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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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66.敵旗艦ブーヘンベルグを狙え!

ロトヴァーン艦隊の装甲艦と駆逐艦を初撃で沈めた反乱軍のハイントホフ艦隊の幸運も此処までだった。既に駆逐艦と装甲艦は全滅し、反撃を行っているのは戦艦三隻のみとなった。しかも全ての船は入船で係留されていた為、使用可能な砲は後部砲塔のみに限定されていた。つまり、戦艦ヴォールガルテンの300mm連装砲1基2門、戦艦エールヴァルトと戦艦エッシェンローエの240mm連装砲1基2門のみである。対するロトヴァーンの艦隊は戦艦ブーヘンベルグの240mm連装砲が3基6門、戦艦グロースヴァイルの220mm連装砲が3基6門、2隻の装甲艦が共に150mm連装砲が各3基計12門、そして小口径の駆逐艦隊だった。ロトヴァーンは2隻が沈められた瞬間に、装甲艦と駆逐艦を下げた上で戦艦の射程ぎりぎりまで艦隊を後退させた。そして戦艦エールヴァルトへの砲撃に集中し始め、港内のエールヴァルトの周囲に巨大な水柱が何本も立ち、陸に流れた弾は建造物を完膚なきまでに破壊した。しかもハイントホフの戦艦群からは、周辺で破壊された艦や建物から立ち昇る煙が視界を遮り、ロトヴァーンの艦隊が見えない。


「煙で敵艦が見えなくなりました!!」


「ちっ、煙が流れるのを待て!各砲塔発砲中止!!出航準備はどうか!?」


反乱軍第三艦隊旗艦ヴォールガルテン艦長オステルカンプ大佐は発砲中止を命令したが、当然相手はそれに付き合う必要など無い。その為、こちらが照準出来ない状況となってはいるが、ロトヴァーンの艦隊は砲撃を続けていた。


「あと1時間で出航出来ます!」


「エールヴァルトとエッシェンローエはどうか?」


「確認します。……同じく1時間で出航との事です!」


「よし、あと1時間を乗り切る。出港準備が完了次第出港、ザムセン沖で連中を仕留めるぞ!」


その時1発の命中弾がエールヴァルト艦後方に当たった。この弾は即座に致命的な状態にはならなかったものの、艦後方の破孔から海水が浸水し始めていた。だがエールヴァルトはある程度乗組員を下船させていた事から、復旧の為の人員が足りなかった。そして流入した海水は隔壁で止める事も出来ずに機関室にまで達し、遂に水蒸気爆発が発生した。水蒸気爆発によって艦部後方は破壊され、そして後部砲塔も発射不能となった。


「エ、エールヴァルト後方爆発!!」


「何故だ!!先程の命中弾は致命傷では無かった筈だぞ!?」


「恐らく流入した海水による水蒸気爆発かと……保安要員が圧倒的に足りません。エールヴァルトから通信!我攻撃能力喪失、との事。」


「敵ロトヴァーン艦隊、エッシェンローエに攻撃集中!!」


「くそっ、反撃しつつ出港準備を急がせろ!!」


「敵を確認出来ません!!射撃不能!!」


新たにエールヴァルトから立ち昇った煙はヴォールガルテンとエッシェンローエの周辺に濃く漂い、これら2隻の戦艦から視界を全く奪っていた。エッシェンローエ周辺には水柱が何本も立ち昇り、その度にエッシェンローエは大きく揺れた。相手を視界に捉えられない歯がゆさにオステルカンプ大佐は唸り声を上げた。


「出港準備は未だかっ!!」


「大佐!出港準備完了です!!エッシェンローエも出港準備完了しました!」


「よし、機関後進全速!!離岸後面舵一杯、奴等に眼に物を見せてくれる。行くぞ!!」


「あ、エッシェンローエが! エッシェンローエに命中弾確認!」


だが、この時ヴォールガルテンの乗組員はほぼ乗船済みだったが、エッシェンローエは全員が乗船していた訳では無かった。港内でゆっくりと後退し、そのまま右に回頭し始めた。だが、船がロトヴァーンの艦隊に対し真横を向いた瞬間に、エッシェンローエは集中砲撃を受けた。一度目の斉射で交叉し、二度目の斉射で数発の命中弾を受けた。エッシェンローエは命中弾を受けつつも、果敢に反撃したが遂には浸水により艦が傾き行動不能となった。第三艦隊で健在なのは戦艦ヴォールガルテンのみとなったが、エッシェンローエが行動不能となる頃には、既に港から出て反撃体勢を整えつつあった。


「エッシェンローエ、浸水により行動不能!」


「仕方が無い、我が艦だけで連中を叩く。全砲塔敵旗艦ブーヘンベルグを狙え!」


出港し、視界を回復したヴォールガルテンはその射程にブーヘンベルグを捉えた。だが、ブーヘンベルグとグロースヴァイルはヴォールガルテン前方で左右に別れヴォールガルテンを挟撃する状況となった。ブーヘンベルグに砲撃集中する為に、左翼前方への攻撃集中の形をとったヴォールガルテンは反対側に居るグロースヴァイルを全く無視して第二艦隊旗艦ブーヘンベルグを相手にした。互いの主砲で交叉しつつ未だ命中弾が無かった両艦だったが、戦いの帰趨はロトヴァーンに上がった。戦艦グロースヴァイルの主砲がヴォールガルテン後部を破壊し、ヴォールガルテンは操舵能力と推進能力を失ったのだ。だが、操舵能力を失っても尚ブーヘンベルグへの砲撃に集中し、遂にブーヘンベルグに対して命中弾を当てたのだ。


「敵砲撃により操舵不能になりました! スクリューも喪失!」


「なんたることだ!! くそっ、かくなる上は浮き砲台として連中を沈めろ!」


「第二艦隊旗艦ブーヘンベルグに命中弾! 前部砲塔が使用不能となった模様!」


「よし、あれはもう放っておけ。ちょこちょこと煩いグロースヴァイルを狙え。」


「第二艦隊後退していきます!」


「なんだと! 逃がすか!!狙い撃て!!」


「ブーヘンベルグ、戦域から離脱!グロースヴァイルも射程外に出ます!!」


「くそっ、なんとかせんか!! 敵がむざむざ逃げているのに!!」


ヴォールガルテンは遂に最後まで沈まなかった。

だがヴォールガルテンはヴァント軍港から数キロの所で行動不能に陥っていた。港に曳航した上で修理を行うとしても相当な時間を要する事になり、ヴァントに係留されていた第三艦隊はほぼ無力化したのだった。こうして、ザムセン攻略戦の海からの要であった第三艦隊の艦船は砲艦20隻のみとなってしまったのだ。


だが、残存する20隻の砲艦から放たれた砲撃は、後にザムセンを守る帝国陸軍第一軍に対して恐るべき被害を齎した。


ザムセン中央に近い第二防衛陣地正面に誘い込まれた反乱軍の第8歩兵師団は、正面からの砲撃と銃撃によって多大な犠牲者を出した。言わばエウルレン南を彷彿とさせる攻撃にあった第8歩兵師団は、隠れる場所も無いすり鉢の中で即座に磨り潰されていった。だが、そこに20隻からなる反乱軍第三艦隊残存の砲艦隊が到着し、短い射程であっても高威力の臼砲による攻撃を帝国第一軍防衛陣地右翼に集中した。


万全の構えと思われていた帝国第一軍右翼はこの砲撃によって相当な打撃を受けて後退したが、中央の野砲陣地から反乱軍砲艦隊への反撃が行われ、砲艦隊の何隻かを沈めるに至った。ここで一旦第二防衛陣地では、戦線右翼に空いた穴を埋められないままに膠着状態となった。そして反乱軍第8歩兵師団は、戦線右翼に空いた穴への突進と浸透を企画していたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 全般に、帝国軍同士の戦いなので 部隊番号も必要とは思いますが、クーデター軍(ザームセン側)の所属か政府軍(皇帝側)の所属かがはっきり分かるように書き足される方が分かりよいと思います。
[一言] 陸戦と海戦がほぼ並行して起きる現状、これを見ると航空機って本当に戦術に大きな変革をもたらしたんだなぁ…と思う。 さて、この内戦はどの様に決着するのやら…
2021/05/12 14:58 退会済み
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