1_61.エルメ海岸上陸作戦の中止
エステリア王国第五要塞ウージェンヌ 227年5月3日 午前11時
「砲撃が止まったぞ…?」
「静かですね…大佐。」
「他の陣地はどうなった?」
「第五要塞以外全て砲撃を受けました。命令通り偽装しています。第1、第9を除く全ての要塞は生きています。」
「そうか。そうか…よし、後方の重騎擲弾兵陣地に伝令!再度要塞に戻れ!敵艦隊が射程に入り次第、反撃するぞ!」
「第九要塞イルマ跡の観測員よりアンベール大佐に報告! 見慣れぬ艦隊が接近、ガルディシア第二艦隊に砲撃。ガルディシア第二艦隊は分遣隊を出した所、分遣隊は砲撃により全艦が行動不能に陥った様で、降伏旗を掲げています。」
「なんだと?どこの国の艦隊だ?」
「不明です。見た事の無い旗です。艦隊は5隻、4隻が砲撃。射撃の際の射程ですが…恐らく10km以上を初弾で命中させてます。その後の射撃も全弾命中、ガルディシア分遣隊12隻が、2分以内に全艦行動不能となりました。」
「は? …いや、ちょっと待て。2分以内に12隻を、だと?それは有り得ない。正確に報告せよ。報告者は誰だ?」
「その…大佐…報告通りなのです…そのまま伝えました。報告者はメルレネク大尉です。」
「む、第七要塞のか。大尉が自らという事は…本当の事なのか!一体どこの国なんだ!!俺も見に行くぞ! 貴様等は、各自要塞に戻って戦闘待機!!」
そこにバタバタと煩い甲虫のような機械が飛んできた。
「我々は日本国海上自衛隊である。ガルディシア艦隊は戦闘を停止した。エステリア軍は直ちに戦闘を停止せよ。」
「あれは一体なんだ??ニッポン?なんだそりゃ?」
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ガルディシア第二艦隊旗艦戦艦ノルターズム
護衛艦きりしまとグラーフェン中佐は無線で話していた。
「たった今、我々にガルディシア帝国皇帝からの戦闘中止依頼が入りました。皇帝陛下からゾルダー中佐という人を経由して。ゾルダー中佐という方は御存じですか?」
またか。またもゾルダーがここに。あ奴一体何をしているのか…
「ええ、勿論です。元々我々の艦隊に居た者です。確かゾルダーはニッポンに何日か滞在したとか。」
「ああ、そうですね。彼は初来日したガルディシア人として一部有名ですよ。」
勿論駆逐艦マルモラのガルディシア一行は秘密裏に上陸していたので、知っている人間は政府関係者とか自衛隊関係者ばかりだったのだが。
「世間話はこの位にして。皇帝陛下からの戦闘中止依頼とは?どういった内容か教えて頂きたい。」
「"全艦戦闘を中止して撤収せよ。"と承っております。勿論、信じて貰えないかもしれませんが嘘は言っておりません。もし、信用せずに再度の戦闘再開となっても、我々の攻撃力は先程ご覧頂いた通りですので、宜しい結果には成らないかと。」
残念な事にグラーフェン中佐は見ていなかった。
しかし、僅か2分間で12隻の船を行動不能にされたと聞いた。しかも外れる事無しに、陸上戦艦を20隻も当てていた。そんな連中と戦うなんて自殺行為も甚だしい。
「我々、第二艦隊と第七艦隊は戦闘を停止致します。また、陸上戦艦艦隊に関しては、このまま元の港に戻ります。その間の発砲は控えて頂きたい。」
「承知しました。貴官の判断に感謝します。」
「さて、問題は…第四艦隊ですな。この海峡の私どもが居る場所は南側出口。北側出口に第四艦隊が居ります。この艦隊指揮官はベルレンバッハ少将と言いましてな。昨日の海戦で指揮官を失い、代理で指揮をとっておりますが…」
ベルレンバッハ少将は、第七艦隊旗艦アレンドルフを訪れた際に見た、日本の輸送艦おおすみの敵味方区別無い救助活動を見て、そして無線機に夢中なアルスフェルト伯爵を見て、最後に爆発した。
「失礼を承知で言わせてもらう!! 一体これはどういう事だ!! 我らの艦隊でどれだけ被害が出たと思っているのだ!!それを救助を他人に任せて、得体の知れぬ玩具に夢中とは!! 帰らせて貰う!!」
指揮官を失っているのだ、とアルスフェルト伯爵は無礼を不問にしたが、第四艦隊は弔い合戦を強く希望し、どこかでそれを果たそうとしている。このままニッポンの船と会わすのは…