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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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4_76.包囲の始まり

ザムセン東方の第二防衛線手前のすり鉢盆地では、帝国軍は中央に集められた状況から多大な犠牲を払って後退した。既に帝国第一軍は主打撃力である砲兵大隊を失い、そして弾薬庫爆発によって継戦能力も失いつつある。


戦線左翼では反乱軍第八歩兵師団が進出してきており、これを帝国軍第二歩兵師団は抑えるだけの戦力をすり鉢盆地の中央で失っていた。その為、一応膠着状態には持っていけたものの、ジリジリと後退を強いられていた。だが、ここに至るまでに反乱軍第八歩兵師団も相当の出血をしており、双方に決め手が欠けたままの持久戦の様相を呈していた。


戦線中央は突出した反乱軍第九歩兵師団第36歩兵連隊が砲兵陣地を蹂躙して第二防衛線に一瞬の穴を穿った。そしてその穴を埋める為に帝国軍は全力で中央に集中した。その結果、中央に集中した帝国軍に対して反乱軍は包囲攻撃を行い、帝国軍は中央の荒れ果てた砲兵陣地を通ってザムセン市街へと後退していった。その後退を反乱軍は見逃さず、追撃を行いながら中央の市街地域に浸透を開始した。そこに駆け付けた帝国軍の連射銃大隊は、浸透した第九歩兵師団との市街戦を展開した。


戦線右翼の海岸線では第三歩兵師団残余が反乱軍海兵陸戦隊の足止めに成功し、膠着状態になっていた。全体としては中央を除き膠着状態となっていたが、その奥にある陸軍司令部では、レティシア大隊の奇襲によって皇帝と主たる将星達に絶望的な危機が訪れている状況だった。


「どうだ、オームゼン。この第二防衛線を抜けば後は連中も大した抵抗も望めまい。」


「はい、ザームセン閣下。そういえば第一軍は一部に新式銃による連射銃大隊を運用していた様ですが、先程の様な広域なら兎も角市街戦であれば、それ程脅威ではありませんな。それにあれは命中率が実に悪い。」


「新しいモノには慣れるにも時間が掛かる。やれ機能優秀だの優れた効率だのを謳っておっても、使う者達が慣れねば十分に性能を発揮する事なんぞ夢のまた夢よ。」


「左様に御座いますな。何れにせよこのままで行けば。レティシアがドラクスルを打ち取るのが早いか、我々がこのまま押し込むのが早いか、という所となるでしょう。」


「閣下! 再びロトヴァーンの艦隊が姿を現しました。ザムセンに接近中です!」


「ふん、これだけ第一軍と接近して戦っておるのだ。ロトヴァーンの奴も迂闊に砲撃など出来んだろう。」


その頃、反乱軍の接近に伴って市街では避難民が右往左往している状況となっていた。その避難民の群れの大部分はザムセンの西に向かって移動していたが、一部は北のザムセンの門に向かっていたのだ。彼らは第三勢力のアルスフェルト伯爵の指示に従い、ザムセンの門で武器弾薬を受け取る為に移動していた。だが、そこから一番近い戦線左翼の第二歩兵師団は、反乱軍の第八歩兵師団の圧力に屈して後退中だった。後退中の第二歩兵師団の中でエマーゼン中尉は、彼等移動する第三勢力の一団を発見した。


「貴様等、民間人が何故こんな所を移動しておる! 近くに反乱軍がもう来ておるぞ!」


「えっ、何故第二歩兵師団がこんな所に!? 反乱軍も近くに!?」


双方が言葉を交わし、そして双方が疑惑を持った。エマーゼン中尉は一見しただけで民間人然としたこの男達が直ぐに自分を第二歩兵師団だと判断した事に。そして、第三勢力たる元海軍第七艦隊の男は、ザムセンの門に至る途中の道に既に反乱軍が接近しているという事に。


「お前、怪しいな。何故、直ぐに我々を第二歩兵師団と分かった?」


「いや、そもそも俺は元々海軍所属だ。解散した第七艦隊所属だ。」


「第七艦隊だと?こんな所で何をしている?」


「反乱軍が来たってんで慌てて逃げてきたんだよ。俺の家はザムセン東の方でな。あの辺りの住人は皆、北や西に逃げ出しているよ。俺はザムセンの門なら要塞化しているだろうから、逃げるにしても何にしても、ってね。」


「ああ、そうか…ザムセンの門か。それは良いアイディアだな。」


エマーゼン中尉は、迫りくる反乱軍第八歩兵師団に対してザムセンの門の兵との共同で防衛陣地を作る事を思いついた。そして、目の前でザムセンの門に向かって逃げているこの男達にも銃を持たせたなら、それなりに抵抗可能な体勢が出来ると思ったのだ。


「貴様、銃は扱えるな? 今から貴様は陸軍に編入だ。我々と共にザムセンの門まで移動し、そこで反乱軍の奴等に反撃をするぞ。」


「いや、見た所あんた達、自分の銃しか持って無いだろ。人に渡す程、銃があるのかい?それに補給はどうするんだよ。」


「ザムセンの門に行けば多少の銃器がある。それに、敵兵から奪うなり何なりすればよい。それに貴様は剣も持っているだろうが。」


「いや困ったなぁ…おい、ヨールス。こっち来てくれないか?兵隊さんに見せてやってくれ。」


「あ? ああ、今そっちに行く。待ってろ。」


エマーゼン中尉の他、4名の兵は今迄話していた目の前の避難民の群れの中から一人の男が出てくるのを見た。その男は、避難民を装っていたが腰だめに帝国軍最新式の連射銃を持っていた。


「お、おい、その銃は…連射銃大隊から奪ったのか? それともどこかに落ちていたのか? いや、その前に危険だから、銃口をこちらに向けるな!下せ!」


「ああ、下せだと?そいつは聞けねえな。何故なら、この銃はお前等を狙っているからな、で、中尉さんよ。部下に武器を捨てて大人しく降伏する様に言ってくれ。頼むよ。」


「降伏だと!?一体何を言っている、貴様! さては反乱軍の仲間か!?」


「おいおい、だから武器を捨てろって。この装備の人間がここに千人以上居るぞ。で、俺達ぁ反乱軍じゃねえんだが、投降するなら命の保障はするぜ。」


「反乱軍ではない……? では、一体何者なんだ?」


「あれ、さっきクラウスが話してなかったのか? 俺達ぁ元々海軍第七艦隊乗組員よ。だが、艦隊解散と同時に軍から放り出されてな。再編だの何だのとな。で、この状況に不満を持った人間達でアルスフェルト伯爵の元に集まった反帝国組織って奴よ。分かったら、武器を捨てろ。」


「なんだ、それは……?」


「なんだもヘチマもねえ。武器を捨てて降伏するか、ここで死ぬかだ。」


「わ、分かった、貴様等に投降する。」


エマーゼン中尉と共に後退していた4名の兵は、ザムセンの門に移動中の反帝国組織によって捕らえられた。そして彼等から接近する反乱軍の規模や装備の情報を聞き出し、この群れの側面を守る為に武装した戦力の半分を用いて即席の陣地を作り始めた。


そして戦闘に関われない人員と捕虜は、全てザムセンの門へと移動を再開した。

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