1_55.エステリア王国との接触
エステリア王国 マールーン港 227年5月2日 午後3時
昨日の海戦で激戦の末、一旦ヴォートラン方向に離脱したエステリア艦隊は、大きく迂回しながらエステリアに戻ってきた。エスダン将軍は見えてきた港に、見知らぬ船が居るのが見えた。
「ん?あれは何だ。何か見知らぬ船が居るな?」
「将軍!マールーンより発光信号!」
「読み上げろ。」
「"マールーン寄港中の大型船はニッポン国の船、攻撃を禁ず”です。」
「はぁ?ニッポン国?聞いた事無いな。大体あれは甲板に何も武器が無い船だ。輸送船か?そんなモン攻撃するか、愚か者めが。まぁ良い。負傷者を乗せた船から接岸だ。急げよ。」
エステリア艦隊は海戦の結果、戦力の1/5を喪失した。それでも主力の船はほぼ生き残った。喪失した艦艇は旧式の物や、動力に問題があった様な鈍足の船がほとんどだった。つまり今回の海戦の結果を踏まえて、艦隊の今後の編成を組み直す必要があるという事だ、とエスダン将軍は港に入港しつつある艦隊を眺めながら思案していた。
「エスダン将軍!再度マールーンより発光信号!」
「何だ?」
「"至急、マールーンに入港されたし"との事。」
「ちっ、今入港中だろうが。慌てるな。」
「"客人、港で待つ"だそうです。」
「ニッポンの船とやらか?我々に関係あるのか?」
エスダンは船を降りるタラップに手を掛けた際に、下で待つ人達を確認した。一体何事なんだ?港の責任者に交じって見知らぬ軍服を来た者達も居る。さっきのニッポンとやらか?
「エスダン将軍、お待ちしておりました。」
「おう、戦は引き分けであったわ。ガルディシアもやりおる。何度も何度も発光信号送るな。何れ港に入るだろうが。」
「その件につきまして、ご報告があります。その海戦の際に負傷あるいは船を投げ出され海を漂っていた水兵達をこのニッポン国の船が救出して下さったのです。」
「む、なんだと?救出??如何様にしてだ?あの海域はガルディシアの狼共が今だ群れなして居るぞ?」
「はい、どうやらガルディシアとの外交交渉中との事で、奴らもニッポン国の船には攻撃しなかったようで。こちらがニッポン国のあの船の艦長、トコロザワ大佐です。」
「初めまして、エスダン将軍。私は、日本国海上自衛隊所属 輸送艦おおすみ艦長所沢一等海佐です。私共が救出したエステリアの方々は、総勢438名。そのうち重傷者に関しましては別の船にて手術を含む治療を行っております。本日は重傷者以外の420名をこちらの港にお届けに上がりました。」
「我が兵の救助には感謝する。感謝するが…手術とはどういう事だ?」
「我々の船には、海上で治療を行ったり手術を行ったりする機能があり、まして。今、お渡し出来ない18名は、別の設備の整った船にて治療を行っております。移動が可能になりましたら、改めてお届けに上がります。これがその18名のリストなのですが、読めますか?」
「いや…わからんな。読み上げてくれ。口頭で構わん。あ、いやいや、私では無く誰か人を寄越すのでお待ち頂きたい。」
「私共がここに来た目的は二つありましてね。一つはエステリアの救助した方々の引き渡し。もう一つには、御国と国交を結びたいと思いましてね。エステリア王国のその権限を持つ方に橋渡しを願いたいのです。エスダン将軍、ご了承頂けますか?」
「なんと。いやそれは構わぬが…」
「私共の船には、別にヴォートランの方々も救助しているのです。これからヴォートラン王国に向かい、彼らも渡してきたいと思っておりまして、今はあんまりゆっくり出来ません。それで、一つ託したい物があります。」
エスダン将軍は所沢一佐から無線機を渡された。
昨日上げたのを今日見直したら、艦名逆だった…