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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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4_75.追加発注

ちょうど指定場所の商店に荷下ろしをしていたグラーフェン中佐の耳にも2回の爆発音が聞こえていた。一回目の爆発音も二回目の爆発音も日本の倉庫がある方向から聞こえてきた。


「ニシヤマさん……あの爆発音、一体なんでしょうかね?」


「なんとなくですが、弾薬集積所の爆発音に似てますね。それも2回目の爆発音も同様に感じました。これはもしかすると……」


現時点でグラーフェン中佐が日本の倉庫から持ち出して指定場所に運べた武器は2,000丁程だった。これはザムセンに潜む反帝国組織に引き渡す量としては圧倒的に少ない。ロトヴァーンの艦隊から運ばれてくる5千人の兵力は全て武装済みではあるが、ザムセンには1万人以上がこの武器と弾薬を待っているのだ。だが、先程の爆発音からすると倉庫に残っていた武器が失われた可能性が高い。


「誰か、爆発音がした所を偵察可能な人は居ますかね、グラーフェン中佐?」


「そうですね、あの辺りを監視している者も居た筈だ。早急に人を手配しよう。」


こうして監視をしていた者に確認を取った所、帝国軍の弾薬庫が爆破され、その余波を受け近い場所に建っていた日本の倉庫も爆発した、そして周辺域には直ぐに帝国軍の調査隊が入り浸り、あちこちを調べ始めたとの情報を得た。西山としては、倉庫の爆発も不味い事だが燃え残りや破片によって日本が武器をガルディシアに密輸して集積した事実が漏れる事が最大に不味い。


「予定通りには行かないって事だよな……」


西山は独り言ちた。だが、西山が負った任務は日本政府とは関わりの無い体で武器弾薬を反帝国組織に渡し、それらを以て帝国の国体を強制的に変更する事への援助なのだ。日本の倉庫に入れ、そして爆発して雲霧四散した武器の代りを早急にここに届けなければならない。


「カッコウリーダー、こちらカッコウチャーリー……状況はザムセンに運んだ武器弾薬を焼かれ銃器足りず。至急2万丁の武器弾薬の輸送を要請。」


「こちらカッコウリーダー。2万丁って……西山君、どういう事?」


「反乱軍の工作で帝国軍弾薬庫が爆破された様なんですが、そのとばっちりを受けてこちらの武器を収めていた倉庫も誘爆した模様です。こちらに武器送れますか、高田さん?」


「困りましたね……トラックを手配して輸送可能なのは搔き集めても1万丁程ですね。」


「それで助かります、どうやって送りますか?」


「エウルレン街道をそのままトラックで輸送しましょう。ちなみにザムセンの門は既に反乱軍に落ちていますが、もうその部隊は移動して周辺には帝国軍は居ないのですよ。だからザムセンの門までは輸送可能でしょう。上空からの監視にも何も引っ掛からないですし。ただ、移動時間は6時間程度を見て欲しいですね。」


「了解しました。それではザムセンの門で受け取ります。また、後程。」


直ぐに西山はグラーフェン中佐に向き合うと追加の武器入手の件を告げた。


「倉庫の武器は入手不能と判断します。今、別口で武器1万丁を手配しましたが、到着は6時間以上はかかると思います。到着はザムセンの門ですので、受け渡しに関して指定場所の変更をお願い出来ますか?」


「え、それは…ザムセンの門には帝国軍の守備部隊が居るのではないだろうか?」


「その守備部隊は潜入した反乱軍部隊によって既に制圧されています。ただ、その部隊はそのままザムセンに侵入して破壊工作をやっているみたいですね。恐らく倉庫の爆発もその連中の仕業でしょう。」


「ああ、なるほど…わかった。アルスフェルト伯爵に報告してくるよ。6時間後だな?」


「ええ、6時間後にザムセンの門で。」


その潜入した反乱軍部隊、レティシア大隊は真っすぐに帝国陸軍司令部に向った。しかも事前に偵察した時よりも帝国陸軍司令部周辺での守備兵力は手薄だった。この状況を見てレティシア少佐は司令部に対する攻撃を強襲に切り替えた。司令部にほど近い場所で銃声が鳴り響き始め、残った司令部守備兵達は果敢に抵抗した。しかし、大幅に兵力を引き抜かれていた兵達は、次第にレティシア大隊に押された


「陛下、こちらに退路が御座います。お引きください。」


「馬鹿な、ルックナー! ここは帝都ザムセンの、そして第一軍の司令部だ。我等がここで引いてどうする?」


「然し乍ら、敵はレティシア少佐とその配下の者、それに数年来行方不明だったブランザックの英雄と言われたクルト少佐の姿も敵軍に見えます。銃撃戦なら兎も角、懐に入られたなら非常に危険です!」


「なんだと、クルト・ヴェッツェル少佐か!?」


ドラクスルは以前、クルト少佐による一家惨殺裁判で、通常は死刑になるであろう彼の存在を隠蔽し生かした件について関与していた。だが、久しぶりに聞いたこの名前は自分に対して弓引く反乱軍に属し、自らを窮地に追い込んでいた。良かれと思ってした事も良い結果に結び付く事は余り無い。そこには一方の意思しか存在しないからだ。だが、今はそんな事を言う暇も無かった。外の状況を見に行った兵が飛び込んで来たからだ。


「そ、外の兵は全滅しています。あとは屋内に残った兵のみです。」


「すると既に包囲もされておるな。それではジタバタしても始まらん。大人しく座っておれ、ヒアツィント。」


帝国陸軍司令部では弾薬庫爆破によって破綻に直面した補給を何とかする為に、ザムセン港に係留している第一艦隊に積んでいる武器弾薬を回収する為に司令部を防衛していた部隊の殆どが出払っており、しかも残りの部隊を爆発の原因調査に派遣していたのだ。幾らなんでも司令部周辺が手薄過ぎる事に危機感を覚えたイエネッケ少将は、連射銃大隊の本部中隊を司令部近隣に呼んでいた。連射銃大隊は、司令部を包囲しようとしていた反乱軍のその更に外周よりレティシア大隊に対して攻撃を仕掛けた。司令部の建物に侵入しようとしたレティシア大隊を連続する銃撃によって釘付けにした。


「貴様等っ、この反逆者共め! 大人しく降伏しろ!」


「降伏だと?これは面白い冗談を聞いた。何時までそんな口が叩けるかな?」


「貴様等の思いも寄らぬ新兵器で固めた我等連射銃大隊の名に懸けて。降伏せぬなら殲滅だ。」


「我等にも懸ける名があるんでな。降伏なんぞは死んでも考えんぜ。」


「ぬ……なるほど、レティシアの部隊か。相手にとって不足無し!」


双方で遮蔽物に隠れながら戦場のちょいとした挨拶をしていたジーヴェルト軍曹だったが、相手の装備は何時ぞやに見た例の連射する銃だ。


「といっても例の連射銃か。ちょいとばかり厄介だな。ブルーロ大尉、どうします?」


「あんまり時間も掛けられん。モタモタしていると直ぐに包囲されて終わりだ。俺達は右手から陽動かける。お前等は手榴弾で注意を引き付けろ。少佐とクルト中尉が左から切り込む。ギュンターの部隊はレティシア少佐とクルト中尉を援護しろ。」


「おう!」


司令部屋内でも、連射銃大隊本部中隊が駆け付けた事で一気に空気が変わった。だが、司令部敵襲の報を受け、一部の護衛と共に前線から駆け付けたイエネッケ少将は、皇帝ドラクスルへ脱出の要請を重ねていた。


「陛下、今が好機です。連射銃大隊が救援に駆け付けた今、状況次第で脱出しましょう。」


「イエネッケ、貴様まで何を言う。連射銃大隊で制圧可能であろう?」


「不測の事態が考えられる場合は、最悪の状況を想定して動きます。陛下、脱出の準備を重ねて要請致します。」


「イエネッケ少将、貴公の臆病癖は全くどこでも顔を出すな。」


「茶化すな、ヒアツィント少将殿。相手はレティシアの部隊だ。念には念をだ。」


その時、司令部近くで大きな爆発が起こり、司令部の一画が崩れ落ちた。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、弾薬庫の火災じゃ簡単に調査に入れませんけどね… 1週とかしないとは入れないのでは…? それ以前に消防制度と機材がどうなってるのかですな… そして、皇帝陛下、玉体をまず守るという危機管…
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