1_32.危険な日本の軍事力
パレスホテル東京 2025年4月16日 午後2時
ゾルダー中佐ら一行はボードルームへ案内されていた。
当初ミーティングルームで下士官以上を予定していたが、全員参加となった為、より広い会議室が用意されたのだ。この部屋には会議用の全員が座れる広いテーブル1つと、休憩用の小テーブルが幾つか用意されていた。
広くてとても豪華だ。帝国にもこんな場所は滅多に無いな。精々が皇帝陛下の居城にある位なもんだ。それにしても、ここに来るまでの間は驚きの連続だった…空港からバスに乗り出すと、滑らかな道路が延々と立体的に続いた。なんと道路が地上だけでは無いのだ。地上に大きな柱が立っており、その柱の上に道路が作られているのだ。しかもこの道路には小型の自動車、しかも煙突も白煙も無く、このバス同様に密封された自動車が高速で走っているのだ。
道路から見える遠景では巨大な建造物の数々が立ち並んでいた。あれは何かとニカイドー外交官に尋ねると、商業ビルだ、と言う。ビルとはビルディングの略で、あの大きな建築物はビルと言うのだ。"商業ビル"…この国の商売はどれ程の規模なのか。"商業ビルだけでは無いんですが、おいおい説明します"と言う。それにしても、この道路には人も何も無い、唯々自動車だけだった。しかもこの道路上に走る車は全て一方に進んでいる事に気が付いた。再び聞いてみると、自動車専用道路だ、という。つまり、自動車だけが走る事が出来る一方通行の道なのだそうだ。これほどの速度の自動車だ。確かに、その方が安全なのだろう。そしてホテルに着く前に専用道路を降りた。そこからは行く方向来る方向共に恐ろしい数の自動車が居た。つまりこの国の自動車は、人の輸送という目的以外にも、物の輸送や商売や遊びに使われる、とニカイドーは説明した。…遊びに?これほど高性能な乗り物を遊びに?という事は一般の国民がこれを所有し、且つ自在に乗り回せる経済力を持っているという事か?なんという事だ…
ゾルダー中佐が考え込んでいると、二階堂外交官が入室した。
入室するなり辺りを見渡し、全員がテーブルに着いている事を確認した後に、切り出した。
「それでは皆様お集まり頂いたようなので、これから我が日本国の説明を行いたいと思います。お手元の水はご自由にお飲みください。お代わりも用意してございます。遠慮なくお申し付けください。尚、説明に関してはあちらのスクリーンにて1時間程の日本紹介ビデオをご覧になって頂きます。その上で、質疑応答の時間を取っております。我々もまた、貴国ガルディシア帝国の情報をお伺いしたく思っております。本日18時より、改めて外務大臣との会合を用意しておりますが、その前に、我々担当官との軽い情報交換の場を持ちたいと思っておりますので、宜しくお願い致します。」
「うむ、こちらとしても宜しく頼む。我々としては、軍機に関わる事は当然話す事は出来ないが、可能な限りお互いの利益となる様に情報交換をお願いしたい。」
ゾルダーは答えたものの、我々が提供出来るものなんて何があるのか?と思った。直ぐにスクリーンが降りて室内が暗くなり、プロジェクターが日本の歴史、政治、経済、軍事に関するビデオが流れ始めた。
…
日本紹介ビデオが終了し、ゾルダー中佐は圧倒されていた。そもそも最初から最後まで圧倒され続けていたのだが。
まず、ニッポンとは天皇という皇帝を頂点とする国家だった。しかもこの帝室は2,700年近くも続いているという。ニッポンには身分制度が無い。この皇帝以外は平民だけだ。皇帝には政治や軍事に触れる事なく、象徴としての存在であると言う。ニッポンは帝制では無く、国家の舵取りをするのは首相という身分だ。ゾルダーにはこれでどうやって国家が成り立っているか理解出来ない。皇帝の威光は軍事や政治にて発揮される物ではないのか?と思う。では、国家を運営する仕組みは何かというと、内閣という組織だ。帝国で言う所の元老院と貴族院のような物だろう。
この内閣を束ねているのが首相である内閣総理大臣だ。総理大臣は選挙という仕組みで選ばれる。選挙は自分が良いと思う人間を推薦する仕組みだ。これらの仕組みは今一つ理解出来なかったが、問題はそれ以外だ。
歴史と軍事!
日本は数百年も戦い続けていた国家だった。過去千年程の歴史の中で、今現在80年程と、エドジダイという300年程を除くと、我が国に勝るとも劣らない程の内外を問わず戦い続けた戦闘国家
だったのだ。戦いの内容を考えると、ニッポンの方がスケールが大きい。そして軍事に目を向けると、陸も海も、そして空も途轍もなく危険である事が分かった。
陸軍は、自動車の延長線上にある装甲を施した戦車という兵器があり、この戦車は我が軍が使用する砲(牽引砲)の何倍もの射程と威力があり、それが何台もの集団で走り回る。しかも動きながら砲を放つのだ。そしてこの攻撃は全部当たって目標を木端微塵にしていた。兵も恐ろしい装備を持っている。連射が可能な銃を持っている。この銃の連射は想像を絶する。何百発もの連射が可能なのだ。少し大型の据え置き連射銃以外にも携帯可能な銃も連射出来る。
海軍はやはり主力の船があった。聞くところによると、あの白い船は警察業務を行う船だという。主力の船の武装はもう訳が分からない。"護衛艦"と名乗る海軍の船の主要兵器は、ミサイルという物だそうだ。このミサイルという物は、簡単に言うと爆薬が詰まった砲弾なのだが、普通の砲弾との違いは、砲弾のコントロールが可能という話なのだ。その為、一たび発射されたミサイルは百発百中を誇るという。見せられたビデオでは、我が軍の主力戦艦よりも大きな鉄の大型船が飛び込んできたミサイルによって木端微塵に吹き飛ぶ姿を見せられた。余りの事に、会議室は静まり返っていた。
…これは冗談抜きに本格的に不味いかもしれない。エウグスト公国の連中に、これを見せたのは不味かった。我らガルディシア帝国よりも圧倒的な力を持つニッポンの情報。これを旧エウグストの残党に知られたらどうなる事か…いらん希望をエウグストの連中に与える事になるかもしれん。さてもどうした物か…
ゾルダーは同席したエウグスト出身乗員の今後の対応に関して、緘口令以上の対応が必要だと思い始めた。