4_77.帝国第一軍司令部への突入
帝国軍の第一軍司令部では、攻めるには時間が足りない反乱軍と守るには人員が足りない帝国軍連射銃大隊本部中隊の一進一退の攻防が繰り広げられていた。流石に帝国軍の連射銃は切れ間なく連射される事で、反乱軍は完全に釘付けされてしまっていた。だが、反乱軍ブルーロ大尉達の陽動によって司令部の建物の一部が損壊し、その隙を突いてレティシア少佐とクルト中尉が司令部の中に突入した。
「しまった! 気を付けろ、建物に入られたぞ!!」
「侵入口を塞げ!! これ以上侵入を許すな!」
反乱軍のレティシア大隊は200名程の戦力だった。それに対し帝国軍連射銃大隊本部中隊は130名の戦力に過ぎない。だが、優秀な装備により当初は圧倒していた本部中隊は、やがて戦力の薄さから守るべき場所が守れなくなり、遂には司令部への侵入を許してしまったのだ。だが、連射銃大隊本部中隊は、司令部に開けられた穴と司令部入口に戦力を集中して守り続けた。守り続けたなら、何れ友軍が駆け付けてこの敵を排除してくれるだろう事を期待して。そしてこの連射銃大隊本部中隊の努力は、司令部内へこれ以上の反乱軍の侵入を許さなかったのだ。
だが、侵入した反乱軍はよりにもよってレティシア少佐だった。
司令部内に侵入したレティシア少佐とクルト中尉は、皇帝の居場所を探して途中途中に居る敵兵はあっという間に制圧しつつ、各部屋を開け放って進んでいた。
「失礼します! 申し上げます! 司令部内に敵兵侵入! 爆破孔より敵兵2名侵入、恐らくは反乱軍のレティシア少佐とクルト・ヴェッツェルと思われます!」
「なっ……なんだと……!?」
司令部内の一同は顔色を失った。
帝国内でも二つ名を持つ者は数少ない。既に二つ名を持っては居ても現役を退いていたりしている者が殆どだ。そんな中にいて、今なおをその名を欲しいままにする数少ない者の一人がレヴェンデールの狂女ことレティシア少佐だ。そしてクルト・ヴェッツェルといえば、言わずと知れたブランザックの英雄だ。この二人が敵対勢力としてこの建物内に侵入してきたのだ。
「お、おい、ここは大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫って何がだ。あの二人を相手に大丈夫等と軽口は言えんぞ。」
「おい、連射銃大隊はどうなっておる!?」
「侵入口を守っておりますが多勢に無勢です。侵入を防ぐだけで手一杯で、内部にまで回りません!」
「ふん、唸っておっても仕方があるまい。手の空いている者は入口を封じるのを手伝え。ハイドカンプ、障害となる物を入口に積み上げろ。イエネッケ、貴公は武器弾薬をここに集めろ。時間は我等の味方だ、耐えれば何れ友軍が来る。寡兵で攻めて来た連中なんぞ、何れ包囲して枯れ果てるぞ。さあ、手を動かすのだ!」
皇帝ドラクスルの一言で、茫然となっていた司令部の一同に動きが戻ってきた。そして皇帝の指示通りに、唯一の侵入口である司令部のドアを障害物で塞ぎ、そこに雑多な障害となる物を積み上げていった。そして着実にレティシア少佐とクルト中尉はドラクスルの居場所に近づいていた。
クルト中尉は、レティシア少佐の戦いぶりを見て驚嘆していた。
実際に本格的な戦闘を目の当たりにするのは二度目ではあるが、あの練兵場での戦いよりも銃を持った方が凶悪だ。何しろ敵を目視した瞬間には既に発砲しているのだ。クルト中尉が戦う間も無く敵兵は次々とレティシアによって打ち倒されていた。
「少佐、自分こんなに楽して良いんですか?」
「あ、ごめんねクルト中尉。じゃ次はあなたがやってね。」
「いや、そういう事では無いんですが……」
「ともかく早く皇帝を見つけないとね。」
「少佐、皇帝をどうします?」
「可能なれば捕縛せよ、だからね。状況見て捕らえる事が出来ないのなら殺すしか無いわね。」
「了解です。しかし広いですね、ここは……」
「いたぞ!!侵入した連中だ!!」
長い通路の向こうでは建物内に残っている守備兵数人がこちらに向かって射撃をしてきた。だが、一斉に撃った後に装填の間がある瞬間を利用して、レティシア少佐とクルト中尉の二人は一気に距離を詰めた。
既にザムセン市の東側半分は反乱軍第九師団が浸透し、帝国軍は市街戦に引き摺り込まれていた。だが、有効に反撃を行う程の戦力も人員も失いつつあった帝国軍第一歩兵師団はジリジリと後退を続けていた。そして、この反撃の要であった筈の連射銃大隊は優先命令によって司令部方面に引き抜かれようとしていた。
「既に我々だけではもうザムセンは守れん。なのに、ここで連射銃大隊を引き抜くだと?」
「だが、例の爆発以降司令部が反乱軍の別動隊に襲われているという話だ。正面の第九歩兵師団も浸透を続けている。司令部からの命令も来ない。何れ包囲されて終わるぞ、これは。」
「何れにせよ、ここは戦うに適していない。引くならザムセン西まで一気に引かんと体勢も立て直せん。だが……」
「そうだ。司令部と連絡が着かん事には無許可の後退となる。しかし、だ。命令を待ったままでここで全滅するよりは、後退して体勢を立て直した方が良い。第二と第三に伝令出せ。第一歩兵師団はこれよちザムセン西まで後退するぞ。これで負ければどうせ命は無い。」
「良いのか? ジークムント大佐?」
「ああ、責任は俺が取る。急ぎ、第二と第三に後退の伝令を出してくれ。」
中央のザムセンを守っていた第一歩兵師団第三連隊長ジークムント大佐は、他に自分より上の将校が居ない為に自分の責任で後退命令を出した。このジークムント大佐が出した後退命令により、第一歩兵師団はザムセンの西まで後退を続け、戦線自体は中央部分に第九歩兵師団の巨大な突出部を形成した。戦線の左翼側である第二歩兵師団も反乱軍第八歩兵師団の圧力に屈して後退を続けていたが、ザムセンの門に向かう避難民の群れと遭遇し、彼らを守る為に防衛陣地を作って交戦を始めた。戦線の右翼側は、第三歩兵師団と反乱軍の海軍陸戦隊がにらみ合いを続けていたが、彼等双方が著しく戦力を喪失している状況で、どちらも攻め手に欠ける状況だったのだが、第一歩兵師団後退の伝令を受けた為、第三歩兵師団もまたザムセン西の方向に後退を始めた。
こうしてザムセンでの闘いにおいて、反乱軍が優勢な状況で進みつつあった今この瞬間に、ロトヴァーンの艦隊がザムセン港にゆっくりと近づいてきた。
誤字脱字、その他の指摘等々大変助かってますー
今日は遅くなって申し訳ありません。
予定320話、今現在315話。収まる気がしない…もしかしたら少しはみ出すかも。