1_57.エルメ海岸上陸作戦-①
エステリア王国西部エルメ海岸内陸要塞 227年5月3日 午前8時
デール海峡のエステリア王国側には、絶好の上陸ポイントがある。それがこのエルメ海岸だ。
以前は交易が盛んで旧エウグスト王国のティアーナ港と結んでいたが、ガルディシア帝国が大陸統一してからは、交流は絶えていた。
海岸向かって左側に砂浜、中央に奥に続く道、そして右側には寂れた港があった。その海岸を見下ろす丘にはエステリア王国が作った要塞陣地が構築されていた。
海岸中央の奥に行く道路が切り開かれ海岸地帯を南と北に分けていた。この北側を第一要塞から第四要塞、中央に第五要塞、南側に第六要塞から最南端の第九要塞まで、9つの要塞が設置されていた。
要塞の主要装備は大型砲を2門と、兵が射撃に使う銃眼や偽装陣地があり、9つある要塞は各々の射界を補完しあう様に設計されていた。各要塞砲は射程が4km程あり、デール海峡からエルメ海岸全域を射界に収めていた。各要塞陣地は個別に監視兵がおり、それぞれが24時間体制で周辺の監視を行っていた。だが、各要塞の連絡方法は手旗だった。
そして、ここ最北の第一要塞アナトールでは…
「ヴィヴロ上等兵、交代の時間だぞ。お疲れ、飯食ってこい。」
「ありがとうございます、レイミュー軍曹。」
「ん…?ヴィヴロ、ちょっと待て!」
「え、どうしたんですか?」
「なんか見えるぞ、デール海峡の北側…あれは…船だ。…艦隊ぽいな。ヴィヴロ、警報鳴らせ!!」
「了解しました!」
「それと要塞守備隊長のアンベール大佐に連絡だ!」
「直ぐに!」
ただの商船だと良いんだが…との、レイミュー軍曹は思った。と同時に、最南端の第九要塞イルマでも同様の報告が入った。要塞陣地中央奥に要塞指揮所である第五要塞ウージェンヌがあった。要塞指揮官のアンベール大佐は、第一要塞アナトールと第九要塞イルマから同様の情報が入った時点で、これは攻撃だ、と判断した。
アンベール大佐は警報を鳴らし、総員に戦闘配置を命じた。と、同時に陣地後方のフェルメ二等大佐にも連絡兵を走らせた。大至急、ジョスタン将軍に攻撃を受けている事を伝えろ、と。
あとは敵が射程に入ってくるのを待ち、撃つだけだった。しかし敵艦隊は距離6kmまで接近した後に停船し、砲撃を開始した。要塞砲の射程は4km、こちらの砲は届かない。
「くそっ、奴ら射程に入って来ない!!しかも船に乗せてる癖になんて射程だ!」
第一要塞と第九要塞が滅多打ちに合っている頃、フェルメ二等大佐は、再度ジョスタン将軍に伝令を出した。
「"要塞砲射程外から攻撃を受けている。エルメ海岸上陸の可能性大、至急援軍乞う。"」
それでもジョスタンは動かないだろうか…フェルメの予感は別の形で当たった。
次々と艦砲射撃によって要塞陣地は砲撃された。そしてアンベール大佐の元に次々と報告が入った。
「第一要塞アナトール陥落、弾薬庫に直撃しました!」
「第九要塞イルマも攻撃能力喪失!」
「第二要塞ベルトに砲撃が集中!!」
くっ、このままだと反撃も出来ずに全滅してしまう…増援はフェルメが行った様だが、そもそも増援が来た所で間に合わぬ。ここは要塞を捨てて一旦フェルメ達の重騎擲弾兵の陣地に後退し、敵が海岸に接近した所で、再度要塞陣地に入った方が良いかもな。よし!
「伝令!各要塞指揮者をここに集合させろ!第二要塞ベルト守備員は燃える物を集めて燃やせ!燃やす場所に気を付けろ。砲と弾薬を失わないように。まず、やられたように偽装せよ!!」
「了解しました!」
「次にやられた様に偽装した要塞の守備兵は、後方の重騎擲弾兵陣地に後退せよ。敵艦隊の接近までは後退だ。」
指揮所である第五要塞ウージェンヌから一番近い第三要塞シリスタンと第四要塞デジレの指揮官がやってきた。
「いいか貴様等!これはガルディシア帝国の攻撃だ。我々の要塞砲は奴らガルディシアの連中には届かない。しかし奴らの砲は我々に届く。つまり我々は反撃が出来ない。だがしかし、このまま引き下がる我々では無いぞ。一旦攻撃を受けた要塞陣地は放棄せよ。放棄の際には、燃える物を燃やしてやられた事を偽装しろ。やつらがのこのこ接近したら、再度要塞陣地に入って反撃だ。それまでは、順次偽装後に後方の重騎擲弾兵の陣地に後退だ。いいな。あと敵の接近を監視する兵をそれぞれ出してくれ。配置は…第一要塞アナトールの跡地だ。一度やった場所はやつらも砲撃するまいて。」
「了解しました!!」
「第二要塞ベルト偽装完了!撤退します!」
「第九要塞イルマはどうやら陥落しました…」
見てろよ、ガルディシアの狼共…それにしても第六陣地以南の連中はまだ来んのか!!
「第六要塞フランソワ隊長バフィー大尉であります!」
「第七要塞ギャストン隊長メルレネク大尉であります!」
「よく来た。第八要塞には貴様等から伝えろ、大至急だ。いいか…」
アンベール大佐は取り合えず今打てる手は全部打った。
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デール海峡南部 5月3日 午前9時
「もう始まってますね。」
「ほうほう、上陸部隊は出港していますねぇ。これ侵略の意図は明白のように見えますねぇ。あの小さい船を沈めるに最も安いコストの攻撃方法は?」
変な事を聞くものだ、と思いつつ護衛艦たかなみ艦長田所二等海佐は今回慌てて乗り込んできた内調の高田に答えた。
「あれが木造であるならば、20mm機関砲で十分だと思います。」
「機関砲ですか。スペクタクルが足りないですね。」
「は?スペ…?え、なんですか?」
「いや、こちらの話です。…可能な限り、人死にが出ず、尚且つ派手にそして印象に残る破壊の限りを希望します。」
「それは…難しいと思うのですが…なるべくやってみます。」
なんだこの人?田所二佐は正直困惑していた。
今夜は#WWG1WGA