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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第一章 ガルディシアと日本の接触編】
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1_47.それぞれの港で

ガルディシア帝国北方 ヴォルン港 227年4月29日 午前8時


ここヴォルン港は、朝から大賑わいだった。

元々駐留していた帝国第四艦隊に加えて、第七艦隊が入港してきた。その為、港は軍艦で埋め尽くされていた。この入港してきた艦隊への補給の為に所狭しと補給物資の積み込みやら何やらで、港全体がてんやわんやとなっていた。


「何ですか、この命令は…!」


アルスフェルト伯爵は怒りを隠しきれずに呻いた。この命令はグロースベルゲン公爵からでは無く海軍大臣からだ。つまりは大幅な戦略の変更があった事を意味する。それは軍人として受け止めるに吝かではなかったが、実の所、その為に自分が犠牲となるのは看過出来ない。


<<第七艦隊は北ロドリア海を遊弋。敵艦隊を陽動せよ。

 尚、第七艦隊の発砲は、これを一切許可しない。>>


「つまり我が艦隊は囮になれ、という事でしょうか?」


元よりそれが貴様等艦隊のそもそもの役目なのだがな、とグロースベルゲン公爵は思ったが、口に出したのは別の言葉だった。


「アルスフェルト伯。例の会議の件は聞いていると思う。あれから方針が変わったのだ。我々からの攻撃は控えよ、と皇帝会議にて決まったのだ。我々はこの意に沿って戦わねばならぬ。然し乍ら貴官が囮を見事果たした暁には我が艦隊がそれを撃滅する。それは安心して欲しい。」


馬鹿な!我々は何の為に遥々この北の海まで来たのだ。囮であるなら、ル・シュテルの第五艦隊の方が適任ではないか!元々エウグストの連中が主体の艦隊、どうなろうと構わぬではないか!


「まさか先方からの攻撃を受けた場合、反撃も許されない、と?」


「戦争する為の理由が必要なのだろうよ。所謂文明圏に属する我々が、野蛮な国の如く理由も無く攻め込むのは国際的に如何な物か、という話ではないか?」


「しかしそれでは我が艦隊が一方的に殲滅されてしまう!」


「そこで如何に艦隊の被害を抑えるかが、貴官の腕の見せ所なのだよ。」


全く話にならない。

この男、グロースベルゲン公爵は自らの艦隊に被害が及ばない所から、我々が死ぬ様を見届けた後に、大義名分を手に入れて攻撃する。1個艦隊が欠ける事に全く動じていない。


…冷静に考えれば、今回の会戦は2個艦隊対2個艦隊である筈なのだ。そこで味方1個艦隊失われたら、当然戦力の天秤は敵に傾く。それを気にする事無く、1対2を平然と行うとするのは…

表現上1個艦隊であるグロースベルゲンの第四艦隊の実力は、2艦隊分の戦力を保有している、という事ではないか?だからこそ、第七艦隊の犠牲分を差し引いても、同数の戦力はある。何なら残存の第七艦隊を吸収した上で敵より優位な環境を作る事も可能なのでは?もし本当にそうであるから…という事は…

帝都からの指示が無くても、恐らくグロースベルゲンはそうする積もりだったのだろう。それが故に、特に異を唱える事も無く命令を受け入れたのだろう。皇帝の威を借りた門閥貴族の癖に賢しい事だ。我々叩き上げの田舎貴族が本当の戦い方を見せてやる。黙って貴様等の栄達の犠牲には成らんぞ。


アルスフェルト伯は、第四艦隊司令部を後にした。


皇帝会議はニッポンの件を秘匿し、緘口令を引いた。その上で、相手側の暴発による戦争の開始を画策していた。それは勿論、ニッポンとの交渉において"先に攻められた"という大義名分を振りかざす為である。


グロースベルゲンとしては、そもそも第七艦隊を囮にして戦う予定が、皇帝会議の思わぬ方針変更により、その作戦に大義名分が与えられた。実の所、第四艦隊は主力戦艦は全て最新式の砲を装備し、敵艦隊から砲撃を受ける事無く一方的射程からアウトレンジが可能である。

対して、第七艦隊は一部に最新式の砲や、快速駆逐艦を装備してはいるものの、大半の装備は旧式に属する。つまり、敵と同等の能力だ。それが故に、第七艦隊の囮は当初から定められた事をアルスフェルト伯爵は知らない。


エステリア王国北方 マールーン港 午前8時


ここエステリアの港マールーンもまた大賑わいだった、

エステリア海軍主力の第一基幹艦隊と、ヴォートラン王国の派遣艦隊が集結していたのだ。


「敵第四艦隊はヴォルン港に停泊中。第七艦隊は、港に入り補給作業を行っている模様。両艦隊は、ここ数日以内に出撃する模様です。」


「ふむ…動きは相変わらずか。

 敵第二艦隊の動きはどうか?」


「ムルソー港から動きありません。

 ただし、ムルソー港にほど近いテイアーナ港に動きがあります。何やら小さい動力船を集結中の模様。こちらは潜入したスパイが全滅した為、何の目的で何の船が集まっているのか不明です。」


「まぁ、エルメ海岸上陸用の船だろうが、それは要塞が片づける。我々は海上の我らが敵を殲滅しようではないか。」


エステリア第一基幹艦隊司令エスダンは余裕の表情をしていた。ヴォートラン派遣艦隊のオルビエト海軍上級大将は浮かない顔をしつつ、エスダンを見ていた。どうしてこいつはこんなに余裕があるのだろう…能天気にも程がある。何か根拠か新兵器でもあるのか?


「…ともかくだ。

 敵の所在を明らかにした上で、デール海峡に誘引し押し込む。押し込めさえすれば要塞砲と両国合同艦隊を以て敵を撃滅、もし海峡に押し込めなくても、我々艦隊の挟撃により殲滅する、その方針に変更は無い。そろそろ出港であろう、エスダン将軍。」

 

「うむ、そうだな。我々も出港準備は整っておる。そうだ、オルビエト上級大将。コント産の旨い酒が手に入ったのだ。この戦いが終わったら、一緒に呑まんか?」


「…それは無事に終わればですね。」


派遣艦隊のオルビエト上級大将は、どうも悪い予感が拭えなかった。

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