1_05.小さな島の惨劇
不死の王は一番近くの小さな島にたどり着いた。
どうやらここは漁村のようで、港に石で出来た囲いがある。そして小さな漁船が数多く繋がれていた。港に上陸するとすぐに鉄で出来た箱が何個も置いてある。不死の王が辿る長い記憶には石で組んだ家や木造の家、布で作られた家などの記憶はあるが、この建築様式に記憶は無い。
変わった文化を持つ島だな。おまけに道がずいぶんと滑らかだ。ふと不死の王は住人に興味を持った。
これは彼らの魂を狩る前に、色々と聞くのも一興かもしれぬ。無限の知識と知恵を探求し続けた結果として不死と化したが故、我が知らぬ存在は認められぬ。だが、我が近づけば人間は死ぬ。
さて、どうしたものか。
…まぁ、死なぬ人間に当たれば得られる事もあろう。
それまでの者は我の神に至る糧となれば良いだろう。
これが少人数相手であったなら、死の王も慎重に事を運んだ筈だ。
しかし島の人口5万人という事実が凄惨な事態を齎した。
小さな島 西部の港
なんか窓の外、突然嵐になったんだけど。
こんな事ってあるの?
アイナはベッドの中で携帯を片手に入力していた。
部屋の外は雷が鳴り響き、強い風が家をガタガタと揺する。まるで台風のようだ。天気予報はまるで当たらない。明日、遊びに行く予定だったんだけど大丈夫だろうか?
…相手から返信が来た。
俺の所も凄い嵐だわ。
さっきまで雨なんて降ってなかったよな?
同じ島に住む彼からの返信なので、当然同じ状況の筈だ。と、突然文字でやり取りしていた彼から電話が掛かってきた。
「どしたー?」
「やばい!ちょ、ちょっとマジでやばい!!何かこっちに向かって来てる!!!」
「え?何かって何?どういう事??」
「遠くから悲鳴が次々聞こえるんだ!!いや、こ、怖くて…は、歯が噛み合わないんだ!なんだこれ?なんなんだよこれ?」
彼の住んでいる場所は港側だ。
え、港からくるのって何?こうさくいん、って奴??いやそれよりも彼は昔からヤンチャしていた奴だ。それこそ工作員を間近で見ても震えてガチガチなるような気弱な奴じゃなかった筈。オバケでも出たって事??
「まじで何だかわかんないんだけど??」
「俺もわからねえ、身体の芯から震えが来て止まらない…。頼む、警察に連絡して…うわ!うわ!うわわわ!!黒い、黒いのが!!!」
それっきり電話の応答が無くなった。