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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
326/327

4_86.新・帝国議会の開催

ラディスラウス伯爵は、エウグスト解放軍を抑える為に暫定的にアルスフェルト伯爵を代表とはしたものの、最終的には退位した前皇帝リヒャルト・デム・ガルディシアIII世を擁立する積もりだった。その為に表向きはアルスフェルト伯爵に従いつつ、前皇帝ガルディシアIII世への接触を行っていた。このラディスラウス伯爵の動きは実の所、帝国議会の元老達の意向も強く働いていたのだ。つまりはガルディシアが帝国として成り立つ事はガルディシア皇帝一族のみによるものであり、皇帝一族の血筋から外れるような者が帝位に就く事は決して容認しないという意思の現れでもあった。


或る程度この動きを察知していたアルスフェルト伯爵は、彼等の動きを監視しつつも手出しは控えていた。だが、頃合いを見た上で再びアルスフェルト伯爵は満を持して議会を招集したのだ。


「アルスフェルト伯爵、儂らを招集するとはエウグストとの話し合いで或る程度内容が固まったという事ですかな? であるならば、儂らも提案したい儀があるのだが。」


「ほう、どういう内容なのかは後程開陳して頂きましょう。ですが、まず最初の議題としてはエウグストとの交渉に関する事をまず片づけておきたいと思うのですが、宜しいですかな?」


「構わぬよ。まずはそれからで頼む。」


「では…ゾルダー君、宜しいかな?」


「はい、対エウグスト交渉担当のゾルダー少将です。現状をご報告します。まず、我々と彼等との交渉に於いて最初に問題となっている部分は国境の確定、そしてガルディシアの政治体制、最後に食料や資源等の輸出入に関する関税の問題となっております。また、エウグスト戦役からの鉱山等における労務者派遣に関する保障の問題、最後にロアイアンに於ける虐殺の謝罪と賠償です。」


「どれもこれも譲歩出来ぬ問題では無いか! ゾルダー、一体どのように交渉しておるのだ!? 何故に奴等のこの物言いを黙って聞いていたとでも言うのか?!!」


「我々は現時点において戦勝国では無く、エウグストの助力によってなんとか国内を平定させた状態です。平たく申し上げまして、エウグストからの要求に対し即座に拒否等出来る訳もありません。一度国に持ち帰って協議しますとは返答しておりますが、全権委任でも無い私が即答も出来兼ねる状況に難儀している次第です。」


「くっ……それはアレか。彼奴等はこの状況を利用して今迄の鬱憤を全て晴らそうとする腹か。」


「恐らくはそういう意図もありましょう。それに彼等エウグストの軍は今回の介入でも消耗しておらず、エウグストの独立承認によって更に軍が膨れ上がる気配を見せております。また、ル・シュテル領域において武器製造が加速しており、この膨れ上がる軍に対する武器供給も安定して行われる様です。つまりは昨日のエウグストよりも今日のエウグストの方が危険であると考えております。」


「時間が経てば経つほどにこちらが不利になるという話か……で、あるならばどうする積もりなのだ、アルスフェルト伯爵? 貴公が任せたゾルダーは向こうの条件を言いなりに伝えて来ておる。引いては貴公の責任であろう? それとも、何か腹案でもあるのか?」


「無くはないですな。というか、恐らくはこの案のみがガルディシアを救う事になるであろうと思っております。」


「ほう、それは何かな? 聞かせて頂こうか。」


アルスフェルト伯爵は、何かの合図を送ると議会内にどやどやと完全武装した兵が雪崩れ込んで来た。


「なっ、どういう事だ、アルスフェルト!!」


「皆様に語っていない事が1点あります。どうか落ち着いて聞いて下さい。」


「これが落ち着いていられようか! この兵共は一体何なんだ、アルスフェルト!」


「前回の議会招集以降、皆さんの動向を全て調査させて頂きました。それとは別に、エウグストからの要求で伝えていない事をお伝えします。皇帝ドラクスル乃至は元皇帝に連なる高位の方々の中で過去エウグストに対して行ってきた様々な非人道的行為に関係していると思われる人物の特定と、その命令系統の明確化等一切合切の調査を行うと同時に、それらの調査によって明らかになった者達の排斥です。」


「な……なんだと……?」


「まぁ、簡単に言えば直接・間接を問わずエウグスト人に対する虐殺行為や殺害命令に関連する者達の排斥ですね。ああ、ご安心下さい。行動の自由をはく奪する様な逮捕拘禁や生命に関わる何等かの危害を加えようという事ではありません。ただし、私財と領地の没収は行わせて頂きます。これは、エウグスト人の私財等を強奪した事との相殺という形になりますので。」


「ふっ、ふざけるな! 衛兵! 寧ろアルスフェルトを拘禁しろ!!」


「それと議会招集以降の貴方がたの動向に関しての調査結果ですが、元皇帝ガルディシアIII世との接触と元皇帝の復権を図っているとか。先程迄話していたエウグストからの要求内容を鑑み、それらを受け入れる事が出来ないのは自明の理だとは思うのですが、これら両方の件について関わりの無い方々のみが今後の帝国議会に残って頂く方となります。」


「それは一体誰だ…?」


「そうですね。そのような行為に関わらなかったのは私アルスフェルト、ギルベルト子爵、そしてゾルダー少将位でしょうかね。他皆さんは何等かの形で関わりをお持ちな様ですから、領地私財を没収の上でザムセン追放、という形になりますね。ああ、時間的猶予は当然設けておりますので、その辺りはご安心下さい。」


「なんだと! 貴様等、帝国を売る積もりなのか!!」


「真逆ですよ。国体、ガルディシアという国を守る為ですね。我々の国はそこまで行わなければ既に国家がガタガタになっているのです。人なり私財なり材料なりを他国から略奪する事で成り立っていた国家だったのです。それが無く成れば当然国として成り立たない。であるならば、一度我が国に淀む膿を全て吐き出した上で再生を行わなければならないのです。」


「我々を膿と抜かしたな。貴様、ここで我等を殺さぬ事を後で後悔する事になるぞ!」


「ああ、どうぞご自由に。他人を踏み台にしていた者が後ろ盾も財力も失って何が出来るのかが見物ですね。ですが、今日の所は大人しくお帰り頂きましょうか。」


ギルベルト子爵は、この成り行きを茫然として見続けていた。だが他の元老院議員が退席した後に、直ぐにアルスフェルト伯爵に喰ってかかった。


「伯爵! い、一体これからどうする積りだ!! 皇帝陛下も無く元老院議員達も放逐した。これから我が国は一体どうしたら良いのだ! もうこれで終わりだ……我が国は終わりだ……」


「ああ、ギルベルト子爵。案ずる事はありませんよ。市井の人々にも高尚な考えを持つ者も居ります。また他の貴族の中にも同様に。ですが、先ずやらなければならない事は我々が中心となってこの国の立て直しを行います。それと新しい元老院議員ですが、我々が目をつけた者達を優先的に任期のある議員として任命し、その行動を見て判断し、その後に次の議員となるかどうかを判断します。勿論これは暫定的処置で、何れは民衆も含めた形で相応しい者の選出を行いたいと思います。」


「な、何を言っているのだ、アルスフェルト伯爵?」


今迄黙っていたゾルダーはここぞとばかりに説明を始めた。


「ああ、隣国ニッポンには選挙制度という物がありましてね。これはニッポン国民である一定条件を満たした者が、自ら選ぶ者を国の舵取りに参加出来るようになる仕組みなのだそうです。つまり我が国の元老院議員のように世襲で議員となる訳ではなく、有限期間のある議員の席を国民の投票によって決めるという仕組みですね。」


「そんなモノにどんな意味があるんだ……? 大体、そんなモノを我が国に導入しようとしても、そもそも文字も書けない連中も居るのに意味も無いと思うのだが…?」


「そうなんですよ。ですから先ずは我々が決めた議員による運営、そして全ての国民に対しての教育制度の徹底、識字率の向上と国民の意識の変革、更には法制度の改定。それらをこの先何十年か続けた上で、国民が選挙という仕組みを理解した上で選挙制度の導入を行いたいと思っています。まぁ20年以内位を目指していますがね。それと、この仕組みを導入した場合には、国家が誤った行動を行おうとした場合、もしくは危険な思想の持ち主は国民によって排除されるという事です。彼等ニッポンの歴史を教えて貰ったのですが、或る程度は機能する様です。未熟な時代には暴走もしたらしいですが、我が国のように皇帝を頂点とした政治体制である場合、止める者がおりませんからね。」


「……まだ、何やら私には全て理解する事は無理のようだ……」


「それも今初めて聞いた話でしょうから無理もありません。国民と共に覚えていけば良いだけの話です。何れにせよ、我が国がニッポンの様に貿易を元に優秀な科学技術を導入して国民の教育が進めば、何れニッポンの様にもなれるのではと思います。ただ、我が国が帝国である限り、現状ではそれも無理な話。」


「ニッポンか……我々もかの国の様に、とな……」


「ご存知でしたかな? 現在、我々はニッポンに入国出来ないという事を?」


「あ? ああ、それは皇帝からの命令では無かったか?」


「いいえ違います。皇帝は自らの立場が怪しくなる事を恐れてそう言っていたのかも知れませんが、現状でニッポン側からガルディシア人の入国は規制されております。ですが許可や審査をして合格したエウグスト人やヴォートラン人、エステリア人はニッポンへの入国が許可されており、観光や相互交流を行っているのですよ。」


「なんと……それでは我々だけがニッポンに行く事が出来ないという事だったのか!」


「ええ、そうです。それもこれも元皇帝による外交官拉致未遂事件以降なんですがね。こういう傾向を持った国家とは最低限の付き合いしかしない、とニッポンは決めているらしいのですね。それ故に、我々の国体が変わらなければ、何れ他国から完全に隔絶された遅れた国になる事でしょうね。そうなると我々の将来は貧困しかありません。売れる物は原材料のみ、加工は全て他国によって行われ、付加価値をつけた高額な商品を売りつけられる貧乏国家の出来上がりです。文句をつけようにも軍事に訴える事も出来ない。何故ならば、相手は既に我々を遥かに超えた科学技術を持つ様になっているからです。」


「まさか……それでは我々には何も未来が無いではないか!」


「ええ、だからこそのこの政変なのです。で、ギルベルト子爵。一応の確認なのですが、今後我々と協力頂けますか? もし嫌でしたら、今この場で仰って頂ければ。あ、勿論否の場合でも彼等の様に全財産や領地の没収は行いませんよ。」


「いや、考える迄も無い。協力を誓おう、アルスフェルト伯爵。」


「そうですか、いや良かった。それでは次回の招集までに新しい元老院議員の選定を行っておきましょう。ギルベルト子爵の方で秀でた方がいらっしゃったらご紹介下さい。勿論、貴族と限らず平民であっても構いません。」


「早速当たってみよう、確かに優れた市井の者達に心当たりが無い訳ではない。」


こうして元老院議員の大半を放逐し、その後自分達で選んだ人員をアルスフェルト伯爵とギルベルト子爵、そしてゾルダー少将が三者で合議して選んだ者達を期限付きの元老院議員に据えた。こうして決められた議員達による第三回の帝国議会が開催された。

次で最終話(予定)です。

収まる筈。きっと。おそらく。多分……

#既に予定を6話以上overしている気もしないでは無いのですが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 遂に最終話のみですか… 明日以降の私は、また良作を求め旅にでます… 作者様がきっと西側大陸(魔法国家?)かモートリア大陸中央部の続編を書いてくれる事が信じて…
[一言] こうして見てみると、ガルティシア帝国ってどちらかと言うと古代ローマや、清朝中国のそれに近い政治・経済体制なんですよね…よく銃とか蒸気機関持てたよ… して第3回の議会では、どの様に真の近代化と…
2021/06/01 21:51 退会済み
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