表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
88/327

2_13.猟師イーヴの長い話

「これはあれだ。禁忌って奴だぁ。ペラペラ喋っちまうと、俺も魅入られちまう。」


生まれてこの方ずっと山に住む無教養な猟師だ。迷信やら何やらを信じ込んで畏れてしまうのは仕方が無い。だが、話したら魅入られるのか?話しただけでか?それ程迄の怪異だと、迂闊に手が出せんな…


「うむ、そうなのか…そこを何とか話せるだけでも教えてくれんか?」


ボーパル大尉は食い下がった。

ふと懐から金貨の袋を取り出した。猟師の収入からすると2年分の年収位はある。迷信と現金はどっちが強いだろうか?


「勿論、話してくれたら礼は弾む。どうだ?」


懐から出された金額とボーパルの顔、そしてラウルの顔を交互に見つめ意を決した様に話し始める。


「俺ぁ大した事は知らねえ。この辺りの猟師をやってるなら常識だ。おめたち、そんな話でいいか?」


「おお、それで構わんよ。続けてくれ。」


「それでいいなら…ちょっと長ぇぞ。

毎年春になるとな。色んな花や木が咲き始めるだよ。その花や木が咲き始めるとな。小せえ動物も出てくるだよ小せえ動物が出てくるとな。大きい動物も出てくるだよ。そしたらな。アレも出てくるだよ。アレはな。形を持ってねえ。いつも何かの動物のように動くんだ。ある時はリスのように。ある時はヘビの様に。多分、その動物がアレに魅入られたんだよ。


昔々、ここらの村にジュルジュって若ぇ奴がいただ。こいつぁ若ぇが、大層鉄砲が上手かっただ。鉄砲が上手ぇ事に自信を持ちすぎて、何も怖ェもんが無くなっちまっただ。

 

ある時、俺ぁジョルジュと一緒に猟に出かけたでな。

森でジョルジュは別の獲物を仕留めて、俺も別の獲物獲っててな。薄暗くなってきたで、もう帰ろうとしてただよ。そしたら俺達の前に、変なウサギが出てきてな。俺達もう獲物抱えているで、余計なモン獲ったら山の神に怒られる、てんで、そのウサギを見逃しただよ。


んでも、そのウサギは逃げずに逆に俺達を追いかけ始めただ。気味が悪くなったジョルジュは、そのウサギを撃とうとしただ。だけんど、ウサギには当たんねえ。遂にウサギに追いつかれたジョルジュは、ナイフでウサギを刺そうとしたんだけんど…ウサギはジョルジュの顔面に飛びついて溶けだしただ。そしてウサギは皮だけになっちまって、ジョルジュの顔面には何か得体の知れねえベトベトが張り付いてただ。そのうち、ベトベトは顔から無くなっちまってな。その後、ジョルジュがおかしく成っただ。


で、俺の名前をたどたどしく呼びながら近づいてきただよ。

だけんどジョルジュの目がな。瞳が無いのよ。ベトベトの色が目の部分にあるだけで。俺ぁ気持ち悪くなってジョルジュを撃っただ。そしたら、ジョルジュの肩に当たっちまったんだけどな…俺ぁ慌ててジョルジュの傍に行ったけんども…普通、動物を撃ったら肉が弾け飛ぶだ。だけんど、ジョルジュは弾が当たった所からベトベトが出ただけだ。ベトベトがどろどろ流れて、日光に当たって煙を上げてただ。俺ぁはもう怖くて怖くて逃げだした。そんで、たまたま生きて帰って来れたけんども…」


話し終わったようで、イーヴは黙っている。

確かに長い話だった…。だが、森に居るそいつは人を襲うのは確定した。そのベトベトは一体何だろうか。それに森の中で出会ってしまったら…ボーパルは、森に入る事は賢明ではない気がしてきた。


「面白い話だった、イーヴ。こいつはお礼の金だ、受け取れ。」


先程の金貨が詰まった袋をイーヴの前に放り投げた。

だが、イーヴは直ぐに袋を拾わなかった。


「保安隊の旦那、悪い事は言わねえ。アレに関わるのは止めた方がええ。アレは人間も襲うだ。襲われたらそいつは魅入られる。魅入られたら、もうお終めぇだ。ジョルジュも最後は酷ぇざまで死んじまっただ。ある日、森の中に入ると皮だけが落ちていた。拾い上げてみると人の皮でな。ジョルジュだっただ…」


イーヴは思い出した様で、ガタガタ震えていた。


「分かった、もう良いぞ。言い辛い事を言わせて済まなかったな。もう帰って良いぞ。」


懐からもう数枚金貨を取り出し、先程の袋の所に置いた。イーヴはようやっと動き出し、素早い動きで袋と金貨を自分の懐に入れ小さく挨拶をして部屋から出ていった。


「ふーむ…どう思う?ラウル。」


「自分も最初に聞いた時は、迷信と思いました。ですが…実は最初に聞いた時には別の猟師からだったんです。信じないでいると、その猟師がイーヴに話を聞け、と。曰く"あいつは唯一アレと遭遇して生きてる奴だ"と。それなものですから、彼をここに呼んで話をさせたのです。」


「そうか…話半分でも厄介だな。何か弱点は無いもんかな?」


「そもそも出会ったのはイーヴだけですから…ただ、銃で撃ったら動きは一旦は動きは止まるみたいですね。」


撃たれた所からどろどろが流れ落ちて、そのドロドロが煙を…ボーパル大尉は、重大なヒントがここにある気がしていた。そして、このわけの分からないドロドロに、アルスランの騒乱を煽った連中が出会っている事を祈った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ