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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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71.集結するレティシア大隊

反乱軍レティシア大隊のクルト中尉と40名の第一小隊は、現在ザムセンの門手前50km地点に居た。彼等は移動の休憩を挟みつつ一直線にザムセンの門を目指していたのだ。だが、その彼等の傍にも不穏な音が聞こえて来た。


「かなり後方ですが爆発した音がしましたね、クルト中尉。」


「ああ、そうだな。厄介だな…だが、まだ距離があるようだ。急いで先に進むぞ。」


クルト中尉の決心にはブレが無かった。兎に角戦闘を避け、自分が預かった戦力を欠く事無く、目的たるザムセンの門に辿り着く事。それのみに集中した行動を取っていた為、クルト中尉らの一行は遂にエウグスト解放軍との接触はザムセンの門に辿り着くまで発生しなかったのだ。


だが、彼等が辿り着けたのはギュンターやマイヤーの抵抗のお陰でもあった。クルト中尉の第一中隊と、それを追いかけるマイヤー中尉とギュンター中尉が選抜した200名のザムセン移動部隊との距離は約20km程だった。だが、このザムセン移動部隊は動向がエウグスト解放軍のベール達に把握されており、常にベール達遊撃隊の攻撃に晒され続け、振り切る事が出来ない。この移動部隊の中には既に撃たれていなくても移動について行けなくなり脱落する者も出始めた。しかし、彼等にも幸運は訪れた。それはベール達遊撃隊の弾切れだった。


「ハァハァ……おい…マイヤー……攻撃が止んだな……」


「ああ……敵の圧力が消えた……奴ら引き返したか?」


「一旦休もう……おい、ネール曹長!全員集めろ!!一旦休憩だ!」


「了解です! 全員集合だ! 全周警戒のまま休憩!」


「それと何人残ったか数えろ。」


改めて人数を数えてみると、たった10kmの移動だけで既に半数以上が撃たれたり動けなくなったりで落伍しており、ザムセン移動部隊の総数は既に100を割っていた。皆、肩で息をしており疲労の色が激しい。だが、この場所で何時までも休む訳にも行かず、数分後にギュンターは意を決して移動を宣言した。マイヤーとギュンターの移動部隊もまた、その後はザムセンの門までは攻撃を受けずに辿り着いた。


ベールとストルツのエウグスト解放軍は限界まで攻撃した上で足止めを確認して後退する予定だったが、思いもよらず彼ら反乱軍が反撃せずに走り続けた為に、それに付き合う形で同様に走りながらの射撃となり、思ったよりも敵の数を減らせる事もなく弾切れとなってしまった。上空からの情報で、敵の残数を確認していたが予想を下回る結果に落胆するベール達だったが、エウルレン街道の回収地点まで戻った上で回収車両によってマルソーまで戻っていった。


そして遂にザムセンの門では、レティシア大隊と後続の森林踏破部隊が合流した。門を占領したレティシア大隊先遣隊の60名、先行移動していたクルト中尉の40名、そしてギュンターとマイヤーの95名である。


「総勢200名か…思ったよりも少ないな。」


「すいません、俺達がしくじりました。」


ブルーロ大尉の独り言に、ギュンター中尉とマイヤー中尉が申し訳無い顔をしながら謝った。そもそも先に移動したクルト中尉の部隊は全くの無傷だったのに、ギュンターとマイヤー達は兵力の半分以上を失って、しかもリンデマン大尉と一部の兵力を森の中に置き去りにしてきていた。


「ああ、戦争だからな。そいつは今言っても仕方が無いだろうさ。それに敵はエウグスト解放軍かニッポン軍かどちらか分からんが、捕捉も出来ずに攻撃を受け続けたんだろ? この程度で済んで良かったのかもしれん。」


「え、なになに?ニッポン軍来たの?」


「あ、レティシア少佐。いや彼等が相手にしていた正体不明の敵について考察していた所です。」


「ふーん、そうなの? ま、いいや。取り合えず先にやる事済ませちゃいましょ、ブルーロ。」


「そうですね。よし、士官集合! 今後の作戦を説明する。」


レティシア大隊は、今や定数の半数以下である1個中隊と2個小隊の規模だった。だが、彼等がこれから行おうとしているのは、帝国第一軍の補給線への攻撃、そして弾薬庫の破壊、更には皇帝ドラクスルの捕縛だった。だが補給線への攻撃は、既に前線に程近い所まで集積が済んでいるだろう事に加えて、兵力が足りなさ過ぎた。そこで当初の目的を変更し、弾薬庫の破壊とドラクスルの捕縛を目的としたのだ。問題はドラクスルの居場所なのだが、恐らく陸軍司令部の方で作戦指揮を取っているに違いない。とするならば、帝国第一軍陸軍司令部への潜入をクリアしなければならない。現在、ザムセン東で戦闘中である事から、それほど兵力は残っていないにしても、予備兵力がどの辺りに置いてあるかによって行動は変わってくる。そこで大隊から何人か斥候を立てて、情報収集を行う事にした。


ブルーロはザムセンの門を守備していた兵の軍服を剥ぎ取っており、潜入任務を行う兵達に渡した。彼等はザムセン市民を装った者達と、軍服を着た上で弾薬庫の状況を調べに行った者、そして同じく軍服を着て陸軍基地に潜入する者達に別れて行った。再び、全員が無事に情報を収集した上でザムセンの門に再び集合し、集めた情報を次々と集約していた。


「現在ザムセン東の防衛線は帝国第一軍が押している状況だ。一度第一防衛線を突破したらしいが、再び押し返され相当な被害が第八歩兵師団に出ている。それと第二艦隊がロトヴァーンの艦隊にやられて無力化しているようだ。それが関係あるかどうかは分からんが、こちらは砲艦しか動かしていないらしい。このロトヴァーンの艦隊が海岸線一体を掌握している。」


「町の状況は皆、家に閉じこもっている。特に何かの動きは無いが特筆する事は無かった。」


「予備兵力の所在は一つに新設の連射銃大隊、こいつが第一軍左翼で後方待機していて全くの無傷だ。戦闘は第一軍の第一、第二師団が主力、第三師団が定数割れだが第一の予備軍扱いだ。それと予備兵力としての扱いが妥当かどうかは分からんが、第一騎兵師団が健在だ。戦場には全く出ていないらしい。」


「弾薬庫周辺は警戒が相当に厳しい。それも敵がそこまで到達する可能性を考慮して、かなり兵を配置している。当然といえば当然だが、そこを抑えられると帝国第一軍は身動きが取れなくなるからな。それに弾薬庫を分散するには時間が無かったらしく、弾薬補給の要はその一か所のみだ。ここを抑えれば第一軍は手持ちの弾薬のみとなり継戦能力を失うだろうな。」


「陸軍司令部は逆に兵の配置が薄かった。殆どが戦場に出払っているんだろう。精々が中隊規模の部隊しか居ない。そしてドラクスルの所在だが、数日前から陸軍司令部に張り付きだそうだ。ただ、陸軍司令部に程近い場所に連射銃大隊所属の本部中隊が控えている。これは厄介かもしれん。」


「ふーむ、大体の動きは掴めたが…やはりこちらの戦力が足らんな。どれを優先する、少佐?」


「そうね……弾薬庫を先にやりましょう。ともかくもそこを爆破してしまえば、第一軍は完全に補給が断たれる訳だから。」


「そうだな。他に集積所がどれほど作ったかは分からんが、今も頻繁に出入りしているとなると根本を抑えれば、その先は枯れて行くだろうな。よし、では第一目標は弾薬庫、そして第二目標はドラクスル捕縛、これで行こう。」


「問題は、弾薬庫を先に爆破すると途端に司令部の警戒度合が跳ね上がる事なのよね。可能であれば時間差無しにドラクスル捕縛に動ければよいのだけれど。」


「そんな戦力は無いよ、少佐。何人かでドラクスルの所に切り込みたいという話かい?」


「どうしようかな。クルト中尉、あなた付き合って貰える?」


「命令とあらば、行きましょう、レティシア少佐。」


「そっか。じゃ切り込み隊を選抜しましょ。20人程欲しいわ、ブルーロ大尉。」


「おいおい、本気かよ? そりゃほぼ決死隊だぞ? 志願する奴も居らんだろ!?」


「えー……みんな、楽しいわよ? 居ない? 誰も?」


レティシア少佐を目の前にしても、大隊の皆は流石に志願しなかった。幾らレティシア少佐とクルト中尉が強いといっても、中隊規模の防衛戦力を持つ場所にたった20名で切り込む奴など居なかったのである。


「えーー…みんな、ノリ悪いーー…」


結局、レティシア大隊は弾薬庫の攻撃を優先し、ドラクスル捕縛は弾薬庫の攻撃成功を以って行う事となった。

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