69.ドラクスルの元に来た報告
皇帝ドラクスルは無力化した筈の敵艦隊からの攻撃の報を受け、自分の策が既に見破られた事を知った。彼我の戦力差に加えて艦隊からの攻撃、恐らく艦隊は東方都市ヴァントから来る第三艦隊だろう。とするならば少なくとも戦艦三隻からの艦砲射撃は脅威以外の何者でもない上に帝国軍側には対抗策は全く無い。ザームセンめ、彼奴等そこまで考えての反乱だったのか、と既に敗北を覚悟したドラクスルは前線指揮をルックナーに任せて居城に引き篭もった。だが引き篭もったドラクスルに急ぎ来た伝令からの報告は意外な物だった。ロトヴァーン伯爵の第二艦隊がハイントホフ公爵の反乱軍第三艦隊が駐留するヴァント軍港を急襲し、全ての艦を行動不能にした模様、との報告は、皇帝ドラクスルに光明を齎した。
「ロトヴァーンめ、度重なる出撃要請にも拘らずに今迄沈黙していたのはこの日の為か!敵を騙すには味方からとは何とも小癪な奴よ! だが、未だ勝てる。これは未だ勝てるぞ!!」
息を吹き返したドラクスルは直ぐに帝国陸軍第一軍の作戦司令部へと訪れた。そこで現状の報告をルックナー中将が受け、第三艦隊の砲艦隊が未だ健在なのを知った。しかも第三艦隊の砲艦隊はザムセン中央手前の海岸で防衛線右翼側への圧力を高めつつ、浸透を企画している状況だった。
「ルックナー、これをどうする?」
「はっ、陛下。先ず戦線右翼はそのままに第一歩兵師団が守ります。その上で、戦線中央の砲兵部隊によって敵反乱軍の砲艦隊を撃滅し、同時に左翼を第二歩兵師団の突進によって海岸線の右翼陣地に迫る反乱軍第8歩兵師団を包囲殲滅します。」
「ふむ、余も概ね同じ事を考えた。だが、第一歩兵師団の守る右翼が突破された場合はどうする?」
「第一歩兵師団の後詰で第三歩兵師団が現在後方待機しております。それと、後退した第一歩兵師団と右翼陣地は、中央陣地の砲兵による十字砲火が期待出来ます。」
「そうか、良い。ルックナー、それで進めよ。それとだ。ロトヴァーンとの連絡は可能なのか? あ奴の艦隊があれば、例の反乱軍の砲艦隊なんぞ物の数では無いだろうが。」
「未だ連絡可能な場所にロトヴァーンの艦隊は来ておりません。連絡可能となり次第早急に。」
「ふむ、その内にこの辺りにも来るだろうて。来次第すぐに連絡を回復せよ。反乱艦隊撃滅の褒賞を渡さねばならんからな。ロトヴァーンの奴め、中々小癪な真似をしおる。」
皇帝ドラクスルは、好転する状況に上機嫌で話していた所に、港の方から伝令が来た。作戦会議中ではあるものの、伝令内容から判断するに流石に無視出来なかった現場指揮官は、そのままルックナー中将に伝えるように伝令を通した。
「なんだと? 今、この時期に、ニッポンから輸送船だと?」
「はい、"通信機器関連修理に関する機材及び人員を送る、受け入れたし"との事です。」
「むぅ、それは確かに重要ではあるが、何故今なのだ? その船は今どこに居る?」
「通常の指定受け入れ港の方に接岸して待機中です。来た船は指定の入港許可書を所持しており、何時もニッポンから来る際の輸送船です。輸送船の船長は、早急に指定の倉庫に荷物を搬入した後は、この状況なので早急に荷を置いて帰還したい、と話しております。」
「いっその事、反乱軍に撃沈でもされればニッポンもこの戦いに引き込める物を。ニッポンからの輸送船でしかもこちらに利する物を断ろうもんなら、どんな難癖を付けられるか分かったモンでは無い。とっとと荷揚げさせろ。だいたい、今はそんな事に構っておる暇は無い。宜しいでしょうかな、陛下?」
「あ? ああ……そうさせろ。だが……」
ドラクスルは何かが引っ掛かっていた。
こんな時期に来たニッポンからの輸送船……何度もニッポンに要請したのに何もしてこなかった通信施設へ、今更の修理機材の搬入……だが、指定の方法と手順で来港し入港許可証を持つ、何時も来るのと同じ輸送船である事。輸送船一隻で何かをするには幾らニッポンが強大とは言え無理過ぎる。それにその機会はロアイアンで既にあった筈だ。であるならば…考え過ぎなのだろうな、きっと。
「だが……いや、何でも無い。ルックナー中将、任せる。」
ニッポンからの輸送船の件は直ぐにドラクスルの意識から外れ、帝都ザムセン第二防衛線の戦いに再び集中した。こうしてザムセン港の指定倉庫にはニッポンの輸送船から降ろされた大量の武器弾薬がそのまま荷揚げされ、その様子は港周辺を監視していた反帝国組織のグラーフェン中佐の配下の者達に確認された。グラーフェンは連絡を受けると直ぐに配下の者と共に指定倉庫を訪れて帝国軍の警備兵達に通行許可証を見せ、倉庫内のニッポンからの通信機器修理の為の要員と接触し、彼等と合流した上で指定倉庫内で待機した。後はどうやって、この武器弾薬を持ち出し、反帝国組織の面々に引き渡すかの方法だった。そこでニッポンから来た修理要員を名乗る男がグラーフェンに聞いた。
「グラーフェン中佐。ここにトラックはありますか?」
「確か、発電所建設時に何台かがここに派遣されてきた筈だ。恐らく発電所か、この港のどこかにあると思う。」
「港か発電所ですね…発電所近くは現在近寄れないでしょうね。港の中であれば、どこでしょうかね?」
「荷物を平積みで集積した場所がある。ここから西に2km程の場所だが、そこに恐らくあると思う。」
「そうですか…ちなみに誰か運転可能な人は?」
「申し訳ないが、運転出来る者はここには居ないんだ。運転手は殆どがニッポンから派遣されてきた人ばかりで、僅かにエウルレンで免許を取得した者達が居る程度なんだ。」
「なるほど、分かりました。では車を確保してこの倉庫に乗り付け、荷物を乗せて指定の場所に行く、その為にはトラックを運転出来る運転手の確保が必要。指定の場所はどこにありますか?」
「ここから北に3kmの市街だ。その周辺に集まって居る。」
「分かりました、それでは私が運転します。誰か助手席で道を教えて下さい。」
「私がやります。直ぐに行きましょう!」
「グラーフェン中佐、宜しいですか? 改めて。私は西山とお呼び下さい。所属を申し上げる事は出来ません。それと皆さまと似たような恰好に偽装しますので、少しお時間を頂きたい。」
「了解しました。」
こうしてグラーフェン中佐は日本から来た謎の人物である西山と名乗る男と共に、トラックの調達に向かった。
残り11話で収まる気がしない…




