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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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4_82.エンメルスの秘策

エンメルスは何もむやみやたらと命を懸ける積もりは無かった。

レティシアとの前回の戦いの中で、彼女の弱点とも思える事を掴んでいたからそこを狙えば恐らく勝てるであろう事を確信していたのだ。恐らく全員で掛かればそれなりの被害を受ける可能性はあるが、レティシアを必ず倒せただろう。しかしここでそれなりの被害を受ける事も避けたい。それならば、自分がレティシアと直接戦うならば、最低限の被害で彼女を倒す事が出来るだろうし、もし仮に負けても後続がロケットをぶち込む。どっちにしても我々の勝ちになる、と踏んでいた。


「さて、じゃこの前の続きをやろうかね。」


「言っておくけど、今は明るいから同じ手は使えないわよ。」


「ははっ、同じ手ね。使わないさ、同じ手は。おい、皆も決着が着く迄は手を出すなよ。」


「クルト、貴方もそこで見ていてね。」


お互い負けるとは思っていない者同士は、帝国第一軍司令部内の通路で前回の決着をつける為に戦い始めた。二人の戦いは当初一進一退だったが、結局はエンメルス大尉が押され始めた。


「っとぉ、やっぱ厳しいぜ!」


「あなた前と然程変わらないわよ、そろそろ決着で良いかしら?」


「はぁはぁ、なんで息切れもしてないかね、このお嬢ちゃんは!」


エウグスト解放軍の皆が見守る中で、エンメルスは徐々に後退し始めていた。レティシアは前回の不意打ちの事もあり、止めを刺す程の強烈な打ち込みを避け、小さく確実にエンメルスに切り付けてつつ隙を探っていた。そしてエンメルスの動きが段々と反応が遅くなり始めた瞬間にエンメルスは仕掛けた。レティシアの足元に手榴弾らしき物を放り投げ、目を覆うような仕草をした。


「また、これっ?!」


レティシアは咄嗟に手で目を覆ったが、自らが視界を覆った瞬間にエンメルスはレティシアに打ちかかり、彼女の意識を断ちに掛かった。エンメルスはレティシアの反応の良さを利用して、以前使用した閃光手榴弾を投げた。だがそれは偽物であり、爆発も閃光もしなかった。エンメルスが行おうとした目を覆う仕草を見た瞬間にレティシア自身も目を覆う、という判断をしたのだ。この致命的な瞬間をレティシアは自ら作ってしまった。目前で意識を失って倒れているレティシアを見て、エンメルスは言った。


「この嬢ちゃん目も判断の速さも尋常じゃねえからな。間違った判断しても途中で止められねえのよ。まぁ上手い具合に引っ掛かってくれて助かったが、あのまま戦い続けていたらコッチが死んでたな。あ、そうそう奥に居るオッサンはどうすんだ?」


「レティシア少佐が負けるとは……この戦いは既に意味が無くなってしまった。君達に投降したいのだが、受け入れてくるか?」


「ああ、ただ暫くは窮屈な思いはして貰う事になるがな。」


クルト中尉は、レティシア少佐頼みの突入作戦で、後続は既にこのエンメルスの集団によって排除されていると思っていた。その上でレティシア少佐迄もが倒されてしまった今、作戦継続の意味を失ったと判断した。一人で皇帝を捕まえに行こうにも、目の前の彼等を排除する手段が無いのだ。逆にエンメルスは、今この段階で捕虜を二人も押さえても、これから皇帝を捕まえようとしているのに負担になる為に殺すかどうか迷っていた挙句に、一旦は捕虜にした。しかし、連れまわす気も無かった。エンメルスは結束バンドを取り出すと、レティシア少佐とクルト中尉を後ろでに縛り上げ、そして近くの配管に括りつけた。


「まぁ、あんた達は取り合えずここで休んでいてくれや。よし、皇帝の所に行くぞ!」


「了解!」


そのまま、彼等はクルト中尉の視界から消えていった。クルト中尉は自分を縛る滑らかだが頑丈な紐を何とかしようと多少抵抗したが諦めた。ちょうどそれは彼の力が入らないような場所に括りつけられていったからだ。暫くすると、通路の先で数発の爆発音が聞こえてきた。


「司令部手前の障害排除!クリアです!」


「よし、いよいよだな……」


「扉ごと吹っ飛ばしましょうか?」


「いや、待て。」


エンメルス大尉は扉近くに行き、籠る中の者達に呼びかけた。


「……私はエウグスト解放軍所属のエンメルス大尉だ。無駄な殺生はしたくない。中に居る者は武器を捨てて投降しろ。投降した者の命は保障する。だが、抵抗するならば今のうちに遺書を書いておけ。5分待つ。」


「撃つな! 分かった、投降する。今、扉を開ける。」


扉の向こうでは障害物を排除する音が聞こえてきた。



反乱軍第九歩兵師団は絶望的な抵抗を続けていた。

ロトヴァーンの艦隊によって運ばれてきた5,000の兵。彼等によって第九歩兵師団は廃墟を中心にザムセン西側と更に西の郊外側に分断され各個撃破されていった。


「ああっ、あのマークは……グリュンスゾート大隊! なんであいつ等が向こう側に!?」


「しかもあの連中、例の連射銃を持ってやがる……」


「奴等が携帯するあの筒は砲なのか!? 一体なんなんだ、あの火力は!?」


「ともかく後退だ! 我々は完全に孤立している。だが、幸いな事に未だ包囲の輪は閉じておらん!北東の方は敵が居ない。北東方向に部隊を纏めて撤収しろ! 本隊と合流だ!!」


こうしてザムセン西に突入した挙句に分断された第九歩兵師団先端は、北東に退路を求めた。だが、この北東に進んだ第九歩兵師団先端は、第八歩兵師団を壊滅されて残敵掃討を行っていたザムセンの門から前進を始めていた反帝国組織8,000と接触し、再び彼等にとって絶望的な戦いが始まった。


次々と凶報が続く反乱軍司令部は、情報が錯綜して正常な反応が出来なくなっていた。ザームセンは目の前に居るハルメル中将、そしてハイントホフ侯爵、ボーデン子爵達を前にして、戦況図を睨んだまま何も話せず下唇を噛んだまま立ち尽くしていた。ようやく絞り出すように出た一言は、指示でも命令でも無かった。


「有り得ない……何故だ……」


反乱軍司令部内では誰も一言も口を聞かなかった。この戦争が自分達の負けで終わる事になれば、ここに居る全員は縛り首だ。途中までは誰もが我々の勝ちを確信していた。どこで一体何を間違ったのか。皆がそれぞれの誤ったところを考えつつも、一向にその答えは出無かった。


「……今、第九歩兵師団はどうなっている?」


「ロトヴァーンの攻撃によって、ザムセン西を中心に分断されました。東側は後退に成功しましたが、西に孤立した部隊は不明です。」


「第八歩兵師団は?」


「リンベルク少将が第八歩兵師団残余を後退の上、再編中です。」


「海兵陸戦隊は?」


「海岸線にてロトヴァーンの艦砲射撃にて壊滅との報告が入っております。」


「レティシアから何か連絡はあるか?」


「いえ、その後何も報告がありません。」


「ふっ、ふはははは、これはもう駄目だな、ハルメルよ。」


「閣下……」


「非常用の脱出船も全て攻撃されて沈められておるな、ハイントホフ?」


「残念ながら左様に。今一度確認はしてみますが……」


「ああ、頼む。さて進退窮まったな。どうしたものか……」


再び反乱軍司令部の中で口を開く者は居なくなった。誰もが暗い顔をして、無口のまま戦況図を眺めていた。この反乱軍司令部に程近い場所で自らの装備を確認した上で通信を開いた者が居た。


『こちら第三レイヤーのレパード少尉だ、反乱軍司令部を目視確認した。』


『了解レパード少尉、今暫く待機せよ。』


『一応。すげえチャンスだと思うぜ、今。』


『繰り返す。待機せよ。』


『あいよ、了解。』


「エッカルト、司令部は待てだとさ。」


「レパード少尉、指示通り待ちましょう」


「なんだお前も、面白くねえなぁ。」


反乱軍司令部周辺には第三レイヤーのレパード少尉以下60名程がヴァントに潜入しており。反乱軍司令部制圧の指示を待っていたのだ。周辺に潜む第三レイヤー部隊は、再び待機状態となった。

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