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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第二章 ガルディシア発展編】
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2_12.ボーパル大尉の判断

エステリア王国東部 アルスランの町 帝国歴227年 5月26日 10時


アルスランの町は24日夜の暴動から落ち着きを取り戻した。

だが、保安部隊のボーパル大尉は釈然としなかった。捕縛した住人達を取り調べたが、扇動を主導していたようには見えない。必ず扇動を行った奴が居る。だが、そいつらは捕まっていない。


北は軽歩兵隊が固めていた。

軽歩兵隊隊長のセギュール大尉はいけ好かない奴だが、態々味方の足を引っ張る様な奴ではない。良くも悪くも命令通りだ。とするならば、北方への脱出を図る連中は全て捕縛した、と見るべきだ。


西は自分達保安部隊が固めていた。例外無く町を出る者は捕縛し、俺の目の届く範囲では脱出は不可能だ。


南は…騎馬隊だ。

一応、報告では何も脱出をした者は居ないという話だ。だが、南の騎馬隊は数が少なかった。何故ならば、南の脱出はそのまま漆黒の森に入る事を意味する。しかも夜の森に入る様な奴は居ない。だから南は比較的手薄だった。だが…


自分がもしこのアルスランから脱出を図るとするならば…?

北も西も完全に兵に封鎖されている。東は南より希望が無い。春の山脈越えなんて自殺行為だ。

であるならば、やはり漆黒の森に活路を見出すだろう。


そう思って翌日の朝に騎馬隊に連絡し、南の街道を封鎖した。しかし南の街道から発見の連絡は無い。あれから二日か…もう逃げたか?それとも元々扇動者なんて居なかったか?ボーパル大尉の元に保安兵が一人やって来た。


「ボーパル大尉、情報があるのですが…」


「なんだ、ラウル兵長?」


「アルスランの山間に住む猟師から以前に聞いたのですが…いやあくまでも真偽不明のヨタ話ですが一応報告を、と。」


「いいから話せ。」


「この時期、冬が終わって春頃に変な山怪が森に出るそうなんです。なんでも山や森で冬眠していた動物狙いなんじゃないか、と。その猟師曰く、この時期が最も出る。会うと恐らく死ぬ。一度出会って魅入られると、逃げても逃げても追いかけてくる。だからのこの辺りの猟師は今時期に森には絶対に入らない、と。」


「ほう、興味深いな。その猟師をここに連れてこい。詳しく聞きたい。」


「了解しました。直ぐに連れてきます。」


その山怪とやらが居るならば…

もし扇動者が森に逃げていたならば…

全部仮定の話だ。普通なら一考する余地も無い話だ。だが、もし仮に上の仮定が正しかったら?それに今や我々に打つべき手は無い。暴動が沈静化したと言う事は、表向き職務遂行完了を意味する。つまり今後は人員も予算も縮小する。打とうと思っても人も金も無くなり何も出来なくなる前に動きたい。まずその猟師に山怪を詳しく聞かなければ。こちらがかち合っても駆逐出来る状況を作っておきたい。それに騎兵隊を確保して、森から街道に…そこで大尉の思考は一旦止まった。


「大尉、お連れしました!山麓の猟師のイーヴです。」


「よく来た。少し聞きたい事があってな、イーヴ。」


「あんだぁ俺に聞きてえ事てあんだ?」


「うむ。ラウルからも聞いているとは思うが…この辺りの山怪の事だ。詳しく教えて欲しい。」


猟師イーヴの顔色は曇った。


--

それはじっと太陽が沈むのを待っていた。


それは長い冬が終わり、再び生き物が活動を行う春まで待っていた。

それは山々の岩とよく似た形で凍ったまま冬を過ごした。

それは暖かくなり小さな動物が自分の周りを駆け抜けて行く姿を見た。

それは小さな動物を自分の触手で絡めとり、侵入口から入り込んだ。

それは小さな動物の内側を溶かし、小さな動物の皮を纏った。

それはより大きな動物を求めて、小さな動物を装い彷徨った。

それは日光が苦手で、小さな動物の皮はそれを陽光から守った。

それは小さな動物のように動くので、より大きな捕食者に食べられた。

それはより大きな捕食者を、内部から溶かし…


それはある日一人の人間の男を見つけ、近づいた。

それはヘビのような体で人間が居る穴へと木の上から近づいた。

それは木から落ちると、何時ものように触手を侵入口に入れた。

それは人間の中身を溶かし、その人間の皮を纏った。

それは、溶かした人間の思考と知識を自分のモノにした。

それは虚ろな目で呟いた。


『お…れは…へるむーと……?

 とて…も…はら…がへった…』


穴の後には何かよく分からない粘液が残っていた。


それは太陽が昇る気配を感じた。

それは一旦、この人間達の集団を離れた。

それは思った。

まだまだ腹が減った。

まだまだ飯は沢山必要だ。


それは太陽が完全に上る前に、日光を遮れる所に潜り込んだ。

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