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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
320/327

4_80.混沌のザムセン

反乱軍司令部のザームセン公爵の元に次々と報告が入っていた。その報告では、既にザムセン中央では反乱軍第九歩兵師団が市街区域をほぼ掌握しつつあった。当初抵抗していた帝国軍連射銃大隊が後退した事により、市街地での浸透は一気に進み、反乱軍はほぼザムセン市を掌握したといっても過言では無かった。そして左翼の第八歩兵師団は順調にザムセンの門に近づきつつあり、右翼の海兵陸戦隊も順調に海岸線を進軍しており、情勢は反乱軍側に傾いていた。だが、ただ一点、未だレティシア少佐による帝国陸軍司令部強襲に関して追加の報告が無かった。


「全体的に優勢に進んでおるな……リンベルク少将。第八歩兵師団はザムセンの門を掌握後は、そのまま西に直進して帝国軍の後背を突く様に動かせ。オームゼン少将。第九歩兵師団は中央は市街の掃討が終わり次第、第八歩兵師団を待った上でザムセン西に集結しつつある敵軍本隊を攻撃せよ。」


「ザームセン閣下、未だレティシア大隊からの連絡がありません。」


「今や情勢はレティシア大隊の結果如何に関わらず、我々が優勢となった。レティシア大隊が失敗に終わろうが、成功しようがこのまま我々が進めばこの戦争は勝ちだ。」


「はっ……それでは先程のご命令通り、進撃致します。」


「うむ。朗報を待っておる。…ん、どうしたハルメル?」


「いや、な。例のロトヴァーンの動きがどうにも気になってな。入港してからの動きが全く無い。かといって迂闊に近寄れば必ず反撃してくるであろう。どうにも何を目的として近づいているのか……」


「それは分からんでも無いがな。だがザムセンを掌握した今、あとは前面の敵軍を片づければ自ずと奴等も今後の身の振り方を考え直すであろうよ。何しろ、新しい皇帝を目前にして不興を態々買いたい者も居らんだろう。」


既にザームセンは自らが帝位に就いた後の事を考えていたのだった。そしてロトヴァーンの動きが何も無いのも、もし皇帝が変わった後の事を考えて保身に走っているのではないかと思っていたのだ。だがザームセンの想定は後に裏切られる事になる。しかし、まず先に優勢に進んでいた戦線に綻びが起きたのはザムセンの門だった。


「リンベルク少将!第二歩兵師団を追撃していた先遣隊から連絡が途絶えました!」


「何? 第二歩兵師団はもう立て直しに成功したのか?」


「いえ、依然敗走中の様に見えますが……」


「ではなんだ? 一体何者が先遣隊を攻撃したのだ?」


「分かりません。ですが今、後続が接敵するので確認出来るでしょう。」


「早い所、その正体不明の敵を確認せよ、ハーゲン大佐。我々はザムセン西に集結しつつある敵の側面を第九歩兵師団と共同で攻めにゃならん。その敵が何者であるにせよ、この状況で我々の前進に遅延が発生するのは問題だ。」


「了解しました。直ぐに確認致します。」


ここで第八歩兵師団に接敵した謎の敵はエウルレンの援助で武装した第三勢力だった。既にグラーフェン中佐に指揮された第三勢力8,000の集団は、ザムセンの門周辺で接近する第八歩兵師団を待ち受けていたのだ。マルソーに居る高田から常に上空からの偵察情報を受け取っていたグラーフェン中佐は、反乱軍第八歩兵師団の行動が手に取るように分かっていた為、接敵する場所を的確に指示して迎撃し続けると同時に、敗走していた第二歩兵師団を武装解除しながら捕虜にした。第八歩兵師団は、敵の攻撃の余りの精確さに想定以上の被害が発生した上に、今尚敵の正体もその戦力も分からなかった。


「一体どういう事だ!既に3個中隊分の被害が出ているのに、相手の戦力も何も分からんだと!?」


「リンベルク少将、後退に成功した兵からの報告では、軍服を着ていない者達が武装して攻撃してきた、と。しかも、こちらの部隊の進行方向に予め待ち受けており、その戦力も我が方よりも多勢での待ち伏せに遭ったとの事です。これは複数の兵から共通した報告です。」


「こちらよりも常に多勢で待ち受けていただと? ……それは、我々が知らぬ大部隊がここに居たという事か。だが、軍服を着ていないというのが解せぬ。それは所謂ザムセン市民の非常招集を行っているという事か。だが、そんな気配は無かったぞ。しかもザムセンの西は避難民で溢れておるではないか。」


「確かに……すると、エウグスト解放軍……? ですか…?」


「それは分からん。だが危険な気配がする。前に第九歩兵師団が森の中で遭遇した正体不明の敵とやらも、やはり敵が確認出来ずに派遣した中隊が全滅していた事があった。それと同じ敵かもしれん。」


リンベルク少将とハーゲン大佐はお互いが険しい表情の顔を見合わせたまま黙り込んだ。


だが、反乱軍の危機は左翼だけに終わらなかった。中央戦線でザムセン西に迫りつつある第九歩兵師団はザムセン市街を抜けつつあり、ザムセン郊外の廃墟を踏破して追撃していた。だが第九歩兵師団の本隊が廃墟に差し掛かる頃に、突然の砲撃を受けた。これはロトヴァーンの艦砲射撃であり、高田の指示通りザムセンを通過した第九歩兵師団が引き返せない程に前進をした頃に砲撃を開始したのだ。


「オームゼン少将! か、艦砲射撃です!我々は艦砲射撃に晒されております!!」


「叫ばんでもわかっとる! 今更後退も出来ん、部隊の前進を急がせろ!このままだと艦砲射撃に磨り潰される。前進だ!可及的速やかに艦砲射撃の攻撃範囲からの離脱を急がせろ!」


「了解であります!」


そしてロトヴァーンの艦隊は同時に二カ所の攻撃を行っていた。

一つにはザムセン西の廃墟に居る第九歩兵師団に対して。そしてもう一つには海岸線を進む海兵陸戦隊に対してだった。海兵陸戦隊は、海岸の防衛線を放棄して後退していた帝国軍第三歩兵師団を追撃して海岸沿いを進んでいたが、そこにロトヴァーンからの艦砲射撃を浴びせられて大被害を受け、ほぼ壊滅状態に陥っていた。



皇帝ドラクスルが立て籠もる司令部の北側ではエウグスト解放軍のコマンドであるレイヤー部隊が司令部の建物北側から攻撃を開始し、即座に帝国軍連射銃大隊の小部隊を殲滅した。だが帝国軍連射銃大隊指揮官ブレーゼン大佐は、すぐに態勢を立て直す指示を行った後に狙撃に倒れた。連射銃大隊は指揮官が倒れた事により一時的に混乱したが、この混乱を反乱軍のレティシア大隊のブルーロ大尉は見逃さなかった。


「おい、帝国軍の動きが乱れたぞ!ここから建物の南側を回って帝国軍を攻撃する。北側は放棄しろ!」


「レティシア少佐はどうします??」


「少佐は大丈夫だ、さぁ南側を攻めるぞ!」


ブルーロ大尉としては恐らく屋内だけに限ればレティシア少佐なら単独でも切り抜けれられると踏んでいたが、司令部正面に陣取る帝国軍連射銃大隊を排除しなければレティシア少佐でも詰む。しかも敵は3個中隊規模だが、こちらは2個中隊に満たない数しか居ない。その3個中隊の敵が一瞬でも混乱した状況に陥ったのだ。この機を逃す馬鹿は居ない。即座に部隊を南に集中し、連射銃大隊を攻撃し始めたのだが、これがちょうど北からやってきたエンメルス大尉の部隊との挟撃となった。帝国軍連射銃大隊は、指揮官を失った事による混乱と想定していなかった挟撃によって、遂に司令部の中に入った部隊と攻撃を避ける為に後退した部隊の二つに分断された。


その頃、レティシア少佐は建物内でクルト中尉と合流していた。


「少佐、ご無事で!」


「あら、クルト。どうしてここに来たの?」


「いえ、下で連射銃の音がしたので援軍に。どうせ司令部の前は一人で突破出来ませんし、連中も出てきません。」


「ああ、それもそうね。じゃ、これアナタの銃。」


「え?」


レティシア少佐の足元には何丁かの敵から奪った連射銃が置いてあった。


「これ本当便利よね。ここの右側面に付いているレバーを下げきって撃つと数発だけ撃てるわ。連射する為には、そのレバーを半分だけ戻して。でも弾数も少ないし、補給も出来ないから数発撃つように抑えていた方が良いかもね。」


「な、なるほど……ところでブルーロ大尉は?」


「あたしも知りたいわよ。早く敵の増援を断ってくれないと、ここで私達討ち死にだわ。」


「ちなみに敵兵はどの位ですか?」


「そうね……少なくても100人近くは居るかもね。」


「……厳しいですな。」


「ま、なんとかなるでしょ。」


レティシア少佐に軽く楽観的な調子で言われると、本当になんとかなりそうだと思うクルト中尉だった。


第三勢力であるレイヤー部隊のエンメルス達は、帝国軍連射銃大隊と交戦しつつ司令部の建物北側に取り付いた。北側に大きな穴が空いており、瓦礫やら何やらで応急処置的に塞がれてはいるが、撤去するのは簡単そうだったが時間がかかる為、爆発物を仕掛けて、別の穴を開けた。そうして司令部正面入り口に攻撃をする部隊と、司令部に突入する部隊に分けた。エンメルス他10名が司令部の建物に侵入し皇帝を探し始めた頃、司令部の正面入口に陣取る帝国軍連射銃大隊の100名程の兵は、前に反乱軍のレティシア少佐とクルト中尉、そして後ろからエウグスト解放軍のエンメルス達レイヤー部隊に挟まれる事となった。

ああ、遂に320話目……で、終わりませんでした。

あとちょっとだけ続く予定です。

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