1_60.エルメ海岸上陸作戦-③
デール海峡南方 海上自衛隊 第6護衛隊群 5月3日 午前11時
高田は考えていた。
最小の費用で最大の効果を。どう攻撃するか、どう演出するか?先程、連絡が来た外務省二階堂より、"交渉決裂"という手札を入手した以上は彼らガルディシア人に対し、こちらの行動を見て大人しくして頂く効果的な方法は何かを考えていた。
「うーん、思い浮かびませんね。あの艦隊は結局要塞攻撃も上陸作戦を止めませんしね。脅しも効かないなら、殲滅しか無いかなぁ…」
先程放った127mm砲を艦の前後に受けたガルディシア艦だったが、艦隊の一部がこちらに向かってきた。残りは要塞への攻撃を続行している。そして上陸用舟艇と思わしき船の一団は徐々に海岸に近づいていた。
「高田さん、どうしますか?」
行動の指揮権は高田が一任されていた。その為、田所2佐はこれからの行動を聞いて来る。これはどうしたものですかねぇ…
「分かりました、腹を括りましょう。田所2佐、きりしまの佐々木1佐に連絡してください。全艦でこちらに接近しつつある、分遣隊を砲撃して下さい。動力船は艦尾を、帆船はマストを狙って下さい。艦中央に当てると蒸気ボイラーが爆発する可能性があります。それもスペクタクルで個人的には推奨なんですが…今回は我慢しましょう。」
「了解しました、直ぐに連絡します。」
「分遣隊殲滅後、上陸用の船を全て沈めます。こちらは絶対に上陸させないで下さい。尚、上陸用の船が戻る分には、これを攻撃しない事。」
「併せて連絡します。」
第6護衛隊は、こちらに近づくガルディシア艦隊に砲を向けた。
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ガルディシア第二艦隊から派遣された12隻の分遣隊は、射程範囲内に向かって遮二無二突進した。どれほどの射程があるか不明だが、要塞攻撃中に旗艦を砲撃した事から、恐らく砲撃範囲内に居る事は間違いない。とするならば、敵艦よりも数の威力で押し切る戦法しかない。分遣隊を指揮するトライアー大佐は、全速力で第6護衛隊に襲い掛かる積もりだった。
と、暫く動きを止めていたニッポンを名乗る艦艇に動きがあった。
「敵艦発砲!」
発砲とほぼ同時に分遣隊の何れかの艦に命中した。
「巡洋艦ヴェンシュテットに命中!艦後方に被弾しました! 駆逐艦ソーン、ヘルステン、レンフェルト、同じく艦後方に被弾。全て舵とスクリューがやられています。」
最初の発砲で分遣隊の1/3を無力化だと?
「敵艦再び発砲!!
…駆逐艦ファードルフ、艦後方に着弾。あ、待って下さい。駆逐艦エルトフェルトも、艦後方に着弾。両駆逐艦共に操舵及び推進能力喪失!」
「砲艦ホルトッセ、ヴィエル、メインマストに着弾。マストがへし折られました。」
4隻が1発ずつ撃って4隻に当てる、だと? しかも次弾装填速度の速さはなんだ?もう次が撃てるだと?俺は今、何を見ているんだ?何なんだ、あれは?? しかも、あと残りは我々だけでは無いか!?
「敵艦発砲しました!!!」
「衝撃に備えろ!!」
その瞬間、乗艦である巡洋艦ノルトシュルトに衝撃が走った。
「当艦に被弾!!」
「被害状況知らせ!!」
「推進力喪失…舵が効きません!」
「同じやられ方か…」
「他、駆逐艦タープ、ゾィエン、フールト後方に着弾! 全ての艦が攻撃されました。全て操舵能力喪失した模様。艦長、どうしますか?」
「どうするも何も、何も出来ん。おまけに射程にも入れん。これほど器用な真似が出来る敵だ。
向こうはこっちを撃ち放題だろうさ。機関停止!砲を相手に向けるな。降伏旗上げろ。」
「上陸部隊は大丈夫でしょうかね…」
「どうであろうな。優しい敵である事を祈るばかりだ。」
「敵艦更に発砲しました!!」
「なんだと!?どこを狙った!?」
降伏した分遣隊とエルメ海岸の中間辺りに上陸部隊は必至に岸を目指して前進を続けていたが、遂に上陸部隊に砲弾が飛んできた。そしてぶんぶんと飛ぶ、例の飛行機械がまたやって来た。
「警告!聞け!ガルディシア人達よ。我々は日本国海上自衛隊である。先程、貴国皇帝ガルディシアIII世より、連絡を承った。皇帝陛下曰く、"直ちに引き返せ"である。繰り返す。"直ちに引き返せ"。これ以上当該海域に留まる場合、貴軍の安全を保障しない。」
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第七艦隊は、第二艦隊との合流にデール海峡を南下していたが、海流の関係でなかなか進めなかった。今時期海流は南から北に流れる為、南から北に進むのは若干時間がかかるのだ。ようやく第二艦隊と合流を果たしたアルスフェルト伯爵は、直ちに第二艦隊へと連絡船で移動し、第二艦隊旗艦ノルターズムに乗船した。果たして艦橋は、お通夜の様な雰囲気だった。
「第七艦隊のアルスフェルト伯爵です。司令官のロトヴァーン侯爵は何処に?」
「第二艦隊の司令官代理シャールテン准将です。ようこそ戦艦ノルターズムへ。ロトヴァーン侯爵は現在、陸上戦艦艦隊の指揮を執っておられます。」
「して、要塞攻略の進捗は如何か? 我々第七艦隊が来たからには、直ぐに攻略が可能であるぞ。」
「それが…ニッポンと名乗る正体不明の敵からの攻撃で…分遣隊12隻が砲撃を受けて無力化しております。また、上陸部隊も攻撃を受けております。ただ…」
全てを聞く前にアルスフェルト伯爵は話を遮った。
「何?それは誠か!?ニッポンからの攻撃!!?お主等それは不味いぞ…グラーフェン!連絡は可能か?! ニッポンと連絡を取れ!直ぐに!!」
グラーフェン中佐は懐から無線機を取り出した。
「こちらグラーフェン中佐、こちらグラーフェン中佐! ニッポンの船、応答願います。」
「ザザッ…こちら日本国自衛隊第6護衛艦隊旗艦きりしま。感度良好です。グラーフェン中佐、どうぞ。」