1_45.皇帝との謁見
ガルディシア ゲルトベルグ城 帝国歴227年4月19日 午前11時~
ゲルトベルグ城に登城した海上自衛隊3名と高田は、要求された通りに武装解除した。といっても、彼らの武装は拳銃だけだった。城に到着した時点でゾルダーは城の案内人と何かを話し合った後に、
「私は先に陛下と謁見致します。皆さまは、謁見の間の外にて少しお待ちください。陛下との謁見が可能となりましたら、お声を掛けますので。」
と言って先に行ってしまった。
残された4名は、そのまま城の案内人の兵士に連れられ謁見の間手前の小部屋で30分程待たされる事になった。
そして漸く皇帝陛下との謁見が許可されたらしく、声が掛かった。案内の兵士に連れられて、謁見の間の大層なドアを開けると…
謁見の間は思った以上に広い空間がであり、それなりの装飾はなされているが、どこか質実剛健な雰囲気が見て取れる。部屋の両脇には帯剣した兵が立ち並び、奥に居並ぶ重鎮や将星を保護し
ていた。そして一段高くなったその場所にガルディシアIII世が居た。あれが玉座なのだろう。その両脇に仁王像な屈強な兵士が立っていた。そこに進みでると、4名は片方の膝をついて首を垂れた。
「ニッポンの使者とやら。余がガルディシアの皇帝ガルディシアIII世である。此度は我が軍の船が世話になったと聞いた。して、此度の来訪の目的は何か。直言を許す故、答えよ。」
「此度は御拝顔の栄を賜りまして恐悦至極に存じます。我々、日本国は貴国ガルディシア西方600kmの中央ロドリア海に存在しております。我々日本国は、貴国と国交を希望するものであります。」
「ほう、国交を結びたいと。ニッポン国と我らが国交を結ぶ事により何が得られるのであろう?」
「我々日本国は、安全と安心と便利を提供する事が可能かと思います。我々は貴国に無い物があると思います。」
「安全と安心と便利…とな。色々ゾルダーから聞いたが、正直眉唾だと余は思っておる。だが、確かに空飛ぶ機械で其方らはやって来た。聞こう。安全と安心とは何だ?そしてニッポンは何を求める?」
「我々は我々を国家として定める法律により、軍事的な物品の提供を行う事は難しく思います。然し乍らそれ以外の、例えば"情報"を提供する事は可能かと思います。これらの情報は、国家の安全を確保する為には誠に重要な事かと存じます。また、我々の扱う情報は伝達速度が最も重要です。非常に重要な情報であっても、判断するに手遅れとなる時に、当該情報を得ても意味がありません。適切な時に情報を得るなれば、それは国家の判断を行うに非常に有効な手段となり得るでしょう。」
「なかなかに面白い事を言う。続けよ。」
「我々には必要な物が多々あります。
例えば、鉄や銅等の鉱物資源。例えば、野菜や肉等の食料。これらの物を産出する国とは友好的に国交を結びたく思っております。貴国ガルディシアと日本は、互いに足りない部分を埋めあう互恵的なお付き合いが可能かと思っております。」
「ふむ。では問うが。ニッポンの全てを我が物としたい、我が国に平伏せよ、と言った場合、貴国はどうする?」
謁見の間の皇帝の玉座近くに居たゾルダーは目に見えて顔色が変わった。
それはまずい。陛下はニッポンを見ていない…あんな国相手にしたら…駄目だ、駄目だ、ちょっと待ってくれ!!
「お、畏れ乍ら陛下!ニッポンを相手にして…!!」
ゾルダーは全部を言い切れなかった。すぐ傍に居た兵にあっという間に組み伏せられた。が、ニッポン人達は動揺せずに、小型の映写機を用意していた。
「陛下。ここでプロジェクターを取り出す事をご了承下さい。勿論皆さまに危害を与えるような危険な物ではありません。そして判断はこれをご覧になってからにして頂けますでしょうか。」
「許す。その"ぷろじぇくた"とやらを披露せよ。」
いそいそと組立式リア投影スクリーンと、小型のプロジェクタを出し、バッテリーに接続した。スクリーンは、皇帝正面に設置したが、重鎮達が見えるように、やや後方に置いた。
「それでは日本の紹介を、このプロジェクターで致します。まずプロジェクターとは、映像を投影する機械です。この国ではカメラはある様ですが、カメラは瞬間を切り取った映像であり、この映像は連続した動画が総天然色で流れます。百聞は一見に如かず、まずはご覧下さい。」
80インチ程度のスクリーンに4K画像。
まるでそこにあるかの様に、スクリーンの中には日本の映像が流れた。これはゾルダーが見た物と一緒の映像であったが、ゾルダーは2回目に見てもやはり圧倒された。しかも…この後はニッポン軍の映像だ…
(な、なんだ。あの戦う車は?大きな砲が付いておるぞ…しかもあの火砲の威力…あのような速度で動く事が出来るのか。船にも帆が一切無い。つまり動力船か。どれ程の動力なのか…そしてあの船から飛び立つ"みさいる"とやらの速さと火力…船の大きさは然程では無いのに、あれ程の火力が内臓されておるとか見た目とは裏腹の恐ろしさよ…そして艦隊の一糸乱れぬあの動き…一番恐ろしいのは飛行する機械だ。あれ程の大きい塊が、信じられん速度で飛び、しかも先程の船に搭載しておった"みさいる"が、これにも搭載しておる…ニッポンの街並みからしても、あれ程の規模は見た事が無い。是非、あれほどの国の頂点となる"テンノウ"と会ってみたいものだ。それにしても、これ程の国が何故今迄表の世界に出て来なかった?幾ら嵐の只中とは言え、あの海から出るのは不可能ではあるまいに。まだ何か語られていない秘密があるに違いないが…)
ガルディシアIII世は、これらの映像全てが現実の物と思えなかった。しかし、傍らで伏せているゾルダー中佐の語った内容と相違も無い。それに自分がニッポンと敵対するかのような質問をした時の顔色の変わり具合は、本気でニッポンとの敵対を回避しようとしていた。ゾルダーはニッポンに数日滞在し、その事実を目の当たりにしている。という事は、この"ぷろじぇくた"とやらの内容は本当と見た方が良い。
あの軍事力…あれを我が国の物としたならば…
このタイミングで斯様な国との国交を結び、何れ彼の国の技術力の全てを我が物としたならば…
世界制覇も夢では無い。これは天啓だ。
プロジェクターの映像を見て、謁見の間の一同は全員度肝を抜かれていたが、その中でいち早く立ち直ったガルディシアIII世は言った。
「ニッポン人達よ。余は国交樹立を前向きに検討したく思う」
「おお、それは有難きお答えに御座います。
我が国は、安心と安全、これを元に恒久的、永続的に安定した国交を希望致します。その為、国交樹立には何点かのお願いが御座います。以下、我々の希望する最低限の三条件を述べさせていただきます。
① 日本-ガルディシア間の不可侵条約の締結
② 第三国との戦争状態にない事(侵略されている状態を除く)
③ 領土拡大を目的とした戦争行為を禁止する事
尚、私共は外交官ではありません。その為、改めて外交交渉を行う外交官を派遣したく思います。ご連絡に関してはゾルダー中佐経由を希望します。宜しくご検討下さい。」
なんだ、この条件は!何の権利があって、こんな要求をする!!
これではエステリア攻略戦争が出来ないではないか!
だが、ガルディシアとの交渉を断念した場合、ニッポンは他の国に行くだろう。別の国、例えばヴォートランやエステリアが奴らの味方となりあのニッポンの戦力が我々に向いたとしたら…我々に未来は無いぞ…どうしたものか…
苦い顔でガルディシアIII世は唸った。
ガルディシアIII世の悩みは、その場に居合わせたガルディシアの重鎮将星、貴族達にも十分に伝わった。何故なら、ほぼ全員が全く同じ事を思っていたからである。