1_49.北ロドリア海海戦-①
北ロドリア海 227年5月1日 午前10時
「敵艦隊発見!方角0-9-0、距離10km!敵艦隊は…ヴォートランの旗!ヴォートラン派遣軍です!」
「機帆船は帆畳め!艦隊に対し、2-1-0方面に離脱!駆逐艦は進路2-7-0で一旦退避、距離を置け。戦艦及び砲艦は敵艦に対して単縦陣で前進せよ、進路0-3-0維持、速度12ktそのまま!敵艦との距離を保てよ!」
ヴォートラン艦隊も、第七艦隊を発見していた。
「ガルディシア艦隊発見!艦隊旗から、第七艦隊と思われます!」
「よし、各艦砲戦用意!!こちらも敵に合わせて単縦陣を取る。各艦隊列合わせろ!」
右斜め前方に敵艦を発見したガルディシア第七艦隊。すぐさま足の遅い艦を西側に下がらせ、駆逐艦群を北上させて退避させた、どの道第七艦隊は命令で砲撃が出来ない。そして砲撃主力と思われる戦艦群が、ヴォートラン艦隊を正面左から包み込むように距離を保ちつつ機動した。
この動きに合わせて、ヴォートラン艦隊は単縦陣を取りつつ正面を突っ切りながら、ガルディシア艦隊と並行になる様に機動した。
この時、ガルディシア第四艦隊は第七艦隊後方30km地点に居たが、第七艦隊が敵と接触した事をまだ知らない。そして、エステリア海軍第一基幹艦隊はヴォートラン艦隊の右側に平行に進んでいた。エステリア艦隊はヴォートランの向こうに居る第七艦隊が見えない。
ヴォルン港の港 227年4月30日 午前10時
「アルスフェルト伯爵、今回の作戦に変更はありました?」
「おお、グラーフェン中佐。実はな…」
「なんですと!砲撃禁止!??それでは我々に死ね、と?」
「まぁ、そういう訳だ。如何したものか。」
「それは敵から攻撃されても、という事でありますか?」
「ある程度攻撃された後に反撃は可能となろう。だが、最初は砲撃せずに逃げ回るのが任務だ。
そして我が艦隊に被害多数となった所で、第四艦隊が来る。」
「それは…あの公爵か…」
「それが公爵では無いのだ。海軍大臣発令なのだよ。」
「まさか伯爵、この命令に従う積もりではありませんか?」
「命令には従うさ。従うが只死ぬだけの行動は取らん。」
「そうですか。それでは小官に任せては頂けませんか?」
「何か策があるか?」
「ある意味、賭けとなりますが…」
「ただ命令に従えば死ぬだけだ。その策を教えろ。」
「はい、では…」
北ロドリア海 227年5月1日 午後12時
「敵艦隊発見!正面10,000m前方!!…二個艦隊居ます!!右側にエステリア海軍!左側にヴォートラン派遣軍!」
「なんだと!?第七艦隊はどうした?」
「前方30,000m地点に居る筈ですが…艦影見えません。間も無く前方の敵が射程範囲に入ります!」
「馬鹿な…既に殲滅されておるのか、それとも敵前逃亡か…うぬぬ…各艦砲撃戦用意!正面の敵を捻り潰せ!」
グロースベルゲン公爵は降って湧いた戦闘状況に怒り狂っていた。
何故だ!アルスフェルト伯爵の第七艦隊が敵の砲撃により海の藻屑となった状況に駆け付け、敵の射程外から敵の艦隊を撃滅する、という簡単な仕事だった筈だ。何故、我々が挟撃されているのだ!?
第七艦隊はヴォートラン艦隊の進路を塞ぎつつ大きく迂回した。
結果として、ヴォートラン艦隊は進行方向が北上から西側への進路へと曲がり、西側に直進する事となった。エステリア海軍はヴォートランと並行に移動する様に機動していた。
ガルディシア第七艦隊は、ヴォートランの北上を防ぐ形で距離を保ち、決してヴォートランの射程内に入らなかった。しかし足の遅い数艦は、ヴォートランの射撃を何発か喰らい、数隻が撃沈したが、第七艦隊は命令を守り、1発も砲撃を行ってはいなかった。
そして第七艦隊とヴォートラン艦隊が進む先には…ガルディシア第四艦隊が居たのだった。
しかし第四艦隊には新型の長距離砲がある。敵の射程よりも遠くから射撃が可能であるのだ。その為、距離8kmから第四艦隊は砲撃を開始した。
ヴォートランとエステリアの前衛に被害が出始めた時に、エステリア軍最左翼に位置する機帆船の艦隊が急速に突進して来た。ちょうどこの時期に吹く風と海流に乗って、機帆船が信じがたい速度でガルディシア第四艦隊の右側面に突進し攻撃を開始した。射程と威力に劣る砲であっても、距離が詰まれば恐ろしい脅威だ。そしてエステリア海軍の弾は炸裂弾だった。エステリア海軍の弾は当たると爆発して思わぬ被害を第四艦隊に齎した。
エステリア海軍がガルディシア第四艦隊右側に攻撃を集中し始めたのを確認した後、ヴォートラン艦隊はガルディシア第七艦隊から距離を取るように、そして攻撃が集中して混乱が拡大しつつある第四艦隊右翼に突入を開始した。ガルディシア第四艦隊は右翼から崩れ始めた。
「戦艦フェルステナウ、被弾多数!戦列を離れます!」
「戦艦グレーフェン、艦橋に直撃!指揮能力喪失!!」
「駆逐艦アーレン、駆逐艦ヴァール、駆逐艦ギューター撃沈!」
「あっ!第七艦隊を確認しました!敵後方から接近中、距離12,000m!」
「攻撃を右翼に集中しろ!距離を取れ!!」
「戦艦エッセン、火災発生!行動不能!!」
「第七艦隊、射程距離に入った模様!これで敵艦隊を挟撃出来ます!…射程距離に入ったのに…第七艦隊砲撃開始しません!」
「なんだと!くそ、アルスフェルトめ!勝手な真似を!信号出せ!砲撃を開始せよ、と!!」
ヴォートラン艦隊は、敵第四艦隊の攻撃に夢中になっていた。撃てば当たる距離まで詰めたのだ、考える暇があったら弾を込めた。結果として引き時を誤った。第四艦隊右翼正面に食い付いていたヴォートラン艦隊は、後方からガルディシア第七艦隊の攻撃をまともに喰らう事となった。