2_11.森に潜むモノ
ブルーロ達の装備は全てエステリア製だ。
補給の問題で敵地に潜入しているのなら、入手し易い方が良い。それに万が一捕まった時も、言い逃れが出来るかもしれない。そう思ってエステリアの銃や手榴弾を装備していたのだ。だが、ブルーロ大尉はこの装備が気に入らなかった。複雑な構造で、クソ重い癖に威力が弱くて射程が短い。なんて銃で戦ってやがるんだ…とエステリア兵に軽く同情した。
「オットー、敵は動いたか?」
「いえ、全く動いていませんが警戒している雰囲気です。」
この銃は300mでも当たらんだろう。しかもこの暗闇だ。せめて当てるには100m以内まで接近せんといかん。だが、条件が悪すぎる。せめて昼間の広い場所なら…
「あ、動きました。…こっちに向かってきます!」
「全員その場に停止、囲むように広がれ。二人一組で射撃準備しろ。オットー常に場所知らせろ。松明投擲準備。」
双方の距離は500mに縮まった。
「止まりました…様子覗う気配。」
「こっちに飛び込んできたら蜂の巣にしてやるのに。」
それはそうだ。
暗闇の中、殺気に溢れた15人の男が銃を構えて待ち構えているのだ。しかもヘルムートを殺った犯人かもしれないのだ。ここに近づくような人間も、ましてや野生の動物は居ない。が、この何者かは近づいた。
「大尉!動きます。先ほどより早い!あと300m!」
「オットー!来る方向知らせ!松明投げろ!オットーの松明周辺に松明投げて射撃準備!!」
何者かは、この暗闇の深い森の中で、あっという間に距離を詰めた。投げ込む松明で周囲はぼうっと明るくなる。松明を投げ込んだ所は、ブルーロ達から精々30m位な場所だ。だが、既にこの何者かは地面に落ちて燃える松明のすぐ後ろに居た。
「え!た、大尉!!すぐそこです!!」
「撃て!撃てうて!!」
一斉にエステリア製のライフルが火を噴いた。弾が当たったかどうだか全く分からない。だが弾が続く限りブルーロ達は闇雲に撃ち続けた。そして撃ち切った後に、辺りは静まった。
「やったか?どうだオットー?」
「分かりませんが…まだ気配はします。こっちを窺っている気配です。」
「あれだけ撃ったのに命中無しか…」
「あ、気配が遠ざかって行きます。」
「マジか?オットー?」
「マジだ、ヨハネス…大丈夫。行った。」
「大尉、一体今のは何だったんですかね。」
「全員油断するな。また来るかもしれんし、そもそもあれが何なのか俺も知らん。」
そもそも追われている身で、幾ら深い森とはいえ何時までも煌々と明かりをつけている訳には行かない。だが、ここは危険過ぎる。この真っ暗闇の、しかも深い森の中をあっと言う間に200m以上の距離を詰めてきたのだ。一体どうやってる?俺達は何を相手にしているんだ??
「全員、ここを撤収するぞ。夜通しで移動する。夜じっとしているのは不味い。」
ブルーロは迷っていた。
正直、街道に出た方が危険が少ないのではないか?この森を突っ切る事の方が危険ではないか?
だが街道は街道で、恐らく南に居た騎兵共が南に行く街道のあちこちを周辺警戒なり、街道封鎖なりしているに違いない。森の中のこいつは、一度でも銃で追っ払えた。オットーも居るから接近も探知出来るだろう。ともかく、この何だかよく分からないモノからは遠ざからなくては。
「よし、皆準備出来たな。行くぞ。一刻も早くここから離れて、南を目指すぞ!」
日中の移動は、まだ太陽を元に方角が分かる。
深い森の中で夜に移動する恐ろしさを彼らは実感していなかった。