1_62.第四艦隊の判断
エステリア王国第五要塞ウージェンヌ 227年5月3日 午前11時~
バタバタと煩い音を立て、猛烈な風を巻き起こす甲虫のような飛行機械が、アンベール大佐の元に降りてきた。
一体これは何だ…
どういう原理で飛ぶ?どこから飛んできた?そういえばニッポンと名乗っていたな。ニッポンってのはどこの国なのだ?メルレネク大尉が言っていたのは、こいつらなのか。そもそも味方なのか敵なのか…
そしてこの甲虫の中から人が数人降りてきた。
「自分は日本国海上自衛隊所属の遠藤一等海尉です。戦闘停止にご協力ありがとうございます。」
「私はエステリア陸軍 海岸要塞司令官のアンベール大佐です。あの、ニッポンという所から来たとの事ですが…失礼を承知でお伺いしたい。それは一体どこにある国なのですか?」
「私共日本は中央ロドリア海中心辺りに位置します。そちらの方から参りました。」
「なるほど中央ロドリア海ですか。あの嵐の海の……もう一つ。貴方方は我々の味方なのですか?敵ですか?」
「ははは、直球ですね。私共は不幸な侵略戦争を一つでも無くしたいと思う者達です。今回、エステリア王国海軍エスダン将軍と交渉を行い、近いうちに国交交渉を行いたく思っておりました。ところが当該海域における戦闘勃発を確認致しまして。私共はガルディシア帝国とも交渉中でありますので、その両国が戦争状態となっているのは非常に不幸な事との判断から介入させて頂きました。」
「ああ、エスダン将軍とも既に。なるほど言わば中立という事ですね。ともあれ正直助かりました。我々の砲は相手に届かなかったもので。ところで貴軍の軍艦に搭載している砲はどこまで届くのですかな?噂に聞きましたが、10km以上の目標に外れる事なく当てたとか。」
「あれは…そうですね。凡そ30km程度と思って頂ければ。」
30km!30kmだと?見えない距離じゃないのか?目視出来ないではないか!見えない所をどうやって撃つ?…あ、この飛ぶ奴が観測するのか?だが、その命中率は何だ。どういう仕組みなんだ…?
「30kmとは凄いですな…それに良く当たる…何れ目の当たりにしてみたい所です。」
「ああ、良いですよ。こちらの司令官から、もし見学を希望であれば案内するように申し付けられておりますので、宜しければどうですか?」
「なんと!それは是非!!是非お願いします!」
「了解しました。ただ今、司令官に連絡しますので…
"こちら哨戒01、哨戒01、司令部願います"
"哨戒01、こちら司令部、どうぞ"
"哨戒01遠藤一等海尉です、エステリア陸軍要塞司令官アンベール大佐を旗艦に招待したい。受け入れ態勢を整えて欲しい。どうぞ"
"司令部了解、15分後に来られたし。"
"哨戒01、了解。以上"
15分後に受け入れ可能です。どうぞこちらに。」
「ま、待った!こ、これ何だ?どうやってる!??今、声がしていたこれは、どこと話している??」
「あ、これは無線機と言いまして、遠くと話せます。便利ですよ。」
なんて便利なシロモノを持っているんだ!これがあれば、各要塞間での連絡が緊密化出来るぞ。
あれほど走り回らなくても…ああ、そうだ!連絡と言えば!
「エンドー一等海尉、少しお待ちください。我々要塞守備隊は戦闘解除したが、後方は未だ戦闘待機中なのだ。直ぐに解除命令を出すので、今暫くお待ち頂きたい。」
アンベール大佐は直ぐに後方陣地に戦闘停止と、ジョスタン将軍への伝令をフェルメ二等大佐に依頼して、5分後には機上の人となった。
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デール海峡北方 ガルディシア第四艦隊 5月3日 午前11時~
「一体南方はどうなっている…北側の敵要塞は完全に沈黙したぞ。第二艦隊も第七艦隊も要塞攻略は終了したのか??」
北方の第四艦隊と、南方の第二、第七艦隊の距離は直線で40km程離れていた。その為、その中間に連絡船を入れ、発光信号で情報のやり取りをしていた。
「第二、第七艦隊共に戦闘停止しています。」
「なんだと!何故だ!? 確認を取れ!あいつら一体何をしている!勝手に戦闘停止など反逆行為ではないのか?」
「はっ、確認します!……"皇帝陛下より戦闘停止命令"、との事!」
「皇帝陛下の、だとう?馬鹿な!!敵の欺瞞工作だ!! 事、ここに至って戦闘停止などあるものか!! 敵の謀略にまんまと引っかかりおって!!馬鹿な貴族はこれだから御し難い!!
艦隊前進!!攻撃を続行するぞ!!」
「"上陸部隊は港に帰還中"だと…」
「馬鹿な!いや、馬鹿だと思っていたが、ここまでか!!第二、第七艦隊は敵の奸計に落ちた。最早敵と同じ存在だ。彼奴等に何発か砲撃して目を覚ませてやるぞ。」
第四艦隊は戦闘状態を維持しながら、デール海峡南側に向かった。