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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第一章 ガルディシアと日本の接触編】
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1_39.駆逐艦マルモラの帰還

稚内港 駆逐艦マルモラ 4月18日午後2時~


艦に戻った一行は、それぞれ大量の土産物を持ち込んだ。といっても個室がある訳では無いので、艦後部にある石炭庫の隅をそれ用に囲って袋に入れて保管した。


「さて、ようやく艦に戻ったな。」


「ニッポンからのお土産、相当買い込みましたね。」


「わざわざニッポンで使える金をくれるなんざ御大尽だよな。」


「おおさ、俺ぁ火酒の類を何本か買ったぜ。」


「俺はお湯を入れると直ぐ喰える"いんすたんと"を買ってきた。」


「お、それどこで売ってた?俺の"びーる"と交換しねえ?」


「僅か2、3日の出来事なのに、物凄い昔に感じますね。」


「全くそう思う。さあ、ボイラーに火ぃ入れろ!働け!」


ゾルダー中佐は艦の始動を命じ、目的地を明らかにした。蒸気船は始動までに恐ろしく時間がかかる。今から準備しても夜に出航する事になるだろう。


「本艦はこれよりトウラン港に向かい、そこで上陸と補給を行う。可及的速やかに艦の出港準備を済ませろ。急げ!」


ゾルダーは命令を出した後、艦長室にすぐに閉じ籠った。


ゾルダーは、昨晩の考えを実行に移すべく計画を練っていた。トウランの港に着いた後に補給作業を行わせ、その間に港の保安要員を呼び込んで全員捕縛、その後にトウラン港で修理を行っている僚艦の艦長に、艦の交換を提案しよう。確かマルモラと同型艦のエッシャーが修理に入っている筈だ。駆逐艦エッシャーの艦長は誰だったか…シュラーク中佐か。奴なら乗る筈だ。ともかくも手紙を書くとしよう。


艦長室に閉じ籠った事を確認したエンメルス曹長は、昨晩の話した件をそれぞれの持ち場で回す様に指示を出した。


凡そトウラン港まで600km、半分の300km地点だと午後10時に出航したとして、18kt巡行で9時間、つまり翌日の朝7時だ。朝7時に反乱を開始したとして、10分もあれば完遂可能だ。ゾルダーは海にでも放り込めば良い。問題はその後だな…可能であれば知られずにエウグストの港に入る事

が出来れば良いんだが。ル・シュテル伯爵の息が掛かっていない、帝国への反乱分子のツテがある港か…いっその事、ニッポンに亡命するか?


それもありだな、とエンメルスは考えた。


--

危機管理センター


P-1が持ち帰った情報を官邸に報告し、危機管理センターではその情報を元に今後の方針を協議していた。


「これから戦争を行おうとする国と国交を結ぶのは反対だ!しかも聞く所によると、ここ数年戦争の連続という話ではないか!」


「平時ならそれも良いんですがね。選り好み出来ないんですよ、現状。」


「だからと言って侵略国家と手を結べば、後世になんと言われるか!」


「高潔に餓死するより、狡猾に生き延びたいんですよね、僕は。」


「そうだ!国民を飢えさせて何が国家か。何が政府なのか?!

 生き延びる為には国民にとって最善を選ぶべきでは無いのか?」


緊急に資源が必要な日本にとっての選択幅は狭い。だが、明確に戦争に加担する事には抵抗があっても、知らない所で戦争が行われていた、日本は知らなかったという体では傷口は小さい。高田が口を開く。


「うーん、それとなくガルディシアが窮地に陥るように工作しますか。例えば、戦争相手国に有利になる様な情報を流すとか、何気に潜水艦でガルディシアの船沈めるとか。で、困窮したガルディシアがこちらを頼るような状況にして恩を着せた上で戦争の調停役を買ってでる、と。戦争は終わるし、ガルディシアに貸しを作れるし、平和になるし。どうでしょうかねぇ?」


「高田君。もし、それが露見すると大変な事になるぞ?」


「見つかりますかね?彼我の技術力の差は伊達じゃないですよ。」


「もし工作するとなると、どういう手となる?」


「まずはガルディシアの戦争相手国と秘密裏に接触、ガルディシアの位置移動目的地、艦の構成、戦闘艦の数、補給船の位置、補給基地の場所、この位の情報を逐一流してやれば、相手国の戦力だけでなんとかなるのでは?なんとかならなかったら、潜水艦で旗艦辺りを沈めて…」


「いや、駄目だ。まずはガルディシアへの接触を行う。と、同時にヴォートラン王国とエステリア王国にも同時に接触する。ガルディシアと国交を結ぶ上で、相手国に"戦争状態にない事"や、領土の拡大を目的とした"戦争行為の禁止"を条件とする。この条件が飲めなければ国交を結ばない、という方向で進める。」


「資源、どうします?」


「ガルディシアに代わる資源がヴォートランやエステリアにあれば良し。そうでない場合は…戦争に介入する。その上でガルディシアとは友好的に資源の交渉を行う。」


「ああ、介入ですね。どの位の被害で相手は納得すると思います?多分一個艦隊位は殲滅しないと、お話聞いて貰えないと思いますが。」


「それを行うのは容易いだろうが、その後の交渉に影響無い範囲で。と言っても、新しい隣国なのだから手荒な真似はしたくないが。」


「そうですか…すると、例の駆逐艦マルモラの件。どうあっても情報を持ち帰って貰わないと、介入し辛いですね。」


「そうだ。日本の情報を目の当たりにした者が説得するのが一番効果的だろうし、それなりの地位の軍人が語るなら、説得力も増すだろう。乗組員が反乱を起こす前に何等かの手を打たなければ。」


「良い手があるんですが…」


--

稚内とガルディシア間の洋上中間地点 4月19日午前6時~


駆逐艦マルモラは追跡されていた。洋上の巡視船りしりと空中のUS-2である。危機管理センターから、それぞれに指示が飛ぶ。


「…まだ、動いては居ない様です。」


「US-2はどこに居る?」


「高度8,000ftの雲海の中に待機中。駆逐艦マルモラの後方2kmの上空。」


「巡視船りしりは?」


「マルモラ後方20kmで追跡中。」


「了解、0600、グラン・サッソ作戦開始せよ。対象を速やかに確保。絶対に乗組員に反乱を起こさせるな。」

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