4_73.第九歩兵師団の突進
ザムセン中央をザムセンの第二防衛線を後方から奇襲攻撃して片翼包囲を企画していた反乱軍第九歩兵師団は、正体不明の敵との交戦を避けて後退していた。その後、同じくロトヴァーンの第二艦隊から艦砲射撃を受けた第八歩兵師団とヴァント前面で合流した。
「オームゼン少将、正体不明の敵とは何だ?」
「ハルメル中将。我々は森で接敵したが、相手を全く確認出来なかった。敵は森に潜んで大量の罠を仕掛けたうえで牽制の攻撃を仕掛けてきた。その為、三個中隊を派遣して進路を啓開しようとした。以降派遣した三個中隊からは未だ連絡は無い。だが銃声は殆ど聞こえないのだ。恐らくその敵と交戦中であったのだろうが……」
「それ程の戦力が森に潜んでいるという事か……こちらは海兵陸戦隊と第八歩兵師団で海岸線の第二防衛線まで突破を果たしたが、ロトヴァーンの艦隊が現れてヴァント港の第三艦隊を攻撃し、艦隊が行動不能となった挙句に、艦砲射撃によってここまで後退というザマだ。」
「むぅ……第二防衛線とやらはどうなっているのだ? 突破は不可能なのか?」
「防衛線の突破は不可能では無いだろうが、沖に居るロトヴァーンの艦隊が厄介だ。奴が居る限り被害が馬鹿にならん。完全に防衛線に取り付いて乱戦を挑めば、ロトヴァーンも海岸を撃つ事は出来んだろう。だが、その手前の段階で相当な被害を覚悟せにゃならん。」
「そうか……例の砲艦から降ろした臼砲も射程が短いしな。とても沖に居る艦船を狙える程でも無いだろうしな。」
「ああ、あの臼砲か?あれはロトヴァーンの艦砲射撃によって磨り潰されたわ。」
「なんと……これからどうする、ハルメル殿?」
「どうするもこうするも、儂は反逆者として処刑される気は無いぞ。まだ何か手はある筈だ。手持ちの札が無いなら、作り出すまでだ。」
「だがなぁ……沖の艦隊はどうにも出来んだろう。森からの侵攻に主力を切り替えるか?」
「まだ、切り札は1枚残っておる。レティシア大隊の後方攪乱作戦なんだが……」
「いや、それは……このまま我々が海岸を突破出来なければ、レティシア大隊も多勢に無勢だろう。こちらの圧力が無ければ結局戦力が連中に集中してしまうぞ。」
「そんな事は分かっておる。レティシア大隊が後方攪乱に出るまでには連中の防衛線に取り掛からねばならんのだが、如何せん艦隊をどうにかせん事には…あたら戦力を磨り潰す事になろう。」
「やはりそこに戻るのか……敵の第二防衛線から戦力は前進しているか?」
「そうだな。海岸線で我が方の二個連隊を包囲殲滅した敵第三個師団がそのまま進出し、今はザムセン東の第一防衛線までを奪還された。そこからは連中は前進してきては居らん。恐らく艦砲射撃によって方を付けようとしているのだろうが…ああ、そうか。つまり艦砲射撃を受けぬようにするには乱戦状況に持ち込めという事か。」
「そうだ。しかも我々と連中の兵力差は未だ我が方有利な状況だろう。であるなら、再度敵の防衛線を乱戦に持ち込んで艦砲射撃を封殺し、防衛線を奪回した上でザムセン市街に入れば、流石にロトヴァーンも市街地は撃てぬだろう。ともかく第一防衛線を突破した上で、第二防衛線に一気に直ぐに取り付くのだ。艦砲射撃を受ける前に。」
「貴公の兵力と海兵陸戦隊を合算するならば、それも可能だな。よし、全戦力を前面突破に集中して再度防衛線を抜くぞ。」
こうして反乱軍はヴァントの手前まで後退した事によって戦力の再編が意図せず行えた。その結果として再度の第一防衛線への攻勢を企画した。攻勢の先端は第九歩兵師団が担当し、両翼を第八歩兵師団と海軍陸戦隊が構成する巨大な矢じりとなって、帝国第一軍が奪還したばかりのザムセン東の第一防衛線へと殺到した。
だが、反乱軍が乱戦を挑んで第一防衛線に殺到してもロトヴァーンの艦隊は一切の砲撃を行わなかった。反乱軍にしてみると、乱戦の結果としてロトヴァーンの艦隊が撃てなくなった、との判断をしていた。だが、帝国軍側としては、味方諸共突進する反乱軍の先鋒である第九歩兵師団を吹き飛ばす様に要請していたにも関わらず、やはり帝国軍側からの発光信号には全く第二艦隊は反応しなかったのだ。
「一体、ロトヴァーンの艦隊は何をしているのだっ!!」
「第二艦隊、依然として発光信号に反応ありません。」
「何を考えて居るロトヴァーン……まさか彼奴目も裏切り居ったか!?」
「何等かの問題が発生している可能性もあります。引き続き信号送ります!」
ザムセン東の砲撃によって塹壕が埋まった防衛線にみるみるうちに殺到した反乱軍第九歩兵師団は、あっという間に第一防衛線を突破し、そして更にその突進は止まらず、帝国軍右翼海岸線の第一歩兵師団と左翼の第二歩兵師団の間隙を埋めていた第三歩兵師団が守る防衛線を突破し、第二防衛線の砲兵陣地前面に展開した。運が悪い事に、砲兵陣地の野砲は前線が前進した事により移動の準備中だった為に、前面に展開した反乱軍第九歩兵師団に対して有効な打撃を与える事が出来なかった。慌てて砲の準備をしている間に散発的な攻撃は、あっという間に本格的な侵攻となっていた。
「陛下! 敵第九歩兵師団が目前に迫っております。連射銃大隊出撃の許可を下さい!」
「一体どうしてこんな事に…ロトヴァーンとは未だ連絡がつかんのか!! ええい、連射銃大隊で敵の侵攻を食い止めろ!! ザムセンに反乱軍を入れるな!!」
「ありがとうございます、直ぐにブレーゼン大佐に連絡だ!連射銃大隊は早急に敵反乱軍先鋒を急襲し、敵の侵攻を頓挫せしめよ!」
その時、司令部には前線とは反対側の方から巨大な爆発音が聞こえてきた。そして更に巨大な爆発音が続いて発生したのだ。
「陛下!!だ、弾薬庫が爆破されました!!」
「なんだと!? 敵の仕業か!?」
「不明です! ですが……大変な事に、ニッポンの倉庫も影響を受けて……」
「ま、まさか……に、二度目の爆発音はそれか!?」
「はい、弾薬庫爆発後、とんだ破片か何かによってニッポンの倉庫が被害を受け、それにより爆発しました。弾薬庫よりも大きく爆発したのは理由が分かりませんが……」
「これは不味い事になったかもしれんぞ……確か、通信設備修理の為の機材搬入を行っていた筈だ。直ぐにニッポンに連絡を取れ!不幸な事故だと。ニッポン人に被害者はいないのか?」
「直ぐに調べます!」
幸いな事に日本人の被害者は居なかったが、倉庫に潜んでいた作業員達と衛兵二人は爆発に呑み込まれて全員が死亡した。だが、その倉庫の中に人が居る事など誰も知らなかった。そして二度目の爆発によって、第三勢力たるアルスフェルト伯爵の反帝国組織用の武器弾薬の残りも全て吹き飛んだのだった。
お待たせいたしました。
遅くなりまして申し訳ありません。