中にも全く気配を感じなかったが…そこは突然賑やかになった。森の中から、複数のさけび声が聞こえてきた。
「逃げろ!!そこから離れろオイゲン!!!」
「ちくしょう!!どうやったら死ぬんだこいつ!!」
再び銃声が聞こえた。複数発撃っているが、相手は例のアレだろうか…どうやら、逃げている方は少人数は2、3人の様だ。まだ森の中に居るが、そろそろ街道に出てきそうだ。
「馬鹿野郎、撃つな!!」
「もう街道だ。街道まで出たら逃げられる!!」
「回り込まれた!!ヴァルター!!もう駄目だぁぁぁ!!」
「オイゲン!!ああっ。オイゲン!!!」
「オイゲンはもう駄目だ。行くぞ、エドアルド!!」
「ああ、オイゲン…すまん…。」
「街道だ!もう近いぞ!!」
そして街道には銃を構えたボーパル大尉率いる保安隊の警戒ラインが彼らを待ち受けていたのだった。