1_63.第四艦隊接近
デール海峡中間海域 ガルディシア第四艦隊 5月3日 午後12時
第四艦隊は15ktで南下を続けていた。第二、第七艦隊との距離は11時の時点で40km程度。1時間程で28km弱、即ち相手とは12kmの距離に近づく。
「どうだ。あいつ等は見えたか?」
「前方12kmに接近。あと4km程で射程に入ります。」
「全艦隊、戦闘配置。射程距離に入り次第、前方の第二、第七艦隊へ砲撃を開始する。既に彼奴等は敵の奸計に落ちており、味方ではない。彼奴等の信号が来ても無視せよ。」
「ベルレンバッハ少将、これ…大丈夫ですか?」
「何がだ、ハイマードルフ。」
「後に僚艦を撃ったと、法廷に立つのは嫌です。」
「馬鹿を申せ、ハイマードルフ。陛下から賜った命令は海峡攻略と要塞殲滅だ。これを行わずして謀略に掛かり、船を引き返す彼奴等こそが反逆だ。これが終わり生きておれば、法廷に立つのは奴らだ。」
「…なるほど確かにそうでありますね。了解です。愚にもつかぬ事を申しました。」
ハイマードルフ大佐は納得しない気持ちではあったが、力強く言い切るベルレンバッハ少将に引き摺られた。ここでもう少し食い下がれば彼の命運も変わったのかもしれない。
「さぁ、そろそろ射程に入るぞ!」
「全艦攻撃開始!」
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エステリア王国 コルビェール宮 227年5月3日 午後12時
エステリア王国王宮の中でも一般に会議等に使われるコルビェール宮で先に行われた北ロドリア海海戦の報告が行われていた。
「ふむふむ、なるほど。戦闘後にヴォートラン方面に離脱し、大きく迂回してマールーン港に
戻ってきた。その港に見慣れぬ船が居り、これがニッポン国を名乗り戦傷者を救助した後に送り届けにマールーンに来ていた、と。」
「陛下、左様で御座います。そのニッポンを名乗る国は、手術可能な船舶を持っています。また、収容可能な戦傷者数は五千人にも上ります。一艦で、です。医療技術も相当進んでおりました。切断レベルの裂傷を繋げる程に。しかもそのような手術を船上で行う事が可能なのです。
そして斯様な物を持たされました。"無線機"と称する物ですが、我が軍の有線記号通信機の恐らく延長線上に存在するであろう類の物と思われます。我が軍で使用している物は、電信線にて互いの通信装置結び、互いに記号を送る事が可能です。ですが…この無線機は、線を必要とせず、尚且つ音声を送りあう事が可能です。」
「むぅ…エスダン将軍。これがそうなのか…触っても良いか?ほほう…大層小型だな…これを捻ると…"ザザー"、おお。して、そのニッポン国は戦傷者を送る見返りに何を要求した?まさか只働きという事もあるまい?」
「陛下、それが何も要求しては来ませんでした…物品の類は。ただ、国交を結びたく思うがその橋渡しとなって欲しい、と。」
「なるほど、ニッポンとは太っ腹な国よ。何か裏があるかもしれんが。ともあれ我が軍よりも進んだ技術を持つ国であると言うのであれば、余も先ずはその船を見てみたいのだが、叶うか?」
「緊急!緊急により失礼します!!」
「何事だ!」
「はっ、これはエスダン将軍!失礼します!緊急の伝令であります。デール海峡の要塞司令官アンベール大佐からの緊急連絡です。デール海峡急襲中のガルディシア海軍3個艦隊のうち2艦隊と停戦。上陸部隊の70隻は現在引き返している最中、停戦理由はニッポンの介入によるもの、との事です。」
「なんだと!?3個艦隊というと、第四と第七、それに第二か。ニッポンの介入と…一体何をしたのか…」
「ジョスタン将軍はどうしておる?」
「将軍は、只今ラグラス北方陣地にて待機中であります。」
「待機、とな。増援の件はどうなっておったか?」
「何度か要塞警備のフェルメ二等大佐より増援要請があったのですが…その度に、現有戦力を以って守備せよ、と仰せられまして。」
「ジョスタンをここへ呼べ。」