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ガルディシア帝国の興亡  作者: 酒精四十度
【第四章 ガルディシア落日編】
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65.リンデマン大尉の死闘

ザムセンの門に至る深い森の中で、レティシア大隊第四小隊のリンデマン大尉は木の窪みに釘付けにされながらも抵抗を続けていた。だが、突然丘の上に潜んでいると思われる敵狙撃兵からの圧が無くなったように感じた。その証拠に、ちらちらとヘルメットを見え隠れさせてみたが、先程まであった瞬時に撃たれるような気配は無い。


「丘の上の狙撃兵は後退したか?」


「わかりません、ただ先程迄あった素早い攻撃が無いですね……」


「ふーむ……バールベル曹長、お前の小隊で偵察かけろ。一旦後退しながら迂回して左から行け。ペター軍曹、我々の後方には第二中隊が居る筈だ。連絡を回復しろ。行け!」


果たして第二中隊の一部は第四中隊の救援に向かっていた筈だった。だが丘の上で狙撃を行っていたエウグスト解放軍ストルツ少尉の狙撃部隊は既に丘から引き払って別の狙撃拠点に移動していた。その新しい狙撃拠点から、救援に来た第二中隊を攻撃した。しかもこの攻撃は第四中隊が認識しないままに行われた。


「ティダー上等兵負傷!銃撃を受けました! 衛生兵、こっちだ!」


「なにっ!?ど、どこからだっ!?」


「分かりません!!……もしや第四中隊からの誤射!?」


「分からん、だがこの先には第四中隊が居る筈だ。そして更に先の丘には敵狙撃部隊が居る。直接はこちらを攻撃出来ん筈だ。もしや既に第四中隊は壊滅しているかもしれんな。」


「ですが、敵遊撃部隊を第三中隊が包囲に行ってます。とすると第四中隊右側面は安全になったのでは?」


「右側側面……待て、敵遊撃隊が我々を攻撃するなら右側面からだ。だが、恐らく奴等を第三中隊が攻撃しているからこちらを攻撃するような余裕は無い筈だ。この攻撃は左側から来ている。狙撃部隊は正面に居た筈だが……既に狙撃部隊は移動しているぞ。この攻撃は敵の狙撃部隊からだ。敵に新たな増援が居なければな。」


だが、相変わらず狙撃部隊の姿は見えない。視界が効かない深い森によって攻撃を受けた後で初めて攻撃を受けた事を知る状態が続いている。その時、目指すべき前方からペター軍曹がやってきた。


「第四中隊ペター軍曹です、第二中隊ですか?」


「第二中隊分遣隊だ。第四を救援に来た。第四はどんな状況だ?」


「行動可能な者は確認出来るだけで14名、リンデマン大尉も健在です。生死不明も含めて負傷して動けない兵が多数、敵狙撃兵が前方の丘の上に陣取ってましたが、既に移動した模様。」


「それでか。敵狙撃兵は既に狙撃拠点を移動していて、こちらも敵狙撃部隊の攻撃を受けた。だが良い事もあるぞ、ペター軍曹。敵の狙撃部隊と遊撃部隊は分断された状況だろう。反撃を開始するぞ。」


「すると、敵の遊撃部隊は?」


「第三が包囲攻撃を実行中だ。よし、我々は第四と合流するぞ。ペター軍曹、案内しろ。発光信号緑を上げろ。」


だが、マイヤー中尉の第三中隊は敵遊撃部隊を未だ捉えてはいない。捉えては居ないが、敵からの攻撃は受け続けている。どうにも敵には恐ろしく勘の良い奴がいるらしく、こちらの動きを察知して包囲から逃れ、しかも有効な一撃をこちらに加えて逃げ去るという途轍も無く厄介な動きをし続けているのだ。


「奴等……一体どうして……まるでこちらの動きを全部見通しているのか…?」


「マイヤー中尉、こりゃいけませんや。こっちの被害も相当だ。一旦引いて体勢立て直しましょうや。」


「そうしよう。マックス曹長、負傷者を纏めろ。第二のギュンター中尉に伝令。一旦後退して体勢を立て直す。」


こうしてレティシア大隊第二中隊ギュンター中尉と第三中隊マイヤー中尉は後退しながら合流したが、どうしても彼等はこの状況に納得が出来なかった。これだけの人数が居るにも関わらず敵遊撃部隊を全く捕捉出来ずに一方的に攻撃を受け続ける現状。まるで退路が分かっているかのように攻撃しては引いてゆく敵遊撃部隊。ここに来てようやく、ギュンターとマイヤーはクルトと同じ結論に至りつつあった。


「我々を相手にこうまで捕捉されずにこちらに反撃を続けるのは異常だ。まるで上から全ての動きを見ているかのように連中は動いている。明らかにこれは何かおかしいぞ、ギュンター。」


「マイヤー…まさか、連中はニッポン軍式装備ではあるまいな?」


「分からん……分からんが、俺達よりも確実にこの森や地形を把握しているのは確かだ。だが、それは変だ。連中は先程空から降りてきた。この森の地形に詳しい筈が無い。」


「…空から降りてきた……思い出した。例のロアイアン南のニッポン軍の基地を見学した際に、空挺部隊というのが居るという事を聞いたぞ。何でも空から降りて来て敵地深く潜入し、戦い続ける事が出来る部隊だ。そもそも航空機械が無いエウグストが空挺部隊を持つ訳が無い。あるとするならば、ル・シュテルの紋章付けたニッポン軍か、ニッポン軍に鍛えられたエウグスト軍かのどっちかだろう。」


「…とすると、今相手にしているのは最低でもニッポン軍装備かそれに準じた連中だな。…これ、勝ち目無いぞ、ギュンター。道理で捕捉出来ん訳だ。このままだとエウルレンで壊滅した第一軍の二の舞となるぞ。」


「ああ、そうだな。だが、連中相手にこのまま引かせても貰えんだろう。どこかで連中に被害を与えてから後退するのが望ましいが、そのチャンスがあるかどうかだな。」


今迄の戦闘の経緯を思い出し、二人ともそんなチャンスがあったら既に連中に打撃を加えているだろう事を思って溜息をついた。だが、ギュンターが直ぐにある事に気が付いた。


「不味い!俺達が後退したら、あの遊撃隊は孤立した第四と救援の第二分遣隊に襲い掛かるぞ。マイヤー、直ぐに第四と合流だ。合流した上でここは引くぞ!」


ギュンター中尉の判断は正しかった。

解放軍遊撃隊は自分達への圧力が減った瞬間に、孤立していたリンデマン大尉の第四中隊に向かった。既に狙撃位置を変更していた狙撃部隊と挟撃出来る位置に移動しつつあった。


リンデマン大尉の第四中隊は動ける者が14名、生きてはいるが負傷で行動不能なのは25名程だった。救援に駆け付けた第二中隊分遣隊32名と、後退に成功した上で再び第四中隊に合流した兵が15名程だ。リンデマン大尉を含む14名は、敵狙撃兵が一番最初に狙撃拠点として使っていた丘に辿り着いたが、そこには何も無く1つだけ罠が仕掛けられており、その罠に引っ掛かった兵二人が行動不能となった。だが、それが彼等の更なる苦難の始まりだった。


「なんだ、今の爆発音は!!」


「罠がありました! トローター上等兵とエップ二等兵負傷!」


「…不味いぞ、この音は…敵を呼び寄せたかもしれん。」


未だ敵の場所を捕捉していない第四中隊は、狙撃拠点だった丘を抑えれば周辺を見渡す事が可能だろうと考えていた。だが丘を抑えた物の周辺への見通しはそれ程良くない。逆に周辺からはこちらがよく見えるだろう。敵がどこかに潜んでこちらへの攻撃を意図している最中に、この爆発音は不味過ぎる。そしてリンデマンの危惧通りに、周辺の木に着弾した音がし始めた。


「どこからから攻撃を受けている! 恐らく敵は左側から狙撃しているぞ、発射光を見つけろ!」


第四中隊残余と第二中隊分遣隊の全員が伏せながら敵狙撃地点を探していたが、今度は反対側から撃たれ始めた。先程までギュンターとマイヤーを攻撃していたベール中尉の遊撃隊がリンデマン大尉の第四中隊を逆側から攻撃し始めたのだ。


「大尉! 後ろから攻撃を受けてます!!」


「なんだと!? ギュンターとマイヤーはどうした?! まさか第三中隊もやられたのか?!」


「わかりません!」


「ちっ、おい!後方に向かって白の発光信号2発上げろ! 生きていれば救援にくる筈だ。それにしてもここは不味いな。先程の所まで後退可能か?」


「既に後方の敵からの射界範囲の様です!」


「完全包囲か。だが、ここに居ても損害が増えるばかりだ。この丘を放棄する! 軍医を呼べ! 連れて帰れる者を選別する。急げ!」


「リンデマン大尉! 5時の方向は手薄です、退路確保します!」


「5時の方向か、そちらは第三中隊が居る可能性が高いな。よし、総員脱出する! 自分で動ける怪我人から後退しろ。次は動けん者だ。殿は我々が勤める。発光信号の返信あるか?」


「今の所反応ありません……あ、緑の信号確認!」


「よし!第三中隊は健在だ。こちらに向かっているぞ。上手く合流出来れば良いが……」


こうして丘を放棄し後退して合流に舵を切った第四中隊だったが、ベール中尉の遊撃部隊は執拗に攻撃し続けた。遊撃部隊の攻撃は正確無比だが、こちらは敵を捕捉する事が出来ない。一体どれ程の被害を相手に与えているのか全く分からない第四中隊は遮二無二の反撃を続けながら後退し続けた。既に半数以上が何等かの怪我を負いつつもリンデマン大尉は後退の指揮を取り続けた。そして漸くギュンター達第三中隊の先鋒と接触した頃に、リンデマン大尉は狙撃を受けた。

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